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とにかく恋愛から逃げたい③気づいたら無償パパ活してた話

Summary

「ねえ付き合ってよぉ。優しくするから。避妊もちゃんとするからさぁ!」

About Me

アロマンティック、アセクシャル。
理系。
恋愛と性愛に論理で立ち向かった結果、なぜか喜劇的な人生を送っている。
[①話 逃げたい理由]
[②話 逆にカレシを作ってみる]


コレラタケ状態

私が勝手に作った言葉です。

コレラタケ(旧称ドクアジロガサ)という毒キノコがある。食べるとコレラのような激しい下痢を起こし死に至る。毒性がやばすぎるので注意喚起のためコレラタケという名前に改称された。このコレラタケに似ているキノコのひとつに、ヒカゲシビレタケというのがある。マジックマッシュルームとして知られる、食べると幻覚症状を起こすキノコの一種だ。野生にも生えているキノコだが、その所持は麻薬取締法違反となる。

ごくまれに、野生のヒカゲシビレタケと間違えてコレラタケを食べてしまう人がいるらしい。すぐに病院に行けば胃洗浄などの治療を受けられるのに、本人は違法薬物を摂取したと思っているから、病院に行けずお亡くなりになってしまうんだとか。

自分が客観的に見て悪い事をしているという自覚があると、その結果どんなにダメージを負っても人に相談できず、一人で苦しむことになる。私はこの状態を勝手に「ヒカゲシビレタケと間違えてコレラタケ食べた状態」略して「コレラタケ状態」と呼んでいる。

以下のような状況の時に使える。

性行為を楽しめれば問題は解決するはず

他者から恋愛感情を向けられると相手の事が嫌いになってしまう。
いつ、何をきっかけに恋愛感情が飛んでくるか分からないので、怖い。
本当は恋愛感情ではなかったとしても(確かめるすべはない)、私が「もしかしてこれ恋愛感情?」と誤解した時点でアウト。

初めて会う人は、私がAセクだと知らないので、恋愛対象として見られるかもしれない。怖い。
恋愛対象として見られるかもしれないから、趣味の話題で盛り上がるのも怖い。仲良くなることが怖い。

入社前に、内定者懇親会があった。一人の男性の新入社員が読書が趣味だと自己紹介した。私も本が好きなので「好きな作家は誰ですか?」と訊きたかったが、怖くて言えなかった。

これ、もう男性恐怖症では?
でも会社に入って男性とコミュニケーションを取らずに生きてゆくことはできない。どうしたらいいんだ……。

しかも、相手に好意的に接しておいて逆に好意を持たれたら引くのはクズのやることらしいしな。(なんだかんだ言って結構気にしている)

もう、人前でどう振舞ったらいいのかも分からない。

ひたすらアロマンティック、アセクシャル、リスロマンティックなどの単語で検索したり、Aセク関連の書籍を読んだりして解決策を探したが、答えはどこにも書かれていなかった。

調べていてへえと思ったのが、
恋愛と性愛は別物で、アロマンティックとアセクシャルも独立したもの。
ロマンティック・アセクシャルの人もいれば、アロマンティック・セクシャルの人もいる。
という話だ。

「ああ、そうか……」
(今回もだめな思いつき)

これまでの経験から恋愛がダメで、だから自分がAロマなのは確実だ。
でも、性行為はそもそもやってみようとさえしてないのでは?
試してないから分からないけど、実は性行為はできる可能性は?
性行為が楽しめたら、モテる=性行為できる=嬉しい。
問題解決では?
また、Aセクの人でも「パートナーが望むから」「生きていく上で必要ではないが、身体的快楽は感じる」などの理由で性行為をする人もいるらしい。

何を隠そう、私はマスターベーションはできる。
(隠して生きていたかったよ……)
なので、性行為を楽しむことができる可能性はある。

女性用風俗に行ってみるか?
でも、キャストは「愛されると嬉しい」女性を相手に商売している人達だろう。最中に「スキダヨ。カワイイネ」とか言われたら吐いちゃう。
それにこのキャスト達は本当に安全なのか?実は自分の性欲を満たすために店に籍を置いてるんじゃないか?不安。

レズ風俗という手もある。
こちらは相手が女性という安心感があり、少しハードルが下がる。しかし、同性愛という自然の摂理に反したことをやるのだから、異性間のそれよりも双方が能動的に快楽を感じに行かないと成立しないのではないだろうか。Aセクの人間が行って白けてしまってはキャストの方に申し訳ない。

