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多角的な情報収集~「解像度を上げる」ためのアプローチ(1)
「具体的知識」のレベルを上げるためには、視野を広げることと解像度を上げることの両方が必要となります。
せっかく視野が広がっても、解像度が不十分だと、理解を深めることはできませんし、解像度が十分であっても視野が狭く、全体像が見えなければ、正しい理解をすることはできません。
今回は、「解像度の上げ方」について、お話ししたいと思います。
「解像度を上げる」とはどういうことか?
具体的知識のレベルを上げるため、「視野を広げる」とは異なる軸としての「解像度を上げる」とはどういうことでしょうか?
一言で言えば、「同じ範囲をより詳細に理解する」ということです。単に情報量を増やすだけではなく、質的な理解の深化を目指すものです。
そのためには、適切かつ詳細な観察が鍵となります。
人間の脳には「クセ」があります。無意識に自分の都合の良い情報だけを集めてしまったり、自分が興味を持つ分野だけを詳細に観察してしまったりしてしまいがちです。
結果として、観察をしたつもりでも重要なことを見落としてしまうことがあります。
それを防ぐために、先行して多角的な情報収集を行うことを推奨しています。重要なのは「多角的な」という点です。多角的な情報に触れることで、自分が持っているバイアスを排除し、自ずから適切な観察のポイントを定めることができるのです。
情報収集と観察の順序は対象によって異なる
先ほど、効果的な観察をするためには、先行して多角的な情報収集を行い、観察のポイントを定めた上で、観察することが望ましいと書きましたが、この順序が常に正しいというわけではありません。
先行して多角的な情報収集を行い、観察のポイントを定めた上で観察をする方が向いている対象と、先に観察をしてから、その後、情報収集を行い、再度、観察をする方が向いている対象があります。
芸術作品(文学や音楽、舞台、映画なども含む)や嗜好品(食物、飲料)などは、個人の感性や体験すること自体が重要となります。また、先入観があることによって体験が制限されかねません。
こういったものは、まずは先入観を持たずに観察し、自分自身がどう感じたかを記録することが重要になります。
その後、関連する情報を収集し、再度、観察することで、見落としていた点を発見できたり、自分とは異なる解釈を知ることで理解を深めたりすることができます。
一方、業務プロセスや技術、市場動向、組織の課題などに対応するためには専門知識が必要になることが多いです。また、個人がどう感じているかよりも、客観的に何が起こっているかの方が重要です。さらに、効率性が求められるものが多いのも特徴です。
以下はそういったものを対象にした時に、解像度を上げるためのアプローチとなります。
多角的な情報収集
多角的な情報収集を行い、観察のポイントを見定める準備を行うことが大切です。
人は、自身の過去の経験を過度に一般化したり、自分の都合の良い情報だけをピックアップしたり、反証を無視、または軽視したりしてしまいがちです。これらは行動経済学では認知バイアスと呼ばれ、私は「脳のクセ」と表現しています。
複数の情報源や異なる立場からの視点、反証の積極的な探索、多面的な検証をすることによって、「脳のクセ」による弊害を防ぐ必要があります。
「視野の拡大」での「異なる立場からの視点」は、立場の違いによる視野の広さの違いを強調していましたが、「解像度を上げる」では、立場の違いによる意味の違い、見え方の違いを強調しています。
両方の意味で、「異なる立場からの視点」は重要です。複数の立場からから見ることによって、対象や問題の持つ、様々な特徴を捉えることができるのです。
「対」からアプローチする
多角的な情報収集の基本は、対となる情報がある場合は、それぞれの違いを意識しながら、その両方にアプローチすることです。
例えば、定量的情報と定性的情報、一次情報と二次情報、公式情報と非公式情報、主観的情報と客観的情報、専門家の見解と素人の見解、関係者からの情報と門外漢からの情報などです。
定量的情報とは、数値化できる情報、定性的情報とは数値では表すのが難しい質的な特徴や性質の詳細な情報です。
一次情報は、自分が直接観察したり、アンケートやインタビューなどを実施したりして集めた情報、二次情報は一次情報を基に誰かが再編集、加工、解釈した情報です。ネット上の情報やメディアの情報は二次情報ということになります。
公式情報は、正式な手続きを経て、信頼性の高い組織や機関、個人から正式な記録として発表された情報、非公式情報は正式な手続きや発表を経ていない、個人的な意見や内部の見解などの情報を指します。
一見すると、専門家の見解に対しての素人の見解や関係者からの情報に対しての門外漢からの情報は無意味ではないかと思えます。
ですが、専門家ならではのバイアスも存在します。
専門家であればあるほど、その領域の常識を当たり前と見なしがちです。しかし、その領域の常識が、世の中の常識と同じとは限りません。専門家だからこそ、見落とす情報もあるのです。どんな専門家であっても、思い込みによる判断はあり得るのです。
多角的な情報収集を行うとは、自分にとって不愉快な情報、自説を否定するような情報も集めるということです。人の行動は感情に左右されがちです。自分にとって不愉快な情報を意識して集めるのは心地よいことではありません。無意識にそれを拒否したりすることもありえます。
しかし、多角的な情報を集めることによって、自然と反証になる情報にも触れることができます。
また、多角的な情報を集める中で、同じような事象であっても状況によって結果が異なることに気づくことも多いでしょう。自説が「いつでも通用する」という思い込みを防ぐことができます。
得られた情報を基に、観察のポイントを定めていきます。
次回は観察から、記録、分析への流れをお話しします。
参考
1 なぜ、あの人との会話は噛み合わないのか?
2 会話の「噛み合わなさ」の正体
3 「同じミス」を繰り返す人は、「同じミス」だと思っていない
4 質問にきちんと答えられない人
5 思考にも「利き手」がある
6 「茶色い毛玉」か、「うちのミースケ」か?~「具体的知識」のレベル
7 「視野を広げる」ための4つのアプローチ
8 多角的な情報収集~「解像度を上げる」ためのアプローチ(1)
9 何がわが子に起こったか? 「観察」と「記録」と「分析」~「解像度を上げる」ためのアプローチ(2)
10 「抽象化能力」のレベル
11 活躍し続けるベテランは「パターン認識力」が優れている~抽象化能力を支える力1
12 「新入社員が辞めていくのは、新人教育が不十分だから」では、不十分な理由
13 上司の“武勇伝”には、「適用判断力」が欠けている~抽象化能力を支える力2
14 「工場長、本当にその方法で大丈夫なのでしょうか?」適用判断力~抽象化能力を支える力2
15 なぜ、上司によってこんなに評価が異なるのか?抽象化調整力~抽象化能力を支える力3
16 思考スタイルは抽象化能力と具体的知識の組み合わせで決まる
17 「困った人」への対処法1~思考スタイルを知ることで人間関係を楽にする 具体的知識1✕抽象化能力1
18 「困った人」への対処法2~思考スタイルを知ることで人間関係を楽にする 具体的知識1✕抽象化能力2
19 「困った人」への対処法3~思考スタイルを知ることで人間関係を楽にする 具体的知識2✕抽象化能力1
20 「困った人」への対処法4~思考スタイルを知ることで人間関係を楽にする 具体的知識2✕抽象化能力2
21 「知っている」と「理解している」の決定的な違いとは