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思考スタイルは抽象化能力と具体的知識の組み合わせで決まる

私は、人が「思考」するとき、個々人によって異なる「思考スタイル」というものがあると考えています。

思考スタイルとは、その人が最も自然で得意とする「ものの捉え方」、「理解・解釈の仕方」を指します。そして、この思考スタイルは「抽象」と「具体」のバランスとレベルによって決まります。

思考における“利き手”と、その”器用さ”を示しているようなものだと考えてもらえればわかりやすいかと思います。

今回はこの思考スタイルとその中身について、そして、自分の思考スタイルを知ることの重要性についてお話ししたいと思います。

思考の利き手とレベル~あなたの考え方の特徴を理解する

例えば、ご飯を食べるときに右手で箸を持ち、左手でお茶碗を持つ人もいれば、その逆の人もいます。これは生まれ持った傾向や、幼い頃からの習慣で決まってくるもので、どちらが正しいというわけではありません。

思考にも、同じように自然な傾向があります。具体的な事例を一つ一つ積み上げていくのが心地よい人もいれば、全体を俯瞰して抽象的に整理するのが得意な人もいます。これが思考の「利き手」です。

そして、無理なくご飯を食べるには両手が必要なように、効果的な思考にも具体と抽象の両方が必要です。また、箸の使い方に上手い下手があるように、思考にもレベルの違いがあります

なぜ思考スタイルを知る必要があるのか

皆さんは仕事や人間関係で、こんな経験はありませんか?

「自分の言っていることは正しいはずなのに、なぜ相手に伝わらないんだろう」

「経験豊富なはずの上司の判断が、時々的外れに感じる」

「わかっているつもりなのに、なぜか同じような失敗を繰り返してしまう」

実は、これらの多くは「思考スタイル」と「自己認知」の問題に根ざしています。

自分の思考スタイルを知ることで、より高いレベルに成長するためのより効果的な方法を見出すことができます。さらに、コミュニケーション相手の思考スタイルを知ることができれば、相手に合わせて適切な伝え方を選択することが可能です。

思考スタイルを決める2つの軸

「具体」と「抽象」という表現をしてきましたが、より正確にいえば、思考スタイルは「具体的知識」と「抽象化能力」という2つの軸で決まります。そして、それぞれの軸の中で発達段階としてのレベルがあります。

具体的知識のレベル

具体的知識のレベルは、ある対象をどれだけ正確に(解像度)、どこまでの範囲で(視野)理解しているかで決まります。

  • レベル0:解像度も低く、視野に対しての認識もないため、事実誤認や断片的な理解しかない

  • レベル1:全体像は掴めているが解像度が低い、もしくは解像度は高いが全体が見えていない

  • レベル2:視野も意識し、解像度も高く、対象自体は詳しく理解している

  • レベル3:対象に直接影響を与える要因まで理解している

  • レベル4:対象を含むシステム全体を理解している

抽象化能力のレベル

抽象化能力は、パターン認識力、適用判断力、抽象化調整力の3つに支えられています。

  • レベル0:パターン認識ができない

  • レベル1:基本的なパターンは認識できる

  • レベル2:パターンから概念を形成できるが、適用条件の判断が不十分

  • レベル3:適切な一般化・法則化ができ、適用条件も理解している

  • レベル4:システム全体をモデル化し、創造的に応用できる

思考スタイルと思考の利き手

思考の傾向とレベル

重要なのは、具体と抽象のどちらが自然かという「利き手」と、それぞれの「レベル」は別物だということです。

例えば、具体的知識レベル1×抽象化能力レベル2の人と、具体的知識レベル2×抽象化能力レベル1の人では、どちらが優れているということはありません。それぞれの得意分野を活かした思考スタイルを持っているだけです。

一方で、具体的知識レベル2×抽象化能力レベル2の人と、具体的知識レベル3×抽象化能力レベル3の人を比較すると、明らかに後者の方が高度な思考ができます。

具体的知識の獲得過程と思考スタイル

具体的知識のレベルは、領域によって異なるのが普通です。ある分野では詳しい知識を持っていても、別の分野では初学者というケースは珍しくありません。

しかし、具体的知識を効率的に得るスキルを持っている人は、新しい領域でも比較的早くレベルを上げることができます

実は、このスキル自体が高い抽象化能力の表れでもあります。つまり、抽象化能力が高まることで、新しい領域での具体的知識の獲得も効率的になるという好循環が生まれるのです。

