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何がわが子に起こったか? 「観察」と「記録」と「分析」~「解像度を上げる」ためのアプローチ(2)

「解像度を上げる」ために必要なアプローチは、情報収集、観察、記録、分析という流れです。

情報収集してから観察するのが流れが適切な対象(専門性、客観性、効率を求められるもの)と、まずは先入観を持たずに観察をし、その後、情報収集を行い、再度観察する方が適切な対象(芸術作品、文学など主観、体験が大切なもの)があることには注意が必要です。

今回は観察から、記録、分析への流れをお話しします。

「観察」の3つの基本

多角的な情報収集によって、自分では気付けなかった観察のポイントを定めることができます。そのポイントに従って観察を行うわけですが、どんな対象であっても、「状態」、「変化」、「つながり」に着目することが有効です。

「状態」の観察と記録 「今、どうなっているか?」

形、大きさ、色、数など目に見える特徴、読み取れる特徴にまず着目します。

視野に入っているものについては、中心だけではなく、周縁部・目立たないものに対しても目を向ける姿勢が必要です。

「変化」の観察と記録~「どう変わっているか?」

あるタイミングに観察してから、時間が経過し、状態がどのように変化したのかに着目します。

増えたのか、減ったのか、その変化のスピードは速いのか遅いのか、変化の規則性はあるのか、変化するきっかけとなるものはあるのか、どんな順序で変化していくのか、などに着目するのです。

「つながり」の観察と記録~「何と関係あるか?」

「状態」の観察の際、視野に入っている構成要素に目を向ける旨はお話ししました。今度は、その構成要素間の「つながり」に着目します。何と何が関係しているのか、何が原因で、どんな結果になっているのか、何に影響を及ぼしているのか、誰が関係しているのか、どんな条件なのかに着目してみるのです。

この「つながり」を見たり、把握したりするためには、一定レベル以上の「抽象化能力」が必要になります。しかし、抽象化能力を高めるためには、具体的知識が必要です。「具体的知識」と「抽象化能力」は相互補完関係にあるのです。

「観察」したものを「記録」する

観察しながら、見たもの、読み取れたものについては、可視化できる形で記録することを強くオススメします。観察が終わった後にメモするのではなく、観察をしながらメモを取るのです。

私たちは、観察が終わった直後からどんどんその内容を忘れていきます。若く記憶力が秀でている人ですら、観察した全てを記憶することはできません。正確には、脳のどこかには残っているのですが、それを引き出すことが難しくなるのです。メモは記憶を引き出すためのインデックスのような役目を果たします。

人によって効果的なメモの取り方は異なります。自分の記憶のクセを知り、苦手な方を意識してメモを取る方が効果的です。

例えば、私は文字や数字を記憶することが比較的得意なのですが、視覚に関する情報を記憶することが苦手です。つまり、私の場合は観察しながら、意識して視覚情報をメモすることが効果的だということです。

知人が自宅に遊びに来るとします。最寄りの駅から自宅までの経路を説明する際、私の脳裏に浮かぶのは、駅から自宅までの道のり、距離、方角、経由する信号と目立つ場所の名称です。建物の形や色の情報が少ないのです。一方で、もっと建物の形や色、景色が先に脳裏に浮かぶ人もいます。
自分に合ったメモの取り方を知ることは大切です。

特徴や性質を数値化、定量化したものと、自分がどう感じたかを分けて記述することをオススメします。何か疑問があれば、それも記述します。違和感だけでも良いです。

自分なりの解釈がある場合も、その根拠とともに記述します。

日頃から事実と解釈(意見)を意識する習慣は、現在の状態の観察と記録以外にもポジティブに働きます。

記録をもとに構造を「分析」する

記録に基づいて、分析を行います。分析のレベルは3ステップあります。ただし、2ステップ以降は一定レベル以上の抽象化能力が求められます。

要素の特定

詳細な観察と記録から得られた情報から、まず、個々の構成要素を把握します。

視野に特定の対象しか入っていない場合でも、その対象がどういう要素に分解できるかを考えます。

例えば、視野に対象である飼いネコの「ミースケ」だけが入っているとします。それを「茶トラのネコ」と捉えるだけでは不十分です。どんな顔をしており、どんな前足、後ろ足をしており、どんな毛並みをしており、どんな尻尾をしているのかと要素ごとに見てみるのです。

ここで識別された構成要素にそれぞれどのような特徴や性質があり、何のために存在し、どのように機能するか、そして、その重要性は何かを分析します。同じ対象であってもテーマによってはその重要性が変わってくることは言うまでもありません。

ミースケで言えば、その特徴は全体としての大きさ、体型(かなりの肥満体でお腹の毛が地面につきそう)、フサフサでツヤツヤの毛並み、そして、尻尾が曲がっているというものです。

この分析がきちんとできれば、単なる「茶トラのネコ」の解像度が上がり、「ミースケ」だと特定できます。

関係性の分析

視野に複数の構成要素がある時、要素間のつながりや影響を分析します。中心となる対象に直接に影響を与える要素が何で、間接的に影響を与えている要素が何で、どんな特徴、性質を持っているかを識別し、分析します。

対象に影響を与えているだけではなく、対象から影響を与えられている可能性もあります。循環的に影響を与えているものもあるでしょう。

前述したように、これらの関係性の分析を行うためには、一定レベルの「抽象化能力」が必要となります。逆に言えば、抽象化能力が足りていない場合は、せっかく構成要素を洗い出せても、それらの間のつながりを正しく理解することができないのです。

