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To my diary. 55「mellow」
あぁ、とろりと甘くてピリッと刺激的で誰もが欲しがる味にあたしはなりたかった。
手の届きそうで届かない、そんな存在に。
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背を向けていった男たちをみて、どれだけ嫌味な視線を送っていたことだろう。
友人に家族、仕事に頼れる上司に慕ってくれる部下までいるあたり、充分すぎるようにみえてたの?
そんな、いきなり"貪欲"とまで言われる筋合いはないと思うけど?
はじめからから傍にあるものにどうやって幸せを感じろと? 気づけと言うの?
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30を過ぎてから仕事が順調になっていったの。
自分のことだから上手くやり過ごせると思っていたし、見下していた男たちと差をつける自信もあったわ。
周りは寿退社や産休で仕事に集中できていなかっただろうから、羨ましいなんてこれっぽっちも感じなかった。
ここ最近、心が高ぶったことといえばスーツを新調したことくらいだ。自分で稼いだお金を自分のために使う喜びって相当なものよ。
子供もいつか欲しいけど、いまじゃない。
いまじゃないだけでいつかは欲しい存在ね。
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呆れた。
あたしの言ったことすべてが嘆きを隠そうと必死なように見えるのなら、それはきっとあんたの心が腐ってるだけだって、考えたことはなかったわけ?
なかったでしょうね。
人のいい面しか見ないあんたからしても、あたしの腹黒さは見過ごせなかったんだから──
あたしの甘さも辛さも見出せなかったあんたが見つけたのは、めちゃくちゃな苦さだけ。
あんたを求めるあたしに……どうしてなの?
どうして体を差し出さなかったのか理解できない。混乱も驚きもあった。
でも、拒絶されたわけじゃないでしょう。
「そう、わかったわ。いいのよ」
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扇情的な振る舞いをしてきたつもりはない。
もし、そう思うのなら、それはあんたが求めてるだけなんじゃないの?
あんたの存在わね、決して特別なんかじゃないからね。単純に肉感的にそそられる。
ほんとバカ真面目じゃなきゃよかったのに──
気品あふれる百合のような存在とは違う一面を自分だけに見せている。
そんなところに男たちの独占欲を駆り立てて、それがあたしの独占欲に支配欲が共存していくの。
恋愛は深いトコまでいかなかっただけ。
ただ、体は許したわ。
本音は戻りたい。
だけど、声に出して言うもんですか。
偽善なあんたが言う。
「心にぽっかりと空いた穴」 ふざけんな。
毎度毎度、最初は良くても最後はダメだったわ。
受け入れているからこそ、疑問が止まらない。
あんたが言った通りと思えてきてしまっているの。
的をいてると──
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あたしはね、いつも正しく生きてきたの。
別に男をなんかの捌け口にしてきたわけじゃなくて、それなりに見定めてきただけのつもりで、抵抗とか感じたことはなかったわ。
当時、まだ若くて仕事を覚えようと必死に足掻いて、何か起こるたびに色んなことと結びつけて何もかもが嫌になって、好きなことともちゃんと向き合えなくなっていた。
でもある日思ったの。
酔いが覚め、あたしを抱いて眠る男を見て、都合がいいってのはこういうことなんだってね。
それでも、しばらく男の腕の中で眠り続けた。
きっと、自分よりも悪い人といると落ち着くのね。
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もう充分わかったから、イヤっていうほどわかったから──あたしをいい子にしないでよ。
あんたは最低。
みんなは違うと言うでしょうけど、自分に酔ってるあんたは最低。
どうでもいいけど、あんたに触れたい。
汚れたあたしを抱いていて、一緒に穴まで堕ちてくの。
あんたがいなくなったら、この情熱、 どこに向ければいいの?
何もかもが初めてで、盲目になっちゃってる。
何回でも言ってあげる。
「初めてなの」
あぁ、熟しすぎたあたし──冷めないプライドだけは保ったまま、手にくすえないほどまろやかに変わっていく──
ねぇ、それって誰にも咎められないでしょう?
了
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