と、いうように、なんだかんだと理由を付けてうじうじしていた。
そもそもAセクは性行為に興味を持てないセクシャリティだ。
他に沢山やりたい事があるのに、なぜ性行為の事なんか考えなきゃいけないのか。面倒くさい。
でも、ああ、恋愛が怖い。どうしよう。自分のセクシャリティと向き合わなきゃ。
あー。でも性行為かー。考えるのも面倒くさいなぁ。

だって、大量の顔写真を見て、自分はこの中の誰と性行為したいのかと考えても分からない。そういう基準が私の中にない。


こんな事を考えるのと並行して、私は某同人誌即売会で会ったおっさんとチャットをしていた。別れたカレシ氏と一緒に行ったイベントだ。

おっさんはT大卒で博士号を持ち、大学の教員をやっている人だった。しかも某作家協会に所属しているという。(小説家ではない。念のため)

イベントで私が売っていた本の内容から「澁澤龍彦好きそうですね」と言われ、「そうです、よく分かりましたね」と会話が弾んだ。
教えて貰った未読の作品の感想を述べたら、次はこちらをとマルキ・ド・サドの『新ジュスティーヌ』(澁澤龍彦訳)を勧められた。おっさんが一番インパクトを受けた小説だという。

一応書いておくと、マルキ・ド・サドはサディズム/マゾヒズムの語源となった人物で、フランス革命期の貴族、小説家。自身も暴力、強姦、男色の罪で投獄され、獄中で数々の小説をものした。『悪徳の栄え』などが有名。
当然、ほぼ初対面の女性に勧める本ではない。

でも、面白かったんですよね……。どうしようもない下衆な行為を綴った物語が、澁澤龍彦の端正な文体で書かれている。内容も、官能小説のようにただ性描写をするのではなく、悪人が自身の哲学を語る。
要は、私の性癖に刺さったのだった。

アセクシャルなのに性癖があるってどういう事??と思った方も多いだろう。これについては海外の方の意見で面白い考察を見つけたのだが、多分長くなるので別の記事で書きたい。

2024/10/14追記:書きました↓

「サド良かったです」と返信すると、おっさんは「江戸川乱歩もいいですよ」と言ってきて、「いいですよね~」という話になった。
江戸川乱歩の性癖もかなり共感するところがある。
『押絵と旅する男』とか『人でなしの恋』とか、人ならざるものを愛する人の話なんか、とてもいい。
おっさん、わかってるじゃん。


そんなこんなでいたら入社直前の三月、おっさんから「桜を見に行きませんか?」という連絡がきた。桜はどうでもよくて、マルキ・ド・サドの話をした後に会おうといわれたら、どう考えても性行為しませんかという意味だ。
ピンと来ない人は、AVの話で盛り上がった後に、今度会いませんか?と言われたと想像してみてほしい。どう考えても性行為しませんかという意味だ。

どうしよう……。
ひょっとして、今まで自分のことをAセクだと思っていたけど、実はただ性癖がゆがんでいるだけ、なのではないか。これまでの人たちは皆性癖がノーマルっぽかったから無理だっただけで、このおっさんとは性癖が似てるから性行為できるのでは?!
本気で言っている。

それに、会ってみて、やっぱり無理と思ったら断ればいい。おっさんは検索すれば名前が出てくるようなちゃんとした身分の人間だ。訴えられて職を失う危険はまず冒さないだろう。だから、強姦されることはないはず。

よし、行こう。
この人と仲良くなったら新しい知識を得られるかも、とか、趣味の話ができるかも、とか、そういう下心は今回は持たず、純粋に性行為を目的としておっさんに会いに行こう。

普通の人からしたら完全にクズなことをしているのは分かっている。
もうクズでいいよ。
Aセクよりクズのがましだ。
そんな訳で私はおっさんの申し出を了承した。

一日目

会う約束をした四月x日、私は新人研修所に泊まり込みで研修を受けていたため、週末に外泊許可を取っておっさんに会いに行った。
やばい精神状態の新入社員。

電車で二時間程かけて東京に出た。待ち合わせの時間は12時で、お昼を食べていくかどうするか、微妙すぎる時間帯だった。
迷って、食べずに行くことにした。
なぜなら、サドの小説の中では「食」の快楽を追求し、金に飽かせて美食、飽食にふける貴族が描かれる。……おっさんがおいしいお店に連れて行ってくれるかもしれないと思ったのだ。

