【ピリカ文庫】東京のおじさん
【Osada Akane's Case ー 長田茜の場合】
こんな人生しか生きられないなら、
もう終わりにしていい。
幼い頃は分からなかった。
いや、疑問すら抱かなかった。
親の言う通りにしていたら、誉めてくれた。
欲しいものは、何でも買ってくれた。
やりなさいと言われたことは、全部やってきた。
少しずつ、本当に少しずつ。
水底に澱が溜まっていくように。
気が付いたら、私の心の中の疑問が大きくなっていた。
医師は素晴らしい職業だと思う。
だけど、私がなりたいかどうかは別の話だ。
ママは、自分が叶えられなかった夢を、
私に押し付けようとしているだけ。
『自分の夫と娘が医者』っていう、
ステータスが欲しいだけ。
ママにとっての私は、きっと
自己顕示欲を満たすためだけの存在。
パパには、もう1か月以上会ってない。
昨日、真夜中にこっそり帰ってきてたのは知ってる。
着替えを取りに来ただけ。
ママと顔を合わせれば、絶対ケンカになるからね。
ママのことは分かる。
でも、何で私のことも避けるんだろう。
別に反抗期じゃないし。
学校のこととか、将来のこととか。
普通の親子として、色々話したいのに。
仮面夫婦ってことばがあるけど、
ウチは完璧な仮面家族だ。
家族の愛情なんて、感じたことない。
「アイツ、絶対に浮気してるから」
また始まった。
ママと晩御飯の時は、いつもこの話だ。
【Osada Michiyo's Case ー 長田道代の場合】
今日、探偵事務所に行ってきたのよ。アイツが言い逃れ出来ないように、証拠全部押さえてやるんだから。
ホントは今すぐ離婚してやりたいとこだけど、あと2年は我慢しなきゃいけないのよ。だって、茜の医学部受験に影響があったら困るでしょ。
父親が医者ってだけで、他の子より有利なのよ。茜の担任は『一般入試であれば関係ないですよ』って笑ってたけど。教師のくせに何も知らないのよね。ホント呆れちゃうわ。
とにかく、絶対に現役で医学部合格しなさいよ!
じゃないと、ワタシの計画が狂っちゃうからね。
茜が合格した当日に、アイツに離婚届を叩きつけてやるのよ。それまでに浮気の証拠をきっちり掴んで、慰謝料もたっぷり分捕ってやるわ。そのお金があれば、医学部の高い授業料も払えるし、ワタシも老後まで安泰だからね。
茜、絶対に現役で医学部合格するのよ。そのために塾に行かせてるんだから。ねえ聞いてんの!?
【Osada Akane's Case ー 長田茜の場合】
『私はママの二周目じゃない』
リビングテーブルの上にこれだけ書き残して、
私は学校にいくフリをして家出した。
電話もメールもLINEも、
パパとママのは全部ブロックした。
もう何も見たくないし、何も聞きたくない。
うんざりする。何もかも。
早く楽になりたい。
…………
いや、死に場所を探す前に、会いたい人がいる。
私に残された唯一の希望。
東京のおじさん。
【Aizawa Toru's Case ー 相澤亨の場合】
「山田様。すみません。食中毒になってしまいました。はい。病院には行ってきました。安静にしておくようにと。はい。申し訳ありません。今日の打ち合わせを延期して頂きたく。ありがとうございます。はい。回復後にご連絡します。失礼します」
生まれて初めて仮病を使った。
さて。
【Osada Akane's Case ー 長田茜の場合】
おじさんが来てくれるというだけで、涙があふれてくる。
ダメだ、1回出たら止まらないや。
店員さんが心配そうに声を掛けてくれた。
ごめんなさい。大丈夫です。ごめんなさい。
【Osada Takafumi's Case ー 長田孝史の場合】
結局今回も、茜に声を掛けずにこちらに戻ってきてしまった。真夜中だから、きっと寝てるからというのは、自分に対しての体の良い言い訳だ。
確かに仕事は激務だし、片道1時間半の運転が負担であることも事実。だがそれらも、家に帰って妻と口論になり、茜に嫌な思いをさせることに比べれば、些細なことだ。
茜には人一倍の愛情を持っているが、愛情の表し方が分からない。接し方も分からない。たまに声をかけても、興味なさげな相槌ばかりで、殆ど会話が続かない。私自身の不器用さのせいなのか、負い目なのか、臆病なのか…世間の父親は、どうやって娘と接しているんだろう。
妻との関係はもっとひどい。顔を合わせれば喧嘩。そんな状態が、10年以上続いている。最近は、私が浮気をしていると決めつけてくる。1か月に1~2回しか家に帰らない私にも落ち度はあるが、家にいても全く安らげないし、私の居場所もない。情けない話だが、病院の仮眠室の方が休息になる。
離婚に踏み切らない理由は、茜だ。今、妻と茜の2人にしたら、きっと茜は潰れてしまう。茜は医師になるために、医学部入学を目標としている。いや、目標にさせられているといった方が正しい。
【Osada Michiyo's Case ー 長田道代の場合】
は?何言ってるの!?茜は女医になるの!昔からそう決まってるの!何で医者であるアナタが反対するのよ!
