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新橋のスナックはセレンディピティに溢れている【コラム】マーメイドはひとりで躍るvol.22

「絶対また飲みに行きましょうね!」
精一杯の上目遣いで呼びかけた。

視線の先にいたのは、
櫻井優衣でも、桜庭遥花でもない。
その日が初対面の、
8コ上のガタイが良いお兄さんだった。


新橋駅近くの地下にあるスナック。
決して広くはないその場所は、
同期や会社の人と飲む時、
主に3軒目で利用することが多い
穴場スポットだ。

静岡出身のガーリーなママが出してくれる
ハイボールはいつも濃いめで、
柿ピーやチョコ、
食べっこどうぶつのビスケットなど、
つまみで出てくるお菓子はいつもバラバラ。

その日は会社の送別会で、
2軒目を終えた僕たちは、
まだまだフライデーナイトを堪能し尽くそうと、
やはりその場所へとなだれ込んだ。 

店内にはワイシャツ姿の男性グループが
カウンターに2〜3名ほど。
おそらく30代くらいの会社員だろう。

5〜6人ほどで詰めかけた僕らは、
奥のスペースへと誘導された。

さて、ここからははっきり言って
記憶が曖昧だ。
みなさんには、
ちっちゃいことは気にしない
ゆってぃー精神で読んでいただきたい。


僕らはしばらく他愛のない話で盛り上がり、
やがてカラオケをする流れになった。

確か数曲歌った後くらいのタイミングで、
気遣い上手な僕の同期が、
男性グループに声をかける。

「よかったら、
 お兄さんたちもいっしょに歌いませんか?」

彼らは二つ返事で答えてくれた。
この空間とアルコール、
そして、音楽はやはり人と人とを繋げてくれる。

同期は、GLAYの『HOWEVER』を選曲する。
そして、アイコンタクトで
こんな指示を送ってきたように感じた。

「ここからは、任せたぞ」

右手で強くマイクを握る。
濃いめのハイボールに泳がされつつも、
全力でTERUを憑依させて、
やわらかな風を吹かせていく。

次の瞬間、なぜか僕は
ワイシャツ姿の兄さん1人と
熱い抱擁を交わしていた。 

同期の神アシストで通じ合った僕らに、
怖いものはもうない。

嵐の『きっと大丈夫』、
マカロニえんぴつの『ヤングアダルト』、
さらに、Creepy Nutsの『のびしろ』を
勢いそのまま歌い上げた。

きっと、オーディエンスは
一人もいなかったと思う。
その空間では、僕とその兄さんだけが
音楽に酔いしれていた。

その後、
兄さんたちが先に店を出ることになった。

ここでお別れか…。

僕はたまらず声をかけた。

ちょっとすみません!
Apple Musicに入ってる曲のリストだけでも
見せてもらってもいいですか!!

根拠のない自信があった。
この人とは、通じ合える予感がする。

eill、yutori、
Laura day romanceにパスピエ、
35.7にFINLANDS…
なるほどね…

ん。待てよ。
松田聖子に
AAA、XG…
昭和歌謡や平成のJ-POP、
最新のヒットチャートも網羅してるのか…

え…!?
あるくとーーふにomeme tenten、
uyuniまで…!?

興奮のあまり、
僕らの音楽談義はかなりの時間続いた。
きっと、兄さんの連れには
ひどく迷惑をかけたことだろう。
帰る時間が30分は遅くなってしまったはずだ。
この場を借りてお詫びしたい。

