質問にきちんと答えられない人
抽象化能力がある人から見ると「同じ失敗」だと思えることを繰り返す人がいます。
その原因の一つとして抽象化能力が未発達だということが挙げられます。
抽象化能力が未発達な人には、他の症状も見られます。
プロジェクトの締切を聞いているのに……
質問者: 「このプロジェクトの締め切りは来週金曜日で合っていますか?」
Dさん: 「プロジェクトの進捗状況ですが、先週のミーティングで議論したように、いくつかの課題が浮上しています。特に、データ分析の部分で予想以上に時間がかかっていて、チームメンバーの何人かは残業をしています。それから、クライアントからの追加要望もあって、スコープが少し広がっていますね。ただ、全体的には順調に進んでいると思います。」
質問者が投げかけたのは「はい」か「いいえ」、もしくは「わかりません」で答えられる質問です。
「いいえ」の場合は、正しいプロジェクトの締め切りを伝えてあげる方が親切ですね。「わかりません」の場合は、プロジェクトの締め切りを知っていそうな人を伝えるのも良いかもしれません。
しかし、Dさんは、プロジェクトの締め切りについては答えず、プロジェクトの進捗状況や課題を話し始めています。会話の内容から締め切りは知っていそうではありますが……。
予算内で導入できるかどうか聞いているのに……
質問者: 「新しいソフトウェアの導入は、予算内で実現可能ですか?」
Dさん: 「新しいソフトウェアの導入については、IT部門と何度も打ち合わせを重ねています。現在使用中のシステムとの互換性や、データ移行の問題、それにユーザートレーニングの必要性など、考慮すべき点が多々あります。確かに、初期投資は大きくなりそうですが、長期的に見れば業務効率の向上につながると期待しています。ただ、導入のタイミングについては慎重に検討する必要がありますね。」
これも答えは「はい」か「いいえ」か「わからない」のどれかのはずです。
Dさんはこのソフトウェアの導入について関わっているようですし、初期投資について触れているので、質問で聞かれている予算に関わる情報も多少なりとも知見はあるようです。ただ、質問者の意図に沿った返答にはなっっていません。
バーベキューの出欠を聞いているだけなのに……
質問者: 「今週末、社内バーベキューに来られますか?」
Dさん: 「バーベキューといえば、この前、テレビに肉の専門家が出ていました。肉を選ぶときは、赤身と脂身のバランスが大切らしいです。それと、焼き方にもコツがあるそうで。弱火でじっくりと。あ、ソースの話もしましたっけ? 自家製ソースのレシピを祖母から教わったんです。まず、玉ねぎをみじん切りにして……(中略)」
質問者: 「すみません、それで今週末、来られるんですか?」
Dさん: 「ああ、今週末ですか? 予定を確認してみないと……。ところで、キャンプは好きですか?」
Dさんがアウトドア好きでバーベキュー好きなのはわかります。
ただ、聞かれているのは今週末の社内バーベキューの出欠です。「はい」か「いいえ」で答えられる質問のはずです。今週末の出欠を答えるために、予定の確認が必要なのであれば、バーベキューのうんちくを話す前にそう答えないと、質問者の時間を無駄にしてしまいます。
質問にきちんと答えられない人
これらの会話も「噛み合わない」会話と言うことができます。
Dさんのように質問にきちんと答えられない人は意外なくらい多く見られます。
そういった人達は基本的にサービス精神が旺盛で、話題についての興味も知識も豊富に持っていることが多いです。
悪気は決してありません。むしろ、相手を喜ばせてあげようという気持ちの強い人が多いです。
しかし、相手の質問の意図や質問が出てきた文脈、背景をきちんと把握せずに、質問の中に見られる単語、キーワードに反応し、そのキーワードの周辺情報を延々と垂れ流し続けてしまいます。
「はい」「いいえ」で答えられるはずの質問をしても、「はい」「いいえ」で答えず、その質問の周辺の情報について延々と話すのです。延々と話しているうちに、元の質問が何だったかも忘れてしまっていることも度々です。その長い話の中に答えはあるのかもしれませんが、質問した人にそれを探させるというのは酷な話です。
そして、何よりも質問者の時間を無駄にしています。本人は良かれと思って話しているので余計にタチが悪いと言えます。
質問者が時間に余裕のない状態だったら、イライラしているに違いありません、しかし、質問にきちんと答えられない人達に限って、それを察知することが苦手です。
ちなみにこういった人達、イライラされていることに対しては鈍感なのですが、それに気づいた時には人一倍ショックを受けることが多いように思います。その人にとっても、ぜひ避けたい不幸な状況です。
質問にきちんと答えられない人への対応
こういった人に質問するときには、やはりたずねる側が「聞き方」を工夫するしかありません。
具体的な対策としては、
① 質問の目的、意図を明確にする
② 答え方を指定する
③ 質問を分割する(複数の情報について一度に聞かない)
④ 質問の前に前提を確認する(相手が持っている情報や認識を先に確認する)
⑤ 回答を途中で整理し、質問の意図から外れそうになったら軌道修正する
⑥ 時間や条件の制約を設ける
などが挙げられます。
これを「プロジェクトの締め切り」の例にあてはめるなら
「Dさん、◯◯プロジェクトにかかわっておられますよね?(④) 締め切りのタイミングで、部長確認のスケジュール調整のために教えて下さい(①)。このプロジェクトの締め切りは来週金曜日で合っていますか?」
と質問するのがいいでしょう。
「新しいソフトウェアの導入」の例では
「Dさん、新しいソフトウェア導入のプロジェクトにかかわっておられますよね?(④) 来期分の予算調整で必要ならば追加申請しようかと思うのですが(①)、新しいソフトウェアの導入、予算内での導入は可能でしょうか?」
と質問します。もし、それでもDさんが直接的な可不可を答えないようなら
「来期分の予算調整の書類作成を急いでおり(⑥)、今、急ぎ必要な情報は、新しいソフトウェア導入が予算内でできるかどうかです(①)。現時点の見積ベースで予算内、予算通り、予算オーバーの3つからお答えいただけますか?(②) 技術的な検討状況については別途、時間を取らせて下さい」
と、重ねて聞くのがよいでしょう(⑤)。
「③質問を分割する」は、例えば「バーベキュー」の例で、参加の可否と同時にアレルギーの有無を確認する必要がある場合などに使用できます。
「Dさん、社内バーベキューに興味おありでしたよね?(④) 社内バーベキューの食材準備のために今、人数確認しています(①)。今週末、社内バーベキューに来られますか?」
とたずねて可否の回答を得たうえで、
「参加してくれるのですね、ありがとうございます。不慮のトラブルを避けるため(①)、食物アレルギーがあれば教えてもらえますか?(③)」
と、段階を踏んで質問を重ねていきます。これを一度に尋ねてしまうと、「バーベキュー」や「アレルギー」といった単語に反応して脱線してしまう可能性が高くなります。
状況や相手の立場、感情に配慮しながら①~⑥の手法を適切に組み合わせられると、質問にきちんと答えてもらうことができるでしょう。
また、相手は好意で様々な情報を提供してくれようとしている側面もあるので、乱暴に話を遮ったりするのではなく、脱線した話題への興味も示した上で丁寧に対応する必要があります。
本質思考を意識した会話を心がけることで、より意味のある会話にすることができるのです。
参考
#1 なぜ、あの人との会話は噛み合わないのか?
#2 会話の「噛み合わなさ」の正体
#3 「同じミス」を繰り返す人は、「同じミス」だと思っていない