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二次元結婚を決めて三か月、困ってることと良かったこと

私はアロマンティック/アセクシャルというセクシャリティです。
プラス、恋愛感情を向けられると相手のことが嫌いになってしまうという地雷があり、悩んでいました。
悩んだ末、恋愛から逃げるために出した答えが、二次元キャラクターと結婚することでした。もし何かあっても、「私、結婚してるんだよね」と言える。それによって得られる安心感によって、精神的に落ち着きました。

Q. それ、戸籍上は独身だし、事実上結婚してないし、何の意味があるの?

A. 戸籍のない相手でも、第三者の承認を得ていなくても、結婚してるって言ったら結婚してるんです!「法的には~」とか言う人はアッチあい先生の『愛しの国玉』を読んで出直して下さい!そうじゃない方も読んでください!AロマAセクの私が惚れる稀有な恋愛漫画です。


……熱くなってしまいました。

キャラクターと結婚することに対して、私は心の底から全肯定なのですが、困ってることもあります。

困ってる事

一つ目は、アロマンティックゆえ、恋愛感情というものが分からないということ。当たり前ですが……。
結婚は恋愛を経てするもの、それもフィクションのキャラクターが相手ならなおさら、そのキャラが好きで好きでどうしようもなくなった人がするもの、というイメージがあります。
私はお相手キャラの事が好きです。一生添い遂げる相手を選べと言われたらこいつを選ぶ。でも、そこに熱はなく、選べと言われなければ誰も選ばないのです。

恋愛と性交渉を伴わないでする結婚を友情結婚といい、アセクシャルをはじめとするLGBT+の方の間で行われています。
愛はなくとも、友情結婚には婚姻という法的な力があります。
一方、キャラクターとする結婚には、多くの場合強い恋愛感情による結びつきがあります。
私は……キャラクターと友情結婚したい、んですけど……。
そこには法的拘束力もなく、恋愛感情もない。
空っぽの結婚だなぁ…と思います。
中身の詰まった結婚ができないからこそ、ここに行きついた訳ではあるのですが……。


「交際期間」がないことに加えて、これまでお相手キャラとは脳内会話もしてこなかったので、お話もできません。ちょっとだけならできるけど…(筆者はイマジナリーフレンドと話せる人です→存在しない友達との思い出を語る【前編】|通学路徒歩子 (note.com)

というか、多分今後もすらすら会話できるようにはならないと思います。
これが困ってること二つ目。

会話できないのには理由があって、お相手がミステリ小説の探偵だからです。彼は私よりずっとずっと頭がいいので、凡人である私には彼の思考をなぞることができません。それができたら私が名探偵になってます。
頭の中的な話をすると、過去に私よりずっと優秀という設定を付けて生み出してしまったイマジナリーフレンドを、無理やり弱体化させることで私の中に留まってもらったことがあります。
しかし、名探偵はその頭の良さこそがアイデンティティでもあるので、弱体化させたらそれはもう名探偵ではない。なので、今のところお相手とすらすら会話できるようになる未来が見えません。
まあ、会話できない方が普通と言えば普通なのですが……。

困ってること三つ目。
「依り代問題」です。

お相手は今、私が作ったぬいぐるみに宿ってもらっています(ということになっています)。
「お相手」と呼ぶのも変な感じなのでキャラの仮名を「ぬい氏」とします。(検索でこのnoteが引っかかると恥ずかしいのでぬい氏の本名は伏せます)

ある日、ぬい氏を連れて映画館に行きました。
上映中ぬい氏をモフっていて、なんとなくぬい氏の手を掴んだところ、
「うえっ」と気持ち悪くなりました。
セクシャリティ迷子の時、なぜかおっさんとデートして、超気持ち悪かった記憶がフラッシュバックしたのです。→とにかく恋愛から逃げたい③気づいたら無償パパ活してた話|通学路徒歩子 (note.com)

映画館で突然手を繋がれたりしたら
それがアセクシャルなんです……。
まさかぬいぐるみの手さえ握れないとは。

あの時おっさんに意思のない人形のように扱われたのが嫌で嫌で……。
自分がされて嫌なことはぬい氏にもしたくない。
ぬい氏は人形なんですが……。

さらに、ぬいぐるみというカラダを持ってしまうと、ぬいぐるみ形態のぬい氏一人では移動ができません。Fセクで等身大ドールを伴侶にしている方の中には、車椅子で一緒にお出かけしている方もおられます。お相手がか弱い女の子だったら解釈的にもOKかもしれませんが、うちのぬい氏は、自分の足でどこへでも行ける、格好いい探偵なのです。
ぬい氏が実在したら、彼は私の家で好き勝手部屋をうろついたり、勝手に出かけたりするはずです。なのに、ぬいぐるみは私が構っていない間はひがな一日、部屋の安楽椅子に座っているだけ……。
この齟齬をどうしたらいいのでしょうか……。

今のところ、平日はぬい氏を連れて会社に行っています。すると、会社の駐車場にワームホールが生じ、ぬい氏の魂はキャラの体に戻って彼の職場である探偵事務所に送られ、彼はそこで仕事をするのです。するのです
という設定によって平日ぬい氏が家でネグレクトされる問題は解決しました。
しかし、休日も私がぬい氏にかかりきりという訳ではありませんから、やっぱりぬい氏が依り代に拘束されてしまう問題は残っています。