別に反対はしてない?だったら何でそんなイチャモンつけてくるのよ!……茜の本当にやりたいこと?だから、お医者さんになって、沢山の命を救うことだって言ってるでしょ!
そうでしょ茜……茜!何で黙ってるの!これじゃワタシがあなたに押し付けてるみたいじゃない!
大体アナタも医者なんだから、下らないイチャモンつけてないで、医者の仕事の素晴らしさを伝えなさいよ!茜の受験勉強にプラスになるようなアドバイスの1つや2つしなさいよ!何のためにアナタと結婚したと思ってんのよ!医者じゃないアナタに何の価値もないんだからね!
【Osada Takafumi's Case ー 長田孝史の場合】
茜が高校を卒業して、大学生になって家を出ることになったら、すぐにでも離婚していいと思っている。それまでは、妻と2人きりにさせるわけにはいかない。茜の心が、壊れてしまう。
とはいえ、実際は茜に対して、私は何もしてやれてない。
本当は昨日家に帰った時、茜に伝えたかった。
こんなことすら、伝えられないのか。
情けない父親だ。
いや、これは今伝えないといけないんじゃないか。
取り返しのつかないことになる前に。
……
出てくれるかは分からないが、電話してみるか。
【Aizawa Toru's Case ー 相澤亨の場合】
湘南新宿ラインに乗る。新宿に向かう。「東京のおじさん」と呼ばれている俺。実際は神奈川住みだ。勿論茜は知らない。
年に2回。茜は東京に来る。「東京のおじさん」として。俺は色んな場所を案内してきた。上野のアメ横で目を輝かせる姿。浅草で人力車にはしゃぐ姿。東京タワーの展望台。ガラス張りの床におっかなびっくり乗る姿。全て鮮明に覚えている。隅田川の屋形船。台場の観覧車。俺は観光ガイドが出来る。それぐらい東京に詳しくなった。神奈川県民なのに。
…………
こうなる予感はあった。
ここ数回。東京駅で見送る時。
「帰りたくない」
茜が本気で言うようになった。ごねる茜を諭す。新幹線に乗せる。俺のルーティンだ。窓にへばり付いて俺を見つめる。茜の瞳。苦しい。目を逸らしそうになる。
想像は出来た。敢えて聞かなかった。東京では全てを忘れてほしい。今この時を茜には楽しんでほしかった。
今回はそうもいかない。
「東京のおじさん」として。
俺は茜を守る。
和解の条件を破ったとしても。
【Osada Michiyo's Case ー 長田道代の場合】
これ、ウチの弁護士と相談した内容。亨がこれで良いなら、和解に応じてあげてもいいわ。ワタシ的には、慰謝料の請求ゼロってのは、正直納得いかないけど。これ以上長引いても、裁判費用で赤字になっちゃうって弁護士が言うから。
そう。6歳以降。茜はまだ亨を父親と認識してないからね。ワタシ再婚するかも知れないし、その時は新しい旦那が父親になるんだから。茜がちゃんと物心つくまでは、亨に会わせたくないのよ。
何よ。たったの4年我慢するだけじゃない。
……成長する姿を見たいってこと?
