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活躍し続けるベテランは「パターン認識力」が優れている~抽象化能力を支える力1
みなさんは、「抽象化能力」と聞くとどんな力を思い浮かべるでしょうか。
複雑なものを簡単にまとめる力?
細かい話から全体像を捉える力?
「要するに◯◯ってことだよね」と説明できる力?
あるいは、抽象化をネガティブに思っている人は、
具体的にどういうことかはわからないけど、理屈っぽい人が持っている力?
現場で役に立たない理屈を考える力?
話を難しくする人が持っていそうな力?
と答えるかもしれません。
私の定義する「抽象化能力」は、一般に言われているものよりも広い意味を持っています。
抽象化能力=パターン認識力✕適用判断力✕抽象化調整力
「抽象化能力」を分解すると大きく3つの力で成り立っていると考えています。その3つとは、
・パターン認識力
・適用判断力
・抽象化調整力
です。
パターン認識力とは、複数の経験から共通項を見出す能力。
適用判断力とは、識別されたパターンを適用する条件について判断する能力。
抽象化調整力とは、状況に応じて臨機応変に抽象度を調整したり、抽象から具体、具体から抽象の移行ができる能力です。
3つの力の礎となる力~抽象化の軸・抽象度を選択できる力
さらに、これらの3つの力には、共通の基盤があります。
それが、適切な抽象化の軸の選択と抽象度の判断をする力です。これらは、パターン認識力にも適用判断力にも抽象化調整力にも活用されます。
抽象化を行う際には、適切な抽象化の軸の選択と適切な抽象化の度合いが必要となります。
目の前に「茶トラのネコ」がいるとしましょう。抽象化を行うとき、「ペット」という軸もあれば、「哺乳類」という軸もあります。「可愛い生き物」、はたまた「アレルギー源」という軸も考えられます。
ペットという軸であっても、ロボットのような人工物まで含めてのペットなのか、爬虫類や鳥類、魚類まで含めての生き物としてのペットなのか、哺乳類に限定したペットなのか、ネコのみなのかという抽象度を適切に判断する必要もあります。
適切な抽象化の軸・抽象度を選択するためには
適切な抽象化軸、抽象度を選択するためには、そのとき行っている活動、行動、会話の目的を意識することが最も大切です。
問題解決のためなのか、知見の一般化のためなのか、パターンの発見のためなのか。まずは目的を明確に意識することです。
その目的を満たすために、適切な抽象化の軸、抽象度を考えます。
目的を意識すれば、抽象化の軸は自ずと導かれることが多いはずです。
抽象化の軸を誤ってしまう場合のほとんどが、活動、行動、会話の目的を明確に掴めていない時です。
時折、目的が不明確なまま会議や会話がなされることがありますが、その場合はどんな人であっても、適切な抽象化の軸を見極めることはできません。できたとしてもそれは偶然です。
抽象度の選択については、直接的な問題解決が必要な場合や具体的な実装が求められる場合、詳細な手順の説明が必要な場合は、抽象度が低い=具体的な方が適します。
一方で、パターンの発見や、広範な適用範囲が求められたり、概念的な理解が重要だったりする場合は抽象度が高い方が適しています。
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なぜパターン認識力が重要か
これを踏まえて、改めて「3つの力」を見ていきましょう。
まずは「パターン認識力」です。
パターン認識力はいわば、人間の「学習」の礎となるものです。一つの経験から得られた知見を、他の体験に活かすために必須の能力であり、仕事をするためにも、生きていくためにも必要な能力です。
現実問題として、この能力が全く無い大人はほとんどいないでしょう。
一方で、幼い子供のパターン認識力は総じて低いです。パターン認識力は複数の例がないと培われませんし、活用もできません。幼い子供は、まだパターン認識力を培うのに必要な数の例を得られていないのである意味、当然です。