待ち合わせの駅でおっさんと落ち合うと、食事は摂らずすぐにお花見エリアに向かった。(あー、12時はおっさん的には”食後”の時間だったか……。)

散策しながら、私が生物系の大学院を出ているという話になった。
「生物系って、解剖とかするの?」
「普通にしますよ」
「ぼく、そういうの無理だなぁ。怖いもん」
え?サドのファンじゃないの?あの小説、拷問とかグロシーンたくさん出てくるじゃん。そう思ったが、まだほぼ自己紹介の段階でいきなりサドの話は出しづらく、とりあえずスルーした。
おっさんは花の前で写真を撮りたいと言うので、おっさんとのツーショットを撮った。

ベンチで休憩することになり、おっさんは自分が最近出した論文を印刷したものをくれた。サインしてあげるという。
私も購入したおっさんの著書を出し、そちらにもサインをもらった。
サインというのは、貰うと何となく嬉しいものだ。
それからおっさんはもう一つプレゼントがあると言い、本を手渡してきた。
タイトルは『鼻行類』。
「あ、『鼻行類』」
「なんだ、知ってたの?」
まあね。『鼻行類』は架空の生物の図鑑だ。
「でも、図書館で読んだので本は持っていなかったから、嬉しいです」
文学少女的には、「わたしたち読書傾向が似ていますね」が一番の口説き文句だと思う。私は文学少女ではないし、恋愛感情は分からないけど。

東京の街を歩きまわりながら話し、喫茶店に入って話し、また歩き回った。
途中、そういえばサド読んだ?と話題を出され、私は待ってましたと感想を述べた。
おっさんはうんうんと相槌をうち、「サドは、あの時代にああいうものを書いたから偉かったよね。あれは政治批判でもあるんだよ」なんて言った。
なんだか、小説の内容の過激さに全然触れず、引いた視点からの乾いた感想……。
おっさん、本当にそういう感じのテンションでサドを読んでるの?それともカマトトぶってるの……?

また、会話の中で、おっさんは私の書いた小説を読んでいないことが分かった。澁澤とか乱歩とか言ってきたのは表紙と参考文献からの推測だったらしい。そもそも同人誌即売会に参加するのは「仕事みたいなもの」で自著の宣伝であり、同人誌など読む価値なしという思想の人らしかった。
本の感想を言われるかも、と期待していたので、拍子抜けした。
おっさん、私の内面に1ミリも興味ないじゃん!ヤリ目確定だな。と思った。

18時をかなり回ったくらいに、さすがにお腹がすいたので「あのう、お腹空きませんか……?」と訊いたところ、
「あ、ほんと?」
おっさんはファミレスを探し始めた。
(えー、ファミレスかよ……。おいしいもの食べさせてくれると思ってたのに……)
最初に入ったファミレスが満席だったので移動していると、花見客にビールと軽食を提供している店があり、そこで食べることになった。
「僕お腹空いてないからフィッシュアンドチップス半分こしよ」
まさかの小食。しかも夕飯にフィッシュアンドチップスって。私今日パン1個しか食べてないのに……。お腹空いてないから半分食べてなんて言われたら別のもの頼めないじゃん……。
「僕お酒は飲まないんだ。頭の回転が鈍くなるのが嫌だからね」
どんどんサド要素がなくなっていくが、まあ、これは学者っぽいから好感が持てる。

芝生でちみちみフィッシュアンドチップスをかじり、終電の時間が近づいてきたので私は「そろそろ帰ります」と言って帰ろうとした。
特に引き止められもしなかったので、正直ほっとした。
しかし、駅に向かって少し歩きだしたところで、急におっさんのギアが切り替わった。
「ねえ、本当に帰っちゃうの~?」
「は、はい」
「泊ってこうよぉ、ホテルで朝まで一緒にいようよぉ~」
そう言っておっさんは左手を私の肩に回し、右手が、なんか胸を揉む態勢になってるぅーー!!!
「いやいやいやいや」
無理無理無理無理
キモイキモイキモイキモイ
私は全力でおっさんを引きはがした。
おっさんは「えー」とか言う。
めっちゃ周りの人に見られてた。
拒絶の意を示すと、おっさんは「わかったよぉー」と言った。
思った通り、犯罪は犯さなさそうだ。
「じゃあ駅まで一緒に行こ」
そういっておっさんは私の手を取り、私の指と指の間におっさんの指を差し込んできた。俗にいう恋人つなぎというやつだ。
気持ち悪い。
指と指の間に他人の指の感覚があるのが気持ち悪すぎる。
気持ち悪すぎてあたりを見回してしまった。
え?これ合法なの?嘘?このおっさん死刑じゃないの?
しかし、性行為するつもりで来た手前、やめてくれとも言い難く、そのまま駅まで歩いた。

