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伊藤ゲン展 明るい夜@西武池袋本店

 わたしの好きな画家は何人かいる。3月、あるひとりの個展に行った話はここに書いた。

 その伊藤ゲンさんが今度は西武池袋本店で個展をやるという。行かずばなるまい。
 今回は、好きな画家の作品を見たいという以外の目的もあった。以前買った絵葉書の原画が展示されるらしいとわかったので、それを見たかったのだ。
 さて、ギャラリーに着いた。
 そうそう、この作品たちだ。「玄関」や「風呂場」、「冷蔵庫」のある台所の絵。絵葉書をじっくり見たので絵柄は知っている。その原画が眼の前にある。
 なんだか不思議。絵葉書と原画とで色が違うのは当然(印刷では原画の色はなかなか出ない)だけれど、まるで別の絵画を見ているよう。
 どうしてだろう。ああ、違うのは「色」だけではないのだ。アクリル絵画だから油彩の立体感はないはずなのに、なぜか作品からモノたちが飛び出してくるのだ。オリジナルの持つ迫力。「これが原画だ」という圧倒的なメッセージが波のように押し寄せてくる。
 この感覚は初めてだ。絵葉書をすでによく見ていたたからこそ、得られたのかもしれない。
 新しい作品も多い。お盆の馬とお供えもの、緑色をしたプラスチックのカゴに入った果物、昔ながらの手軽に買えて食べられる和菓子、そしてスイカ。すべて真夏の絵だ。最後にこうしたものを食べたのは、いったいいつだったか……。
 だが一番気に入ったのは、トップ画像の作品。そう、クリスマスブーツである。自分が子どもだった頃、こういう商品はあっただろうか。記憶にない。クリスマスにケーキはあったけれども、こうした「ブーツのお菓子」をもらう習慣はなかった気がする。
 にもかかわらず、赤いクリスマスのブーツのおかげで一気に子ども時代に戻れた。いいなぁ、こういうのほしいなぁ。
 そうか、もしかしたら、自分が昔ほしかったけれども買ってもらえなかったのかもしれない。いまそれが、真夏の猛暑のなか、絵として、けれど実物よりも「ほんもの」の迫力を湛えてここにある。「クリスマスブーツ」を待つという、子どもの特権を50年後に味わえた。

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