パターン認識の際には、着目した軸=抽象化の軸以外の詳細には目をつむり、共通点を見出す必要があります。抽象化の軸がしっかりしていないと、詳細な差異が気になってしまいパターン認識が困難になります。
パターン認識力が低い人は、同じような失敗を繰り返したり、根本原因を探ろうとしないため、対症療法的な対応に終始することが多くなります。その結果、時間とエネルギーが無駄になってしまいます。
一定程度のパターン認識力があればそれを防ぐことができますし、一度の経験から得られる学びを最大化できるわけですから、効率的に学習、成長ができると言えるでしょう。
また、より良い意思決定のためにもパターン認識力は必要です。
複数の例から本質的な共通点を見出す力は、表面的な現象に惑わされずに、根本原因を特定したり、優先順位を適切に判断するのに寄与します。
過去のパターンから将来の展開を予測することにも可能になりますし、リスクの早期発見にも繋がります。
既存のパターンの新しい組み合わせができたり、異分野の知見を活用できたりするレベルまでパターン認識力が上がると、創造的な問題解決、イノベーションの創出にも繋がります。
さらに、相手の行動や思考のパターンを理解することで、より適切な対応が可能になります。コミュニケーションの改善に繋がったり、チームワークの向上に繋がったりするのです。つまり、人間関係の質を向上させられると言えるでしょう。
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パターン認識力のピークはシニア?
人間の記憶力は若いうちにピークを迎え、その後は衰える一方です。個人差が大きく、年を重ねてもほとんど衰えない人がいるのも事実ですが、若い頃よりも記憶力が上がっているという人は稀だと思います。
しかし、パターン認識力は経験を重ねていく中で培われる能力のため、記憶力と比べるとそのピークはずっと遅れてくるように思います。
私自身もパターン認識力はまだまだ伸びている最中だと実感できますし、現役で活躍されている先輩たちの多くは、パターン認識力が総じて高いように感じます。
シニア世代が社会に提供できる価値ある能力の一つと言えるのではないかと思います。
パターン認識力を向上させることは、間違いなく大切なことなのですが、その際に注意すべき「ワナ」もあります。次回はそのことについてお話しします。
参考
1 なぜ、あの人との会話は噛み合わないのか?
2 会話の「噛み合わなさ」の正体
3 「同じミス」を繰り返す人は、「同じミス」だと思っていない
4 質問にきちんと答えられない人
5 思考にも「利き手」がある
6 「茶色い毛玉」か、「うちのミースケ」か?~「具体的知識」のレベル
7 「視野を広げる」ための4つのアプローチ
8 多角的な情報収集~「解像度を上げる」ためのアプローチ(1)
9 何がわが子に起こったか? 「観察」と「記録」と「分析」~「解像度を上げる」ためのアプローチ(2)
10 「抽象化能力」のレベル
11 活躍し続けるベテランは「パターン認識力」が優れている~抽象化能力を支える力1
12 「新入社員が辞めていくのは、新人教育が不十分だから」では、不十分な理由
13 上司の“武勇伝”には、「適用判断力」が欠けている~抽象化能力を支える力2
14 「工場長、本当にその方法で大丈夫なのでしょうか?」適用判断力~抽象化能力を支える力2
15 なぜ、上司によってこんなに評価が異なるのか?抽象化調整力~抽象化能力を支える力3
16 思考スタイルは抽象化能力と具体的知識の組み合わせで決まる
17 「困った人」への対処法1~思考スタイルを知ることで人間関係を楽にする 具体的知識1✕抽象化能力1
18 「困った人」への対処法2~思考スタイルを知ることで人間関係を楽にする 具体的知識1✕抽象化能力2
19 「困った人」への対処法3~思考スタイルを知ることで人間関係を楽にする 具体的知識2✕抽象化能力1
20 「困った人」への対処法4~思考スタイルを知ることで人間関係を楽にする 具体的知識2✕抽象化能力2
21 「知っている」と「理解している」の決定的な違いとは