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 東武スカイツリーライン竹ノ塚の駅に降り立つと、巨大な光のツリーとスノーフォール(白い光が降ってくる天井)が出迎えてくれる。ここからは電飾に導かれるまま、大通りの並木に沿って1.2kmばかり歩いていけば会場の元渕江公園に到着だ。
 わあ、光ってる、輝いてる、色で満ちている。コロナ禍で忘れていた光景だ。すっかり嬉しくなって、まずは奥へ行こうとずんずん進む。あっ、光のトンネルがある。早速、通り抜けよう。先週行ったよみうりランドのジュエルミネーションで一番気に入った光のトンネル「サファイヤ・クロッシング・パサージュ」は深い蒼が基調だったが、ここのはゴールドだ。光の色が変わったりはしないし、トンネルの長さもジュエルミネーションの5分の1くらい絢爛豪華さはないけれど、黄金に燦めく光の中を歩くと、それだけで幸せになれる。
 光の祭典の目玉は自然木、8本のイルミネーションツリーである。20mを超える自然木に彩られた電飾が千変万化に瞬いている。初めて来た17年前から、この光景にはいつも圧倒される。
 また来られてよかったと見とれていたらクリスマスソングが流れ、レーザーの光が交錯する。ショーの始まりだ。みなスマホをかざし、写真や動画を撮っている。三脚と一眼レフで本格的な撮影を始める人も見られる。そう、この自然木は都内でも有数のイルミネーションスポットでもあるのだ。
 一周してひととおり見たら、池の方へ行く。ベンチに腰をかけると思い出した。9年前、ここで友人と話し込んだことを。当時会社員だったわたしだが、手術を受けた予後が悪く職場復帰に失敗して退職が決まっていた。
 毎日昼休みには会社の救護室のベッドで横になっていた。電車を何度も降りないと会社にも家にもたどり着けず、ただでさえ長い通勤時間は2時間半以上となり、心身共に限界だった。そんな状態で辞めるのだから次の計画などあるわけもない。
 ただただ沈み込む一方だったわたしに、当時この地域に住んでいた彼女が「イルミネーション見にいこうよ!」と誘ってくれた。行きつけの中華料理店でパックに詰めてくれたチャーハンを持ってきて「ここのは中国の味だよ。一緒に食べよう」と2人で座ったのだった。
 何を話したかは覚えていない。話すこともなかったわたしは、黙っていただけだっただろう。でも、彼女の気持ちはとても嬉しく、チャーハンも美味しかった。これからどうやって生きていったらいいのか、次の仕事は見つかるのか、そもそも働ける状態になるのかどうかすら危ぶんでいた自分が、ちょっとだけ救われた。
 そして9年経ち、自分はフリーランスとして何とか生きている。この秋メインクライアントから離れてしまい、これから取引先を探して増やしていかないといけないが、きっとなんとかなる。9年前を思い出しながら池を眺めていたら、なんだか落ち着いてきた。
 先週のジュエルミネーションが「旅」だったのなら、この光の祭典は「ホーム」のイルミネーションだ。ホームがくれるあたたかさと輝きで、明日からまたがんばっていける、きっと。

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