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全ボツになった『らんま1/2』のコラムでもあげるか

まずはご報告。
朝活、失敗しました!!!!!!(昨日の記事参照)

でも大丈夫、だってまた明日も朝日はのぼるから。
そのたびに私は失敗できるし成功できる。がんばってこうね。

今日は企画を5本ひねり出し、プラン会議に出て、打ち合わせをし、読み聞かせボランティアに向けて絵本を選書して、ジムに行ってピラティスとデッドリフト重量30㎏とダンベルフライ重量2㎏をこなして、今は喫茶店で仕事やら何やらをしています。

という1行で日記が終わってしまったので、タイトルのとおり、お蔵入りになった原稿をアップしてみようかな。
『らんま1/2』の再アニメ化に伴って「るーみっくわーるどとジェンダー」について書きたいです、と企画を持ち込んで採用していただいたものの、まず思いっきり〆切を破り、呆れられつつ差し出したこの第一稿はらんま未読の編集者さんに「論旨が不明で途中で読むのをやめた」とさじを投げられる始末……。どんだけ迷惑かけるんだよ。本当に申し訳ない限りですね……。

(ちなみに現在も原稿を大幅にお待たせしていて、今もうんうん唸っている。
落としどころが見つからなくて迷子状態ですが、今週こそは書き上げるぞ……!!)

なお、書き直した最終バージョンは下記のリンクから読めます。
読み比べると「こういう風に整理したのねー」とスッキリする、かも。
編集者さんの偉大さ、そして私の愚かさを感じてください。

全ボツになった原因は、「高橋留美子作品とジェンダー」をテーマに掲げておきながら、『らんま1/2』に話が終始していること。
そこは編集者さんのおっしゃるとおりで、第一稿を書いている最中は完全に「らんまファン」を読者として想定していたもんな……。

最終稿は「らんまを知らない人」にも門戸を開いた内容になっている、はず。どうでしょうか……。

全ボツになってしまったこっちはこっちで、らんまファンにはうなずいたり首をひねったりしてもらえる記事になって……いたら……いいですね……。

恥ずかしいのでほぼ読み直していないのですが(そのためすこぶる粗い&荒い文章ですみません)、基本的にはあかねちゃん賛歌です。
今回の記事執筆に合わせて全巻読み直したら、信じられないくらい可愛くていい子で感動しちゃったので。乱馬はもっとしっかりしなさいな。

というわけで、ご笑納くださいまし。



「おれは男だーっ!!」
2024年、まさか再び、林原めぐみの雄叫びを聞けるとは——。

漫画家・高橋留美子の代表作『らんま1/2』。
『週刊少年サンデー』にて1987年から1996年にかけて連載された格闘ラブコメで、水を被ると女になってしまう特異体質の少年・早乙女乱馬を中心としたドタバタ劇を描いている。累計発行部数5500万部超の世界的人気作だ。

1989年~1992年に放送されたアニメ版も好評を博した。乱馬役に抜擢された山口勝平/林原めぐみをはじめ、ヒロイン・天道あかね役の日髙のり子やライバルキャラ・響良牙役の山寺宏一など、キャストクレジットは今や大御所となった超人気声優のオンパレード。初々しくみずみずしい演技をこれでもかと楽しめる。
声優陣が役になりきって歌唱した多彩なキャラクターソングも魅力で、アルバム『らんま1/2  熱闘歌合戦』は「第5回日本ゴールドディスク大賞アニメ部門賞」に輝いた。

アニメ版が原作の物語を描き切れずに終了したこともあり、ファンからは長らく「オリジナルキャストで完全アニメ化を」との声があがっていた。だが、時は流れに流れて平成から令和へ。2022年には同じく高橋原作の『うる星やつら』が41年ぶりに再アニメ化されたが、キャストは総入れ替え。らんまも声優陣が主役どころかレジェンド級になってしまった現在、ファンの願いはもはや無謀な祈りにも思われた。

ところが2024年夏、「待たせたな!」と“あの声”が高らかに響いたのだ。「早乙女乱馬 Cv 山口勝平」「天道あかね Cv 日髙のり子」——躍動するキャラクターと共に、懐かしい名前が次々と画面に映し出される。