私は駅で無事解放された。よ、よかったぁー。
そしてはっきりと分かった。
私はアセクシャルだ。

二日目

おっさんは性行為が目的で私に会おうとした。私はそれを断った。
ということは、おっさんは私に構う理由がなくなったはずだ。
「今日はお疲れ」的連絡もないし、撮った写真も送ってこないし。
おっさんは性行為できなくてがっかりしたのかな。
でもこっちも触られて不快な思いをしたからイーブンだよね。
もう一生会う事はないね。さよならおっさん。

と思っていた。ところが、一週間後。
「来週動物園に行きませんか?」
とおっさんからのメッセージ。
なぜだ?ひょっとして、おっさんはまだ私と性行為できる可能性があると思っているのだろうか?

普通は無視するだろう。
だが、バカな私はまたおっさんに会いに行った。
今思うとなぜ会いに行ったのか分からない。
おっさんをアセクシャルカミングアウトの実験台にしたかったのかもしれない。学者という珍しい人種をもう少し観察してみたいという”下心”だったのかもしれない。あるいは、セクシャリティで悩みすぎていて、誰でもいいから話を聞いて欲しかったのかもしれない。

一日目の私は娼婦だったのでスカートを履いていったが、この日はいつも通りの地味な服装で向かった。

動物園に入って感じたこと。おっさんが近い。近すぎる。
会話をしていると、一日目には感じなかったおっさんの口臭がはっきりと感じられる。
こちらが離れるとおっさんが距離を詰めてくる。最初はガラスの真ん中くらいに立っていたのに、展示を見ている間に端っこまで寄ってしまうくらい、露骨。
おっさんがあまりに近いので、私がおっさんの靴を踏んでしまった。
「すいませ……」
「あぶないっ!」
おっさんが私の腰を掴み、全身に悪寒が走った。
あぶないっ!じゃねーよ。女性に触りたくて触りたくてしょうがない男子中学生か?姑息すぎるだろ。いい大人が何やってんだよ……。(おっさんは見た目から推定50代後半から60歳前後)
気持ち悪い。やばい、もう帰りたい……。

一日目に触られても私がまた会いに来たから、おっさんにお触りOKの女と認識されたのかもしれない。まずい。早く私がAセクだとカミングアウトしないと……!

動物園を出て、また街を歩きながら話しているうち、百合の話題になった。おっさんが「君、異性愛者だよね?」と言ってきたので今だ!と思い、「実は違うんですよ」と答えた。やっと言えたー!
「え……?」おっさん絶句。
「…………レズってこと?」
「いやー、レズビアンではないんですけど、ちょっと複雑で」
「…………」
話題を変えられてしまった。おっさんの脳内で
「女性」 かつ 「レズビアンではない」 イコール 「ヘテロセクシャル」
と処理された可能性が高い。

喫茶店に入り、こんどはちゃんとAロマ/Aセクの事を説明した。
明らかに困惑するおっさん。
まあ、この年代のエロおやじにAセクを説明しても、受け入れられないか。
あるいは今、「ええーー!この子処女なのォーー!」って考えてフリーズしてるか。……後者かもな。

「人とそういうことをしたくないってことは、自分とはどうなの?」
「セクシャルマイノリティの中にはそういう人もいるらしいですね。自分に対してしか性的魅力を感じないっていう。確かそれもなんか名前がついてるはずです(オートセクシャル)」
「あ、そう」
私はおっさんの質問に大真面目に答えた。
少し経ってから、あれはおっさんは私が自慰行為をするか訊きたかったのか、と気づいた。本当、ろくでもない。

この日は私がお腹空いたと言い出さなかったので、ジュース一杯で午後7時過ぎまで喫茶店にいた。おっさん、いつも何時に何食べてんの?

