1000年経っても
小鳥のさえずりが静かに聞こえてくる。
朝が来たと実感する。
いつもの日々がまた始まる。
看護師 「失礼します。朝食を持ってきました」
看護師が○○の病室に入ってきた。
○○ 「調子はどうですか?」
看護師は朝食のトレイを置きながら○○に聞いた。
○○ 「体調は相変わらず悪いですが今日は久しぶりに妻と会えるので気分はいいです」
看護師 「そうですか。早く良くなるといいですね」
看護師がそう言うと○○の病室から出た。
『肺がん』今○○が侵されている病気の正体だ。
もう半年も○○はこの病気と闘っている。でも直る兆しは一向にない。それどころか悪くなる一方だ。
でも今日は月に一回の妻と面会をする日だ。
この日のために生きていると言っても過言ではない。
美羽 「久しぶり」
○○ 「久しぶり、元気にしてた?」
美羽 「うん、元気にしてたよ。○○はどう?」
○○ 「まぁ体調は悪いけど元気にやってるよ」
美羽 「そっか…早く元気になってね」
○○ 「うん」
この後二人は最近何が起きたのかについて話した。
美羽が猫を飼い始めたこと、18歳だと勘違いされ嬉しかったこと、買った花が3日で枯れたことを話した。
○○は特に話すことがなかったが美羽の話を聞くだけでうれしかった。
だが楽しい時間はすぐに過ぎるものだ。
美羽 「もうこんな時間か」
美羽が時計を見る。もうすぐ面会時間は終わる。
○○ 「そっか、もう行っちゃうんだね」
美羽 「うん、明日も仕事だからね。ごめんね、本当はもっと居たいんだけどんね」
○○ 「気にしないで」
美羽 「ありがとう、じゃあまた1か月後ね」
○○ 「うんまた1か月後にまた」
○○ 「生きてたらね(小声)」
美羽 「何か言った?」
○○ 「いや、なんでも」
美羽 「そっか」
そう言うと美羽は○○の病室から出た。
入れ違いで看護師が入ってきた。
看護師 「ちゃんと伝えられましたか?」
○○ 「…伝えられませんでした」
看護師 「また1か月後にまた会える可能性は限りなく低いんですよ!なんで伝えなかったんですか!?」
2か月前、俺は余命宣告をされた。
ステージ4,これ以上ステージが上がることも下がることもない。
本当は美羽に伝えるべきだけど伝えられなかった。
それは美羽に伝えるのがこわいからかそれとも美羽を悲しませたくないからかは分からないがとにかく伝えられなかった。
余命はあと1か月、次の面会まで生きてる可能性は極めて少ない。
でも○○はもう一度だけ美羽と会いたかった。
○○はその思いで残り1か月生活することにした。
でも現実はそう甘くない。
余命宣告前からも健康状態が悪かったが余命1か月を切ったころには健康状態が著しく悪化していた。
○○は自分の力で歩けないまでに体は弱っていった。
ベッドで横になっても呼吸は荒かった。
遂には集中治療室に運ばれた。
それども○○は生きたかった。
もう一度美羽と会いたいから。
そしてついに美羽との面会の日、美羽は走って○○の病室を訪れた。
美羽 「なんで余命宣告されてたの黙ってたの!」
恐らく看護師に言われたのだろう。
○○ 「はぁはぁ…美羽に、はぁはぁ…心配、はぁはぁ…かけたくなかったから…」
美羽 「ばか!私がそんなんで心配するわけないじゃん」
美羽はそう言っているが美羽の瞳から涙があふれ出ていた。
○○ 「泣いてる、はぁはぁ…じゃん、はぁはぁ…」
美羽 「うるさい」
美羽 「もう少し私を頼ってよ。私○○に言われたら毎日お見舞い来てたよ!」
○○ 「はぁはぁ、ごめん、はぁはぁ…ね」
美羽 「ほんとだよ、○○はもう少し私を頼ってよ」
美羽 「○○?」
○○ 「なに…?」
美羽 「私1000年経っても○○が大好きだから、もしも生まれ変わってもまた○○のお嫁さんにしてくれる?」
○○ 「…」
美羽 「○○?」
美羽は○○の手を触る。
○○からの反応は帰ってこなかった。
美羽 「返事しろよ、逃げんなよ、バカ」
~完~