「完全新作的アニメ」が10月5日に放送開始、それもほぼオリジナルキャストで。第一弾のPVでそう明言された瞬間、冗談ではなく、感涙にむせぶファンが続出した。

32年もの時を超えて新たによみがえる、『らんま1/2』。作品の核はやはり、早乙女乱馬という“男/女”を行き来するキャラクターだ。
高橋は本作の構想について「ジェンダーフリーっていうんですか、男から女へ、女から男へ、みたいのですね。そういうネタはやっぱりすごくやってみたかった」と述懐している(「るーみっくわーるど35 ALL STAR」より)。

そのきっかけとなったのは、前作『うる星やつら』に登場する藤波竜之介だろう。父の思惑で「男」として育てられた腕っぷしの強い少女で、口癖は「おれは女だ!」。乱馬もまた父の暴挙によって呪いの泉に落ち、本来の性から逸脱した体になってしまう。たびたび叫ぶ「おれは男だ!」も竜之介の口癖と対になっている。

竜之介が「実は女だったというのも、描いているうちに」決まったそうだが(Xアカウント「高橋留美子情報」より)、『らんま1/2』ははじめから「ジェンダー」を意識していただけあって、サブキャラクターにも「男/女」の分断および越境が散りばめられている。

例えば、中国から乱馬を追ってやって来た少女・シャンプーは武闘民族“女傑族”出身。その掟である「よそ者に敗北した場合、相手が女であったならば殺すべし。相手が男であったら、夫とすべし」に従い、女乱馬には殺意を、男乱馬には恋心を向ける。

また、女乱馬にぶっ飛んだ求愛を繰り返す男・九能帯刀には小太刀という妹がおり、彼女は男乱馬に犯罪まがいのアプローチを仕掛けていく。高橋の「女版九能を描きたかった」というアイディアそのままのキャラクターで、乱馬の性別が入れ替わるごとに、恋の相手や愛憎がくるくると反転していく。

中盤に登場した乱馬の母・のどかは、「男らしく/女らしく」という古典的なジェンダー観をギャグの域まで突き詰めた人物だ。幼くして夫に武者修行の旅へと連れていかれた息子との再会を願う、いかにも“大和撫子”な和装美人……なのだが、その腕には常に日本刀が。夫と交わした「乱馬が男らしく育っていなかったら切腹させる」との誓いを頑なに信じ、「切腹の介錯をつとめ、返す刀でこの喉かき切って二人のあとを追う」との壮絶な覚悟をきめているのだ。

乱馬は女に変身する体質がバレれば父もろとも命を失うため、母に真っ向から会いたい気持ちを抱きつつも、女の姿で「乱子」と別人を装い、時に可愛いワンピースまで身に纏いながら、のどかと交流を深めていく。

高橋は「あくまでも女らんまは、あっけらかんとして、服がはだけてもかまわずにバトルに勝つほうを優先するようなキャラにしました。しかも敵によっては『女』を武器にするというしたたかさもあるという(笑)」と明かしている(「漫画読本 高橋留美子本」より)。

乱馬は当初こそ「命は捨てても…男を捨てる気はなかったわい」「女の服なんか絶対着ねーぞ」と“男らしさ”にこだわっていたものの、物語が進むにつれて「勝負のためなら」バニーガールやランジェリー姿まで披露するようになっていく。
願いを叶える刀を手に入れた九能帯刀を篭絡すべく、「マトモな男に戻れるんだ。そのためならば…どんなかわいい女でも演じてみせるわっ」とデートに挑む姿は象徴的だ(15巻)。
「敵に勝ちたい」「男らしくありたい」といういかにもマチズモな願望が、皮肉なことに、乱馬をより女へと近づけていくのである。

乱馬は原作全407話を通して「男らしさ/女らしさ」の狭間で揺れ続けるが、こうしたジェンダーの葛藤から“脱却”したキャラクターがいる。ヒロインの天道あかねと久遠寺右京だ。

二人には幾つかの共通点がある。まず、乱馬との婚約を親の意向で取り付けられた「許嫁」であること。武芸に秀でていること。乱馬からの「かわいい」という言葉をきっかけに、素直な気持ちを見せていくこと。そして“男勝り”であったことだ。