だったら、月イチで写真とか動画とか送るわよ。
それでいいでしょ?
……何よさっきから!
元々は亨が原因を作ったんだからね!
気軽に保証人になったのがいけないんだからね!
亨がその気なら、借金返済する気力も起きなくなるくらい、徹底的に闘ってもいいんだからねコッチは!
【Osada Akane's Case ー 長田茜の場合】
おじさん、話聞いてくれてありがとね。
さっき新宿着いて、ホーム歩いてる時、このまま飛び込んだら、楽になるかなって…吸い込まれそうになっちゃった。
おじさんが来てくれなかったら…
茜、どうなってたかわかんない。
ごめんね。うん、今は大丈夫。
おじさんの顔見たら、少し落ち着いた。
……うん。ママっていうか……もうこの人とは一緒にいられないなって。この人に縛られる人生なら、もう要らないって思っちゃって……うん。パパは相変わらず。全然家に帰ってこないし。茜に興味ないんだと思う。ママの言う通り、浮気してるのかもね。
「家族愛」とか言うじゃん?
茜、そんなの感じたことないよ。
小さい頃はあったのかな……
あーあ。茜、おじさんの子どもだったら良かったのになー
おじさんの家に生まれたかったなー
そんな、困った顔しないで笑
ごめん冗談。
……うん。
あの家には絶対に帰らない。
……連絡?うん、来てない。
全部ブロックしたから。
……うん。分かった。
おじさん、トイレの窓から逃げないでよ笑
戻ってきてね。絶対だからね。
【Osada Takafumi's Case ー 長田孝史の場合】
はいもしもし、長田です。
……相澤さん、ご無沙汰してます。
はい、今大丈夫です。
はい……はい……ハァァ……そうですか……
はい……思い当たる節は…あります。
さっき茜に電話したんですけど、着信拒否されてるみたいで…
はい……はい……そうですか……
茜、そんなこと言ってましたか……
いえ、直接は話していませんが、分かってました。
私のせいです。私が茜を守ってやれなくて……
こんなことを言ったら、相澤さんは不快に思われるかも知れませんが……
その……生みの親ではない負い目が、私にあるんだと思います。
……はい、仰る通りです。今の父親は私なのに……情けないこと言ってすみません。
……いえそんな、こちらのことは気にしなくて大丈夫ですので。
はい、妻と向き合って、ちゃんと話します。
分かりました。茜の学校には、私から連絡しておきますので。
はい。茜が落ち着いて、話が出来る状態になったら、私たちが東京に向かいます。
それまで、茜のことをよろしくお願いします。
【Aizawa Toru's Case ー 相澤亨の場合】
長田さん。俺と同じ匂いがする。仕事以外は不器用な人だ。何となく分かる。茜が毎日近くにいたら。きっと俺だって。長田さんと同じ境遇だ。
だとしても。
長田さんはよき理解者になってくれる。
ほんの少しで良い。茜から歩み寄れれば。
きっと大丈夫。
さて。
問題の方にかけるか。
放っておいても向こうからくる。ヒステリックな電話をかけてくる。連れ去りだ何だと喚く。
だったら。
こっちから先に。
………
フゥ…
冷静にいけよ。
お前は東京のおじさんだ。
【Osada Michiyo's Case ー 長田道代の場合】
亨。連絡しようと思ってたのよ。
茜、亨のとこ行ってないでしょうね?
……やっぱりね。そんなことだと思った。茜をそそのかして、こっち出てこいとか無責任に言ったんでしょ。ママの言いなりになって可哀そうとか、適当なこと言って。
あのねぇ、受験勉強ってのは1日も無駄に出来ないの!茜が今日塾を無断欠席したことで、どれだけライバルに差をつけられたか分かってんの!?
……何よ。良いわよ言ってみなさいよ。
………
は?茜がそんなこと言うわけないじゃない。
笑わせないでよ。
………
………
………
それ、本当にあの子が言ったのね?