うーん。

また、朝余裕がある時は、ぬい氏と私に、二杯コーヒーを淹れたりする(実際は多めの一杯を小さいカップ二つに分けている)のですが、なんだかお供え物してるみたいだな……と思ってしまったり。
でも、飲み終わったカップを前にするぬい氏を見ると、ああ、一緒に飲んだみたいだな、と思うので、ちょっと不思議です。

そんな訳で、現状、ぬい氏と私の関係は、神と信者に近いです。
(夫と妻じゃないのかよ…。)

まとめるとこんな感じ。

  • ぬい氏が依り代に宿っていると考えることに違和感。ぬいぐるみは彼がそこに居ることをイメージするためのツールとして使うべきで、ぬい氏自身と完全にイコールとしてはいけない?(所詮キャラの似姿に過ぎない?)

  • たまに食事がお供え物になっちゃうけど、これはそのうち受け入れられそうな気がする。

  • 流暢なコミュニケーションはできないけれど、何か物事がうまくいくと、「もしやこれはぬい氏の力!?」と思う。

  • 返事はないけど一方的に結構話しかけてる。

うん。宗教だね。


良かったこと

ちょいと長くなってしまうけれど、二次元結婚を決めて良かったこと(のろけ?)も書かせて下さい。

原作におけるぬい氏の描写からは、彼もAロマ/Aセクであることが伺えます。(もちろんアセクシャルという言葉は直接は使われてませんが)。
アセクシャルの有名人としてシャーロック・ホームズの名前が挙げられることがありますが、ホームズ同様、ぬい氏も女性に全然興味がない。

なので、私は同じセクシャリティ(おそらく)のお相手と結婚した訳です。
本当は恋愛感情が分からないけど、二人で共謀してマジョリティの振りをしている。一緒にみんなをだましている。……これが嬉しい。伝わるかな。
秘密を共有してるちょっとしたわくわくがあります。

ぬい氏のアセクシャリティは、作中で「孤高」「高潔」といった格好良さを伴って描写されています。それは、「恋愛できないなんて変」「お前はマイノリティ」といった、たまに投げかけられるネガティブなイメージとは180°違うものです。「恋愛に興味がないなんて気取ってるだけでしょムカツク」という意見もあるのは知っています。でも格好つけたくてAセクやってるんじゃないし、よしんば格好いいと思ってたとして、それくらい許してくれよ、と思います……。

私がAセクのまま格好よくあれるとしたら、名探偵みたいな格好良さを目指したいです。まあ、格好いいと思って変人探偵の背中を追っていたから、私も立派な変人になってしまったのかもしれませんが。

……もちろん、フィクションの影響で私という哀れな変人が誕生してしまった訳ではないですよ。私が高校生の時唯一尊敬していた先生は、大学を留年しまくった結果在籍上限の8年に到達して排出され、その後別の大学に入り直して4年で教員免許を取って先生になった人でした。他にも尊敬する実在の変人が多数おります。

私は普通じゃない人たちに憧れて自分の進む道を選んだのに、いつの間にか自分が普通と違うことを呪っていました。

日々忙殺されると、自分が最初に見ていた夢を見失ってしまいます。
「〇〇になる」「▲▲をする」といった、文字にしてその辺に書いておける夢は、夢の表層でしかありません。夢を抱くときは、こんな風に生きたいから、~になりたい(~をしたい)という理由があったはずです。
でも、「こんな風に……」は一言では言い表せず、言葉にできない思いは月日とともに色あせてゆきます。

私にとっての「こんな風に……」は主に中学、高校生の時に耽溺していた色々な小説や漫画、アニメのキャラクターたちでした。その頃から研究者に憧れを持っていたのですが、その夢と「名探偵かっこいい!」という気持ちはゆるーく繋がっています。
大人になった今、私は幸運にも研究者になれています。でも、いつの間にか当時の「こんな風に生きたい」を忘れて、無理に「普通に近付こう」としていました。その結果、表層的な夢を叶えたにも拘わらず、「自分は普通じゃないからどうせ何もかも上手くいかない」と人生に絶望していました。

ぬい氏との結婚は、私が理想とする生き方をもう忘れないようにするためのものでもあります。
これはやっぱり恋愛ではないですよね。では打算でしょうか?
分かりません。
仕事と結婚した訳でもありません。研究者になれていなかったら、私は他の職に就いていたでしょう。その場合でも結婚相手にはぬい氏を選んだと思いますから。

中学生の時の思い出をいつまでも引きずってるってやばくない?名探偵なんて存在しないよ?そろそろ卒業したら?そんな意見も予想できます。
ハイ、反論。中学生の時に読んでいたのが大人の鑑賞に耐える作品だったのです。中学生が読むもの=中学生レベル(低レベル)という訳ではないのです。中学生の頃から付き合ってた相手と結婚する人もいるじゃないですか。それと同じと言ったらなんか怒られそうですが、子供の時に好きだったものを、大人になったら捨てなければいけないと決めつけるのもおかしい。

こんな感じで、燃えるような恋愛感情はないけれど、静かに、変わらない憧憬を抱きながら、ぬい氏のいる生活を送っていけたらと思う次第です。



P.S.
「推し活」と称し部屋を探偵事務所にしました。
合法的にオタ活できるのも結婚を決めて良かった事です。
楽しい~。

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