僕はあわてて兄さんとLINEを交換し、
こう伝えた。 
「絶対また飲みに行きましょうね!」

心は革命前夜だった。


人との出逢いにおいて、
「2回目」がある確率は、
果たしてどれくらいだろうか。

「また会いましょうね!」と
笑顔で伝えた相手と
本当にまた、
笑顔で向き合えたとしたら、
その出逢いには一体、
どれほどの価値があるだろうか。

よく0→1、
つまり0から1を生み出すのが
最も難しいなんて話を聞く。

だけど、
こと人との出逢いに関しては、
そうとも限らないと思う。

0回目より1回目、
1回目より2回目、
2回目より3回目と
積み重ねていくことが難しい。

そして、
3回目を迎えた相手とは、
4.5.6と、
どんどん連なっていけるのだと思う。

だからきっと、
我が国では、
3回目のデートで告白という流れが
定番化している。

なにも恋愛に限った話ではない。
友情や先輩後輩、
仕事相手だってそうだ。

3回目を迎えた相手に僕たちは、

自分はあなたのことを好いています。
よかったら、
今後もお付き合いしてくれませんか?

なんて告白を、
知らず知らずのうちに
しているのだと思う。


兄さんとのメッセージは
トントン拍子で往来し、
ついには、サシで飲む約束を取り付けた。

火曜夜、18時半に神保町。
スケジュール帳にイエローの文字が煌めく。

イエローは、
僕のフェイバリットカラー。
とっておきの予定が入った時だけ
使うと決めている。

曇り空の神保町、
僕らは2回目の対面を果たした。

「なんでもう一回、
 会ってくれようと思ったんですか」

そう訊くと、兄さんはニコッと答えた。

「普通こういうのって会わんやん。
 でもなんか、今回は会った方が
 おもろいかなと思って」

首がもげるほど頷く。
僕も全くの同意見だった。


1軒目は、
もつ焼きが自慢の古き良き居酒屋。

音楽の話、仕事の話、学生時代の話、
1回目の対面では
ほとんど歌しか歌ってないのだから、
話題は事欠かない。

そこで、新たな共通点を知る。
兄さんはお笑いもめちゃくちゃ好きなのだ。

この前、エバースの単独も見に行ってん。
本当は関西出身だから、
ダブルヒガシとかが好きなんやけどな。

奥さんはマユリカが好きらしく、
自宅にはあの写真集が2冊あるのだという。

その後も、話は途切れない。
マッチングアプリで結婚した話、
男女の友情の話、
実は、お互い話すのが得意じゃないのが
コンプレックスだった話…。

たしかに年は8コも離れているけど、
それを感じさせない居心地の良さがあった。

そろそろお会計。
兄さんがおごってくれそうな雰囲気を
感じた僕は、こう伝えた。

「2軒目は僕に任せてください!
 この関係きょうで終わらせたくないんで!」

兄さんは、微笑みながら言う。

「じゃあ、ここは出すから次頼むわ。」

神保町をさまよい歩く、25歳と33歳。
星座早見盤には収まらなかった
2つの星が街に溶けていく。

2軒目には、おしゃれだけど
おしゃれすぎないハブを案内してくれた。

正直、酔いがまわって
会話はあんまり覚えていない。

それでも、
次回は、新橋→秋葉原のルートで
飲みに行こうと決めたことだけは
確かに覚えている。

帰り際、兄さんがつぶやいた。

なんかさ、思ったより楽しかったわ。
想像を超えてきたよ。

兄さんがあの日教えてくれた
ガールズ・オン・ザ・ランは、
この日の帰り道、
両耳から心まで染み渡っていた。


それから数日後、
ふと、LINEの画面を開いて気づく。

あれ、兄さん、
10/31が誕生日なんだ。
お祝いのメッセージでも送ろうかな…

いや、ちょっと待てよ。
それもいい。
それもいいけど、
それよりもっと、伝えるべき
想いとタイミングが、
あるんじゃなかったか。

日にちはまだ決まってないけど、
年内のどこかで、
兄さんと会うことになっている。

M-1直前に、
M-1について語り合おうと。

それがもし叶ったなら、
兄さんとは3回目の対面になる。

3回目。
そうか、秘めてる想いを伝えなければ。

この関係が、
細々とでもいいから続きますように。


告白の準備は、もうできている。


文・マーメイド侍

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