………
………
状況はわかったわ。それで?茜をどうするの?
……
ホテルね。分かった。
今回だけは、特別に許可してあげる。
念のため宿泊先教えて。明日迎えにいくから。
【Osada Akane's Case ー 長田茜の場合】
え?ホテルに泊まるの?
えー茜はおじさん家がいいのになー
うん。おじさん家のお泊りは茜の念願だもん。
ゴミ屋敷?絶対ウソ笑
ごめん。贅沢は言いません。
てか、普通ホテルの方が贅沢じゃない?笑
あ、でもさ、おじさんと茜の2人でホテルいったら、あの人パパ活してるー!ってならないかな。茜、制服のまま来ちゃったし。…え?だって、学校いくフリしての家出だから笑
あ!良いこと思いついた!
茜、今日だけおじさんの娘になるよ!
だって、親子でホテル泊まるのは普通のことでしょ?
パパ活じゃありません、ホントのパパです!みたいな笑
よし、決まりで!
今日だけ、おじさんのことパパって呼ぶからね、
……え~!いいじゃん!そんな固いこと言わないで!
ね?ね?いいよね?いいよね?
やった~~~!
じゃあ茜は、一日限定で「相澤茜」になりまーす笑
うふふ。相澤茜。
相澤茜だって!良い響き!笑
……え?行きたいとこ?何で?
……あ、そっか。チェックインまで少し時間あるもんね。
ん~…今回はさすがに考えてなかったな~笑
じゃあね…公園!公園でパパとのデートを希望しまーす!
【Aizawa Toru's Case ー 相澤亨の場合】
茜と2人。新宿中央公園に来た。平日の午後。人はまばらだ。ランニングしている人。犬の散歩をしている人。親子連れ。夕日に照らされた芝生。
「パパ、ナイアガラの滝だって!」
茜のテンションが上がる。本場と比べればミニチュア。まだ暑さの残る9月。大都会の中で滝の音。2人で癒される。
「パパ見てー!都庁がこんな近いよ!やっぱ高いね!」
茜の屈託のない笑顔。年に2回。これを見るために。俺は頑張ってきた。しかしパパって。茜もよく自然と呼べるな。まあパパなんだけど。
ナイアガラの滝の裏。白糸の滝。豪快な水の音の前者。後者は落ち着きのある風情。
「新宿のど真ん中に、こんな公園があったんだね。都会のオアシスってヤツだね。茜にとってのパパみたいな笑」
そのセリフ。パパはそのままお返ししたいです。
心の中で噛みしめる。黙って頷く。
グルっと一周。園内にあるStarbucksに入る。ここは2階がテラス席になっている。運よく貸し切り状態だった。茜は何とかフラペチーノ。俺はアイスコーヒー。
少しずつ日が沈んでいく。新宿西口の高層ビル群。赤から紫。グラデーションの中に溶けていく。
「このまま時が止まればいいのにな~」
そりゃ俺だって。
これが永遠に続いたらいいのに。
今日100回くらい思った。
やはり心の中で噛みしめる。黙って頷く。
「茜、ホントにパパの子になりたーい!神様にお願いしちゃう笑」
茜が屈託なさすぎ問題。
こんな発言を連発されまくって。
俺の心が持たない。
何にせよ。
今は茜の心の回復が一番大事だ。
医者だとか。建築士だとか。
そんなのは置いとく。
茜には笑顔でいてほしい。
それだけが俺の願いだ。
【Kato Masaru's Case ー 加藤優の場合】
新宿フィラデルフィアホテルにようこそおいでくださいました。私、ベルスタッフの加藤と申します。よろしくお願いいたします。
今日はご旅行ですか?
そうですか。お父様とお二人で。
ええ、ええ。あ、新宿中央公園に行かれたんですね。
あそこ良いですよね~私も仕事帰りに寄ったりします笑
では、ごゆるりとお過ごしくださいませ。
失礼いたします。
【Osada Akane's Case ー 長田茜の場合】
…うん。
そっか……
……
…うん、分かった。
もう少し、茜からパパに寄り添ってみるね。
あ、パパって向こうのパパね!