駅で別れるとき、おっさんが「ハグしよう」と言ってきた。
「え?」
「いいじゃん。挨拶だよ」
挨拶か。確かに、ハグは挨拶だよな。アメリカに行ったときは私も普通にハグしてたし。おっさんも昔アメリカに住んでいたことがあるらしく、ならばハグは挨拶だろう。
(書いていて、おひとよしというかバカ過ぎて、本当に自分が嫌になる。)
挨拶としての、腕を大きく広げて1、2秒抱擁し、手を振って別れるあれをやろうとしたら、おっさんにがっつりホールドされてしまった。
「キスしてよ」
は?
「いいじゃ~ん」
え?
「ね?」
押し問答が続けば、おっさんに抱きつかれた状態が長くなる。
キスもぎり挨拶だよな。クリスマスパーティーで、ホームステイ先のばあちゃんに頬にぶっちゅーってキスされたことあるけど別に大丈夫だったし。
帰りたすぎて「わかりました」と言ってしまった。
おっさんは嬉しそうに口に吸いついて来ようとしたので、さすがに「いや、頬で!!」と叫んでしまった。
通行人ー、見てるかー?ここにキモいおっさんがいますよー。
おっさんの頬に唇をつけると、意外としっとりしていて、柔らかい肌に固いひげがぽちぽち生えてて超キモかった。
おっさんは私の頬にキスすると、最後にものすごい力で抱きしめてきた。というか、締め上げられた。
「ヴエッ!」
肺が圧迫され、カエルを踏み潰したような声が出てしまった。絞め殺されるかと思った。
「んもー、そんな声ださないでよぉ」
おっさんがしょんぼりして言った。
私の意思は完全に無視され、人形として扱われる経験をした。

ちなみにこの日も確か何かの銅像の前とかでツーショットを撮ったと思うが、おっさんは写真を送ってはくれなかった。いらないから別にいいけど。

三日目

なぜ、三日目があるんでしょうか?
それは、おっさんが一緒に行こうと言った文芸イベントのサイン会の抽選に当選してしまったから。
これがなければ約束をぶっちしていた。

真面目というか、義理堅いというか……。バカというかね。

10時からのトークショーを聞いて、おっさんと合流した。おっさんは某作家協会会員なので、無料で会場に入れ、「最後の方だけちょっと聞いた」らしい。(おっさんは当然トークショーに興味なし)

おっさんとイベント会場を歩いていると、作家の〇〇先生とすれ違った。
「あれ〇〇だよ。声かけてあげるよ」
断ったが、おっさんは、同業者ですという顔をして、私をファンだと紹介した。私は緊張してぺこぺこ頭を下げるくらいしかできなかったが、〇〇先生はにこやかに手を振ってくれた。〇〇先生、作品だけでなくご本人も麗しかった……。
「ね、僕は君を作家の先生とかに会わせてあげられる」
だからやらしてくれと?
おっさん関係なくサイン会に当選したのは私だし、好きな作家は自分で追いかけるよ……。

そして13時頃、「お茶しよ」と言ってスタバに向かうおっさん。
お茶っていうかお昼の時間だよな?スタバってご飯食べれたっけ?
そう思いつつもおっさんについていくと、やはり飲み物のみ買って店を出、テラス席に着席。
もはやグルメじゃないどころの話ではない。どういう時間割で生きてるの、おっさん?
サイン会を終えた15時過ぎ、おっさんを促してやっとレストランに入った。

店を出ると、またひたすら街を歩き、店を冷やかす。おっさんは一切買い物をしない。
薄々気づいていたが、おっさん、極貧?

歩いている間に、おっさんがこんなことを言った。
「ねえ、付き合ってよ」
「は」
「徒歩子さんがいると僕仕事頑張れるんだ。僕、研究で歴史に名を遺すことをするからさぁ。僕のこと応援してよ。徒歩子さんに応援して欲しいんだ」
おっさん、今自分が超自分本位な事言ってるの気づいてるのかな……?
この時は、
「……みんな[おっさん]さんのこと応援してますよ」
と流したが、その後も
「ねえ、ホテル行こうよぉ。だめぇ?嫌な事はしないから」
と言って私の手に指を絡ませてきた。
「あのう、恥ずかしいんで、やめてもらえませんか?」
と言うと、パッと両手を上げ、
「ね、嫌な事しないでしょ?」
小学生か。
極めつけは
「ねえ付き合ってよぉ。優しくするから。避妊もちゃんとするからさぁ!」キモすぎるだろ。キモすぎ三段論法。一周回ってもはや面白い。
これで落ちる女性が実在するのか、誰か調べてほしい。