顕著なのが右京で、彼女は竜之介と同じく学ラン姿の“男装キャラ”として描かれた(関西弁と「うち」という一人称も相まって、乱馬は最初、右京が女であると気付かなかった)。彼女は乱馬に裏切られたという勘違いから「女であることを捨て」て男として生き、復讐のため修行に打ち込んできたのだ。

右京は武芸としてお好み焼きの腕を磨いており、自身の店まで構えている。ある騒動では職を辞し、良妻として乱馬に尽くそうとするものの、自身の内に燃えるお好み焼きへの情熱に抗えず「かんにんや、乱ちゃん…。かわいい女になりきれなくて…」「いつか職人と女を両立させて迎えに来たる。待っててや」と修行を再開する。

「男=仕事」「女=家庭」。ジェンダーによって分断された役割を、右京はどちらも諦めない。彼女に想いを寄せるキャラクターは女装した男性(これは竜之介の許嫁・潮渡渚と相通じる)ばかりだが、右京はその一人である小夏に「おまえひとりくらいうちが面倒みたる!!」と言ってのける。乱馬への「(結婚したら)うちが一生養ったる。乱ちゃんは遊んでればええのや」という言葉からも、“男と女”の役割を一手に担おうという意志が感じられる。

一方、メインヒロインの天道あかねは“女らしさ”の呪縛に囚われていた少女だ。幼い頃から活発でケンカの傷が絶えなかった彼女は、手当をしてくれる接骨院の東風先生に好意を抱く。しかし彼は、あかねの姉・かすみに恋していた。他ならぬかすみに「あかねは本当に男の子みたいね。もっと女らしくしないと、東風先生に嫌われちゃうわよ」と諭され、「髪の毛のばせば…あかねだっておねえちゃんみたいに…」とロングヘアにしたあかね。

しかし、乱馬とそのライバル・良牙の闘いにより、その髪はばっさり切られてしまう。かすみに整えてもらったショートカットで東風先生のもとへ赴いたあかねは、「とってもかわいいよ。それに、短い方があかねちゃんらしいね」という言葉に涙をこぼす。

高橋はあかねについて「髪の毛を切ったあたりからようやくこの子はこういう子なんだというのをつかめた気がします。つまり、乱馬に対して真っ正面からぶつかっていく女の子なんだという」と語っている(「漫画家本 高橋留美子本」より)。「やっと気持ちの整理がついた」と前を向き、もともとの“自分らしい”姿に戻ったあかねは、徐々に乱馬との距離を縮めていく。

興味深いことに、あかねのピンチや敵討ちのために乱馬が“女装”し、乱馬の危機にはあかねが“男装”して助けに現れるという構図がたびたび描かれる(21~22巻、26巻)。
また、乱馬では時折ややシリアスな長編が描かれるが、いずれも窮地を救うのはあかねの身を挺した行動だ。そしてあかねの命がかかった瞬間、乱馬はこれまでにない力を発揮する。

高橋は乱馬とあかねについて「男女の関係においてもバトルを描きたかったんです。ラムとあたるみたいな追いかけっこじゃなくて、お互い対等な立場でガンガンぶつかっていく」「自分よりも相手のことを想っているという、そういうふたり」と評している(「漫画家本 高橋留美子本」より)。乱馬とあかねは互いに守り/守られる関係性、いわば双方がヒーローでありヒロインなのだ。

ふたりは許嫁でありながら、最後の最後まで「婚姻」の枠に収まらない。乱馬の特異体質もそのままだ。高橋の「私がペンを置いたあとも、男になったり女になったりする乱馬とあかねのふたりにはいつまでも仲良く喧嘩しててほしかった」(同前)という願いが、最終話のモノローグ「ここから先は——延長線——」に結実している。想い想われ守り守られながら、ふたりはジェンダーの枠にとらわれず、今も対等にぶつかり合っているのだろう。

高橋は「インベーダー(侵略者)」のラムにはじまり、“越境者”を描き続けてきた作家だ。現代から戦国や大正時代へのタイムスリップ、妖怪と人間、あの世とこの世、そしてジェンダーと、さまざまな境界をキャラと読者は共に行き来してきた。
『らんま1/2』が31年の時を超えてアニメ化されるのも、ひとつの越境と言えるだろう。変化した時代に合わせ、どんなアップデートを見せてくれるのか。ファンの期待を飛び越え、新たな境地を拓いてくれるよう願ってやまない。





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