紛らわしいな……
決めた。向こうのパパは「お父さん」って呼ぶことにする。
…ダメ!今日のおじさんはおじさんじゃないの!
茜のパパなの!
……うん。そうだね。
ママとは正直、一緒に暮らせないと思うから…
お父さんに相談してみる。
最悪、ひとり暮らしでも良いし。寂しいけど。
……うん。そうだよね。
お医者さんって仕事が、茜に合ってるってどうしても思えなくて。
ずっと違和感があったんだよね。
茜、文章を読んだり書いたり、
人の話を聞いたりするのが好きだから。
新聞記者とか、雑誌の編集者とか、そういう仕事がしたくて。
……うん。
お父さんに伝えてみるよ。
パパ、ありがとう。
パパのお陰で、また生きてみようって思えてる。
(コンコン)
…ん?
パパ、誰か来た?
【Tokura Yuzo's Case ー 戸倉雄造の場合】
(コンコン)
「はい」
「相澤様、失礼いたします。戸倉様という方が…」
あ、加藤さんと言ったね。ここで結構。どうもありがとう。
相澤亨さん、ですね。
警視庁新宿署の戸倉と申します。
突然すみません。
相澤さんに、未成年者略取の容疑が掛けられています。
少しお話を伺いたくて。
署まで任意同行していただけますでしょうか。
……長田茜さん、ですね。
お母様から警視庁の方に連絡がありまして。相澤さんと貴女は親子ではないということは伺っています。
相澤さん、間違いないですよね。
……あ、いえ。
それが、相澤さんは貴女のご親戚でもないようなんですよ。
突然のことで、驚かせてしまってすみません。
我々の目的は、貴女を保護して、お母様のもとにお返しすることです。
詳しいことは、署にお母様が来られたらお話しましょう。
お母様から茜さんにお伝えしたいことも、あるようですし。
………いえ、未成年略取というのはですね、ご本人、この場合は長田茜さん、貴女になるのですが、ご本人の同意があっても、18歳以下の場合は、保護者の同意がなければ、罪に問われてしまうものなんですよ。
……相澤さんは、その点ご存じでしたか。
【Osada Akane's Case ー 長田茜の場合】
パパ……どういうこと…ねえパパ!
ねえ…なんで黙ってるの……このままだと捕まっちゃうんだよ!
刑事さん!パパは誘拐なんてしてないよ!だって、私が小さいころから会ってたんだよ!今日だって、私を救ってくれたの!パパがいなかったら、茜死んでたかも知れないの!
【Aizawa Toru's Case ー 相澤亨の場合】
茜。
おじさんは茜の親戚ではないんだ。
騙しててすまなかった。
戸倉さん…でしたっけ。
すみません。
茜に一言伝える時間をください。
茜。心配するな。
茜の言う通り。
おじさんは誘拐なんてしてない。
逮捕されるわけじゃない。
この人と話をしてくるだけだ。
茜とは今後会えなくなるかもしれない。
でも茜の近くには。
必ず味方になる人がいる。
きっと大丈夫。
一度きりの人生だ。
茜のやりたいことをやればいい。
泣くな。
茜にはいつも笑顔でいてほしい。
元気でな。
<Six years later ー 6年後>
はい、玉川設計事務所です。はい……はい……相澤ですね。はい、相澤はウチの設計士ですが、ご用件は?………ええ……それはご紹介か何かですか?……分かりました。ちょっと本人に確認しますので、そのままロビーでお待ちいただけますか。
【Osada Akane's Case ー 長田茜の場合】
おじさーーーーーーーーーん!!
やっと会えたーーーーーーーーーーー!!
【Aizawa Toru's Case ー 相澤亨の場合】
6年振りの茜は、大学生だった。
大学では社会学を専攻。既に出版社から内定。来春には雑誌編集者。「昭和~令和の東京の建築物の変遷」というテーマで卒論。その取材という名目。東京中の設計事務所をアポなしで総当たり。俺に会うなり。早口でまくし立てた。
去年東京に引っ越しておいてよかった。
いや。まあそれは置いといて。
茜。あの後どうなったんだ?