どうして数回会っただけなのにここまで依存されてしまったのか。おっさんの頭の中はどうなっているのか。
その根底にはどうしようもない孤独の存在がある気がした。
こんなだからおっさんはパパ活女子に食い物にされるのだ。
相手の人格を完全無視して癒しを吸引&性欲を満たそうとするなら、そりゃお金払わなきゃだめだよ。

読んでくれてる方もそろそろうんざりしてきたと思う。ごめんなさい。あともう少しだけお付き合いください。

おっさんとデパートの中を歩いている時、肩の開いた服が売られているのを見たおっさんが言った。
「徒歩子さんああいう服着ないの?」
「着ないですよ、恥ずかしい」
「えーそう?今だってブラ紐見せてるじゃん」
私は絶句した。服に興味が無いので、この日も母が勝手に買ってきたカットソーを適当に着ていた。襟ぐりが広い服で、見えてもいいようにカップ付きキャミソールを下に着ていたのだが。ブラ紐見せてる痴女だと思われてたのか……。衝撃。
この日以降、襟ぐりが開いた服は全部捨て、シャツのボタンは一番上まで留めるようになった。レディースは最初から一番上のボタンがついていない服もあるが、そういう服には自分でスナップボタンを縫い付けた。
Tシャツもおちおち着れなくなった……。

この日も写真を撮られたが、背景はもはや何のスポットでもないその辺の花壇だった。お前撮った写真を「女と会った」勲章にしてんだな。キモイな。

駅で別れる際、おっさんは当然のようにハグを要求してきた。
は?当然の権利じゃないよ?
しかし、バカでお人よしな私は、これでお別れできるならと、ハグと頬のキスに応じてやった。

あー、やっと解放ーーーーーー!

ではなかった。

その後

おっさんからまたデートに誘われたが、メッセージは既読無視。
おっさんと知り合ったイベントは、おっさんがまた出店するので、不参加。

さよならおっさん。

しかし、
「Xフォローしてくれていたの気づきませんでした!ありがとうございます!本アカはこちらです」
というメッセージが来て愕然。
作品を発信してるアカウントでおっさんフォローしちゃってたんだ……。(しれっとサブ垢だったのも地味にムカつく)
って、私が発信したものは今後もおっさんに見られるって事?

最後の方で、おっさんは私に依存しようとしていた。
ストーカーという言葉が頭に浮かんだ。
ここでやっと、恐い、と思った。

おっさんと完全に縁を切ろうと思ったら、作品を発信しているアカウントを捨てなければならない……?

本当に少ないけれど、私の本を買ってくれた方もいるし、SNSをフォローしてくれてる方もいる。私の作ったものを認めてくれる人が、少数だが確実にいるのに。
私のアマチュア作家生命、終わった……。

大学で何をやっても認められなかった間、小説が心の拠り所だった。
それさえ恋愛(?)のために失うのか。
――何をやっても、駄目になる。
終わりだ。絶望だ。

これが五月のこと。本当にやばい精神状態の新入社員。


その後おっさんのフォローを外し、連絡も完全無視を続けたら、おっさんからのフォローも外されていた。

しかし、SNSで発信する気にはなれなかった。そもそも、創作する心の余裕さえ失っていた。

メールがおじさん構文じゃなくても、ひとかどの人物でも、めちゃくちゃIQ高くても、おじさんは心の中にキモいおじさんを隠しているんだ……。

当然だが、会社にはおじさんがたくさんいる。というか、おじさん達が会社を動かしている。
キモい。怖い。

誰かに相談したくても、コレラタケ状態。
彼氏とデートで行ったイベントで知り合ったおっさんと性行為するために会いに行ったら依存されて嫌だった。って
そりゃ、私が悪いよ。
自分が悪い事してるから誰にも相談できない。

まあどうせ、相談したところで「相手がおっさんだったから無理だったんだよ。若いイケメン探しなよ」とか言われるに決まっている。

書いていないが、私はとっくの昔に高学歴でモテる(内面が)超かっこいい友人を拒絶してしまっている。だから今こんなことになっている訳で…。
同年代のかっこよ青年がだめだったから、じゃあおっさんかなってなるじゃん。ならない?あそう。


自爆して死にそうだ……。

でもなんかまだ生きてるので

つづく
とにかく恋愛から逃げたい④二次元の推しと結婚する【最終話】|通学路徒歩子 (note.com)

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