具体的知識を効率的に得られる人の特徴としては以下のことが挙げられます。

  • 多角的な情報収集ができる

  • 詳細な観察と記録が習慣化されている

  • 構造的な分析ができる

  • 視野の広さを意識できる

このスキルを持っている人は、新しい領域でも素早く具体的知識のレベルを上げられるため、キャッチアップの期間が短く、結果として、多くの領域で似たような具体的知識レベルに到達することが可能です。

これは人材育成の場においても適用可能です。

ある特定の具体的知識を充実させるだけではなく、それを得るスキルを伸ばしていくことが重要だと言えます。

思考スタイルの「過渡期」と「最終形」

新しい領域を学び始めた直後、具体的知識が不足しているのは自然なことです。この時期の思考スタイルは普段とは異なります。新領域での一時的な戸惑いに不安を感じる必要はありません。過渡期なのですから。

具体的知識を得るスキルの高い人は、どの領域でも最終的には似たような具体的知識のレベルに到達することが可能です。結果として、その人特有の思考スタイルが安定的に現れるようになります。これが「その人らしい」として認識される思考スタイルと言えます。

言い換えれば、得意分野での思考スタイルが、最も自然な自分の思考スタイルということになります。

逆に、ある特定の領域については極めて具体的知識のレベルが高いが、それ以外はそこまでのレベルに上がらない人は、具体的知識を得るスキルがさほど高くない可能性があります。

思考スタイル向上のために

私たちは誰でも、「考え方のクセ」「思考の利き手」を持っています。それを否定する必要はありません。しかし、より効果的に考え、行動するためには、両方の手が使えるようになることが大切です。

具体的な理解と抽象的な理解、どちらも疎かにせず、バランスよく高めていくことで、より柔軟で効果的な思考が可能になるのです。


今回は、具体的能力と抽象化能力の組み合わせで決まる思考スタイルについてお話ししました。

次回は思考スタイル毎の特徴とコミュニケーションや人間関係構築の際のポイント、自己認知による行動の変化についてお話ししたいと思います。

参考
1 なぜ、あの人との会話は噛み合わないのか?
2 会話の「噛み合わなさ」の正体
3 「同じミス」を繰り返す人は、「同じミス」だと思っていない
4 質問にきちんと答えられない人
5 思考にも「利き手」がある
6 「茶色い毛玉」か、「うちのミースケ」か?~「具体的知識」のレベル
7 「視野を広げる」ための4つのアプローチ
8 多角的な情報収集~「解像度を上げる」ためのアプローチ(1)
9 何がわが子に起こったか? 「観察」と「記録」と「分析」~「解像度を上げる」ためのアプローチ(2)
10 「抽象化能力」のレベル
11 活躍し続けるベテランは「パターン認識力」が優れている~抽象化能力を支える力1
12 「新入社員が辞めていくのは、新人教育が不十分だから」では、不十分な理由
13 上司の“武勇伝”には、「適用判断力」が欠けている~抽象化能力を支える力2
14 「工場長、本当にその方法で大丈夫なのでしょうか?」適用判断力~抽象化能力を支える力2
15 なぜ、上司によってこんなに評価が異なるのか?抽象化調整力~抽象化能力を支える力3
16 思考スタイルは抽象化能力と具体的知識の組み合わせで決まる
17 「困った人」への対処法1~思考スタイルを知ることで人間関係を楽にする 具体的知識1✕抽象化能力1
18 「困った人」への対処法2~思考スタイルを知ることで人間関係を楽にする 具体的知識1✕抽象化能力2
19 「困った人」への対処法3~思考スタイルを知ることで人間関係を楽にする 具体的知識2✕抽象化能力1
20 「困った人」への対処法4~思考スタイルを知ることで人間関係を楽にする 具体的知識2✕抽象化能力2
21 「知っている」と「理解している」の決定的な違いとは

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