システム的理解

システム的理解とは、要素がただ集まっているのではなく、それらがどのように関係し、影響しあい、全体として機能しているかを理解することです。

関係性の分析が正しくできた上で、さらに一歩進み、複数の相互に影響を与え合うループが絡み合った結果、全体としてどのように変化していくかを考える必要があります。

そして、どこに働きかければ、望む変化が得られるかが判断できるようになることがシステム的理解の重要な一面と言えます。

このレベルの理解をするためには、視野の拡大が十分にできており、その中の構成要素間のつながりも理解できていることが前提となります。関係性の分析が可能となる抽象化能力よりもさらに高いレベルの抽象化能力も必要となります。

例:小学生の男の子を持つ親の視点

小学生の男の子がいる親の視点を例に考えてみましょう。

その子はおとなしい性格で、自分の意見をはっきり言うことが滅多にありません。

最近、学校からの帰りが遅くなってきており、しばしば手足に小さな傷を作ってくることに気づきました。

「ひょっとしたら、学校でいじめにでもあっているのではないか」と親であるあなたは心配になります。

場合によっては、学校に行って様子を見ようとしたり、先生に相談したり、子供の行動を制限したりするかもしれません。

これは対象としての子供の「状態」と「変化」を観察した際、「帰宅が遅くなっている」、「手足に小さな傷」という事実から、「いじめにあっている」という推測をした結果の行動です。

しかし、子供の「状態」と「変化」はそれだけではありません。子供の言動をより詳細に観察してみると、最近、その子は前よりも元気で活発になっていることがわかりました。

これまでは、受け答えもはっきりしないものが多かったのですが、最近は意思をはっきり表すことが多くなりました。明らかに声も大きくなっています。

これまで遅い時間までゲームをしていたのに、最近はゲームはあまりやらなくなり、早く床に就くようになっています。

家での会話の中にも、これまで出ることがなかった友達の名前や上級生の名前が出てくるようになっています。どうやら、子供の活動している環境内での関係性も変わってきているようです。

ママ友にそれとなく話を聞いてみると、実は、友達に誘われて地域のスポーツクラブの体験をしてから、サッカーに興味を持ち始め、非公式ながら練習に参加させてもらうようになっていたようです。

手足の小さな傷の原因は、慣れていないために転んだり、ぶつかったりしたことのようです。

情報収集の上で、再度、分析してみると、本人はとても楽しんでいるようですし、かすり傷は作っているものの、言動にもポジティブに影響しているようです。また、スポーツクラブの練習の中で、これまで接していなかった「先輩」との交流も経験している様子です。

親としては、「子供の健全な成長」という目的を満たすことは非常に重要です。

そのためには、目に見える子供の状態だけを観察するのではなく、子供の言動、子供に影響を与えている人、環境も含めて観察する必要があります。

そして、全体として良い方向に進んでいるのかどうかを見定める必要があります。まさに「子供の健全な成長」を満たすためのシステムがどのように機能しているかを分析する必要があるのです。

今回のケースでは、地域のスポーツクラブに参加することは、手足にかすり傷を作る原因になっているものの、その子の言動にも良い影響を与えているようですし、何より本人がスポーツを楽しみ、友達や先輩とも良い関係を築けているのですから、神経質になる必要はなかったのでした。

騒ぎ立てたり、子供の行動を制限したりするのは適切ではありません。

むしろ、その子がスポーツをより楽しめるように後押しするのが良いように思えます。

まとめ:「解像度を上げる」ためのアプローチ

多角的な情報収集で観察のポイントを定め、詳細な観察を心がけます。

その際には、「状態」、「変化」、「つながり」に注目します。

自分の記憶のクセを知り、観察結果の中では、自分の苦手な領域を中心にメモを取ることをオススメします。その記録に基づき、分析を行います。

構成要素を把握し、その特徴、性質を理解します。そして、構成要素同士の関係、つながりを理解。さらには構成要素を含む全体(システム)を理解していきます。

構成要素同士の関係やシステムとしての理解を行うためには、それ相応の抽象化能力が必要になります。

次回は抽象化能力についてお話しする予定です。

「具体的知識」解像度向上のための「3つのアプローチ」

参考
1 なぜ、あの人との会話は噛み合わないのか?
2 会話の「噛み合わなさ」の正体
3 「同じミス」を繰り返す人は、「同じミス」だと思っていない
4 質問にきちんと答えられない人
5 思考にも「利き手」がある
6 「茶色い毛玉」か、「うちのミースケ」か?~「具体的知識」のレベル
7 「視野を広げる」ための4つのアプローチ
8 多角的な情報収集~「解像度を上げる」ためのアプローチ(1)
9 何がわが子に起こったか? 「観察」と「記録」と「分析」~「解像度を上げる」ためのアプローチ(2)
10 「抽象化能力」のレベル
11 活躍し続けるベテランは「パターン認識力」が優れている~抽象化能力を支える力1
12 「新入社員が辞めていくのは、新人教育が不十分だから」では、不十分な理由
13 上司の“武勇伝”には、「適用判断力」が欠けている~抽象化能力を支える力2
14 「工場長、本当にその方法で大丈夫なのでしょうか?」適用判断力~抽象化能力を支える力2
15 なぜ、上司によってこんなに評価が異なるのか?抽象化調整力~抽象化能力を支える力3
16 思考スタイルは抽象化能力と具体的知識の組み合わせで決まる
17 「困った人」への対処法1~思考スタイルを知ることで人間関係を楽にする 具体的知識1✕抽象化能力1
18 「困った人」への対処法2~思考スタイルを知ることで人間関係を楽にする 具体的知識1✕抽象化能力2
19 「困った人」への対処法3~思考スタイルを知ることで人間関係を楽にする 具体的知識2✕抽象化能力1
20 「困った人」への対処法4~思考スタイルを知ることで人間関係を楽にする 具体的知識2✕抽象化能力2
21 「知っている」と「理解している」の決定的な違いとは

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