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ゼーラントの日々 ② カンパーランド
カンパーランドのカンパーは「キャンプする人達」が語源ではないかと
中尾さん。
のどかな地平線。ずっと畑、どこまでも畑。うんと向こうに風車の群れ。
その向こうに防風林、そして浜辺。
お隣りの庭には馬とアヒルがわんさか群れている
クラウスの別荘は、敷地の正面に置かれた朽ちた舟が目印。
まるで暗礁に乗り上げたような小舟。
昔、弟のトマスがどっかから運んできたという。
庭に入ってまず驚くのは、これまた朽ち果てたオルガンふたつ。
廃された教会からクラウスが貰い受けたオルガン。
その後案内してもらったスタジオの中にもオルガンがあったが、
どれも歪んでいる。
浮いた蓋の隙間から見える鍵盤はクジラの歯のよう。
おずおずと手を伸ばしてみたが、音は鳴らなかった。
咲き乱れるライラック、白い小花、エニシダのような花、
そしてあのゴールデンレイン、、、。
色とりどりの花満開の庭にジャパンドルフの皆がいた。
ようこそゼーラントへ。
ようこそ、ライラックの季節に。
庭に集う仲間達の傍らに、砕けたガラス瓶の山があり、
これは誰の作品?とミキちゃんに訊ねると、
これはオブジェではなく、クラウス達が飲んだビール瓶や、
ワイン瓶が、冬の氷点下で粉々に割れたという。
誰かによる
とある行為が、
第三者による
巧まざる無作為の、
あるいは何らかの自然な作用で、
ひとつの何かが完成するという話を聞いたことがある。
これはそうした事象のひとつだ。
こうなる為に空き瓶は置かれ、自然のままに凍り、砕けて、完成した。
館の手前に納屋(スタジオ)がある。
その上に大枝が乗っかっていて、みしみしと音がして恐い。
この大木はクラウスが亡くなった冬に折れたのだという。
この冬には他にもいろいろと不思議なことがあったとカズくんがうつむく。
館に入るとまず台所、奥にリビング。円卓とクラウスが座っていた椅子、
クラウスの書き留めた覚え書きもそのままに。
デュッセルのお家同様、亡くなった日の状態で残されている。
この館の2階の寝室でクラウスは亡くなった。
荘園のなにもかもを封じ込めて、緑の館の貴婦人(ミキちゃん)は
時間を止めた。
③、④、⑤に続く