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翔太の微笑みと、ナースの思い出。



その日、病院の廊下には昼間の慌ただしさとは対照的に静寂が広がっていた。32歳の看護師、夏川真琴(なつかわ まこと)は、夜勤のための準備を終え、ナースステーションに戻った。彼女の目線の先には、小児科病棟の一室にいる10歳の少年、山田翔太(やまだ しょうた)の姿が見えた。

翔太は重度の喘息で定期的に入院していた。彼はいつも明るく元気に振る舞っていたが、夜になると少し寂しそうな表情を見せることが多かった。

真琴はそんな翔太のことを気にかけていた。翔太が他の子どもたちよりも特別に

彼女の心を惹きつけたのは、彼の持つ無垢で純粋な心にあった。


翔太は病気と闘いながらも、他の子どもたちや看護師たちに優しく接し、自分の痛みや苦しみを感じさせないように努めていた。

真琴は夜の巡回を終えた後、翔太の部屋を訪れた。ドアを静かに開けると、翔太がベッドに座って何かを見つめているのが見えた。

「翔太くん、まだ起きてるの?」と、真琴は優しく声をかけた。

翔太は驚いたように顔を上げ、「あ、真琴さん。こんばんは」と微笑んだ。

「こんばんは、翔太くん。どう?今日は調子はどうだった?」真琴はベッドの横
に座り、翔太の顔を見つめた。

「うん、大丈夫。お薬もちゃんと飲んだし、息も少し楽になったよ」と翔太は答えた。

真琴は安心したようにうなずき、「それは良かった。でも、夜はちゃんと休まないといけないよ。何か心配なことでもあるの?」と尋ねた。

翔太は少し恥ずかしそうに目をそらし、「実は、ちょっとだけ電話したいんだ。でも、夜遅いし、怒られちゃうかなって思って…」と小さな声で言った。

真琴は微笑んで、「誰に電話したいの?」と優しく尋ねた。

「お母さん。今、

旅行に行ってて、話したいことがいっぱいあるんだ。でも、お母さんは忙しいし、夜中に電話したら迷惑かなって思って…」翔太

の声には少し不安が混じっていた。

真琴はその気持ちを理解し、「それなら、私が一緒にいるから、お母さんに電話してみようか。きっと喜んでくれるよ」と励ました。

翔太は嬉しそうに目を輝かせ、「本当に?ありがとう、真琴さん!」と言った。

真琴は翔太の携帯電話を取り出し、お母さんの電話番号をダイヤルした。数回のコールの後、電話の向こうから優しい女性の声が聞こえた。

「もしもし、翔太?」とお母さんの声が響いた。

「お母さん!今、病院から電話してるの。元気だよ」と翔太は嬉しそうに話し始めた。


真琴はそのやり取りを見守りながら、翔太の顔に浮かぶ笑顔を見て、自分の心が温かくなるのを感じた。翔太とお母さんの会話はしばらく続き、真琴はその間、静かに見守っていた。

翔太が電話を切った後、真琴は「よかったね、お母さんと話せて」と微笑んだ。

「うん、本当にありがとう、真琴さん。お母さんも元気だって言ってたし、少し安心したよ」と翔太は満足げに答えた。

真琴は翔太の頭を優しく撫で、「それなら、もう少し休んで元気になろうね。お母さんも喜ぶよ」と言った。

翔太は「うん、ありがとう」と感謝の気持ちを込めて言った。

その夜、翔太は安心して眠りについた。真琴はその姿を見届け、ナースステーションに戻る途中、ふと翔太の純粋な心に触れたことを思い出し、心が温かくなった。


数日後、翔太の容態は安定し、退院の日が近づいていた。真琴はそのことを喜びながらも、少し寂しさを感じていた。翔太との交流は、彼女にとっても特別なものだったからだ。

退院の日、翔太のお母さんが迎えに来た。真琴は翔太の荷物を手伝いながら、お母さんに病院での様子を報告した。

「真琴さん、本当にありがとうございました。翔太のこと、いつも気にかけてくださって」とお母さんは感謝の言葉を述べた。

真琴は微笑んで、「こちらこそ、翔太くんに元気をもらいました。これからもお大事に」と答えた。

翔太はお母さんと一緒に病院を出る前に、真琴に向かって「また会えるよね?」と尋ねた。

真琴は優しくうなずき、「もちろん。また元気な姿を見せてね」と答えた。

その後、翔太は家に帰り、学校生活を再開した。真琴も病院での日々を続けながら、翔太との思い出を胸に刻んでいた。

そしてある日、真琴のもとに一通の手紙が届いた。それは翔太からの手紙だった。

「真琴さん、元気ですか?僕は学校で元気に過ごしています。お母さんも喜んでくれて、毎日が楽しいです。また病院に行くことがあったら、真琴さんに会いたいです。ありがとう。翔太より」

真琴は手紙を読んで、自然と微笑みがこぼれた。翔太の元気な様子が伝わってきて、彼の成長を感じることができた。

真琴はその手紙を大切にしまい、翔太の笑顔を思い出しながら、これからも頑張ろうと心に誓った。翔太との出会いは、彼女にとってかけがえのない宝物となり、これからもその温かい思い出が彼女の心を支え続けることだろう。





この物語は私が小学生のときに読んだ神様のカルテを意識して作った物語です。

主題歌は勝手にですが、Mrs Green Appleさんの「ニュー・マイ・ノーマル」です。

愛なんていろんな形があります。

皆さんが愛するダレカやナニカと結ばれてますように。


ではまた、


小鳥山シンジ

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