【Osada Akane's Case ー 長田茜の場合】
あの後ね、お父さんとママと茜で家族会議になったんだけど、やっぱママには分かってもらえなかったんだよね。それで、お父さんが離婚を切り出して。茜は自分の意思で、お父さんを選んでね。家も売り払って、お父さんの病院の近くに小さいマンション借りて、お父さんと2人暮らしを始めてね。
最初はぎこちなかったけど笑、お父さん、茜の話、ちゃんと聞いてくれるようになって。その上で、賛成してくれたり、意見をくれたりして。茜も、勉強頑張りながら、家のこともやって。そうやっていくうちにね、少しずつ、家族の絆みたいなのが出来て。
おじさんにも連絡したんだよ!でも、電話もメールも繋がらなくて…あー連絡先変えちゃったんだって。いっそのこと東京行って探そうかと思ったんだけど、まだ地元にいたし、受験勉強や家のことで一杯一杯で。大学生になって東京出てきて、これでやっと本格的におじさん探しが出来る!と思って頑張ったんだけど、ぜーんぜん見つからなくて。何回も心折れてたもん笑
3年かけたんだよ?東京の建築会社と設計事務所は、多分全部探したんだけどな~。なんで今まで見つけられなかったんだろ…
【Aizawa Toru's Case ー 相澤亨の場合】
俺は東京のおじさんではない。
本当は神奈川のおじさんだったからだよ。
心の中で嚙みしめる。黙って頷く。
茜。
相変わらず屈託のない笑顔。
「でも良かった。やっとパパに会えた」
6年前。
新宿中央公園が蘇る。
「あの後、お父さんとママに全部聞いたの。
おじさんは、茜の生みの親だって。
本当のパパだったんだって」
騙しててすまん。
「ううん。茜ね、それ聞いてすっごい嬉しかったの!
だって、お父さんとパパ、男親が2人もいるんだよ?
普通の子って1人じゃん?
しかも、設計士さんとお医者さん。
超カッコよくない?笑」
そういう発想ですか。
まあ助かるっちゃ助かる。
てか長田さんの呼び方。
正式に「お父さん」になったのね。
「パパ、茜にはね、新たな夢があるんです!」
はい。
何でしょう。
「パパと、お父さんと、茜と3人で、腕組んで街歩きデートしたい!もちろん茜が一番真ん中で!」
だから。
どういう発想なんだよ。
何て良い娘なんだ。
心の中で嚙みしめる。黙って頷く。
<Three months later ー 3か月後>
お父さーーーん!パパーーー!
「はーい」「はーい」
あ……ハモってしまいましたね(苦笑)
恥ずかしいですね。
大の大人が2人して何照れてんの?笑
はい!さっさとサイドについて手を組む!
「はーい」「はーい」
あ、またハモ(ry
茜。どこ向かうんだ。
決まってるでしょパパ。今新宿にいるんだから。
ナイアガラの滝。オアシス散歩ですか。
そそ笑
ナイアガラの滝!?これから南米に向かうんですか?
お父さん何言ってんの笑 超ウケんだけど笑
いや長田さん。この先の新宿中央公園です。新宿のナイアガラの滝という
ほらほらお父さん!パパ!信号変わっちゃう!早く行くよ!
「はーい」「はーい」
男2人でハモり過ぎだから!笑
1年半ぶりのピリカ文庫オファー。
お題「東京」で書いてみたぜ٩(๑•̀ω•́๑)۶
前回の作品では8000字overで物議を醸したオイラ。
今回は何と9000字overですってよ(*✪д✪*)オホ-
ピリカしゃんが、文字数自由って言ってくれたから…(小声)
いや、お題を考えたMr.Shiina Pizzaが悪い(ノシ*`ω´*)ノシ(大声)
まあホントにね。何でこんな毎回長くなっちゃうんでしょうね。勿論狙ってなんてないのよ。自分でも呆れちゃうのよ。
この9000文字+登場人物イパーイとなってしまった作品を、どうやってすまスパ内で朗読して頂ければよいのか。ピリカしゃんに相談してきますので、この辺で失礼ぶっこきます○┓アザシタ-