最寄り駅から「電車で30分」の旅
樺沢紫苑著『インプット大全』に「電車で30分の駅にも気付きがある」と記されている。
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行ったことのない場所を歩くと「ひらめき」の脳内物質アセチルコリンが分泌されるので、「発想力」「想像力」を鍛えるトレーニングにもなる。
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そうなのか。実行してみよう。家から各駅停車に乗って、いつもの東京方面とは反対へ向かう。今日の目的地の駅は25分ばかり先で、何十回も通り過ぎたことはあるが降りたことはない。
ふだん時々使う3、4駅目を過ぎたあたりから、車内でもなんだかドキドキしてきた。車窓からの景色が違うのだ。線路が高架ではないので目と同じ高さに建物が見える。高いビルはあまりなくて、平屋が多いなぁ。と思っているうちに到着した。
駅前には、昔うちの方にもあったような婦人洋品店などが軒を連ねる。方向音痴なので道なりに歩くと団地があった。妙な既視感に襲われた。そう、7年半前まで住んでいた団地に似ているのだ。そうそう、こんな雰囲気だった。ベランダ側もそっくりだ。
同じ頃に住宅公団が作ったのだろう。ただ、ここは窓のサッシがアルミだ。うちの団地は鉄だから開け締めが重かった。と、こんなところを比較するとは自分でも驚く。真っ先に思い出すのがこれだなんて。
イチョウの並木道があるのもうちの団地に似ているなぁ。などと考えていたら小学生の下校放送が流れる。「これから下校時刻です」という文言もうちの市と似ているが、最後に「今日の担当は○○小学校でした」と担当の学校名を言う。これはいいね。親近感がある。
雨が降ってきた。傘はないし、そろそろ帰ろうか。駅からわずか20分しか歩いていないが、内向型の自分には充分だ。並木道の反対側に渡って駅の方へ向かうと、植え込みには白や桃色の寒椿がある。冬に色を、それも花の色を見ながら歩くのは楽しい。ああ、小学生の頃につぼみを1枚ずつはがして遊んだなぁ。昔の記憶がどんどん蘇ってくるのは、やはり元の住居である団地にあまりにも似ているから。ボックス棟もあるなんて、10年前に戻ったと錯覚してしまいそう。
まさに「電車で30分」の駅で、しかもわずか数十分しか歩いていないのにこんな気持ちになるなんて、嬉しさのあまり自分にお土産を買いたくなった。と思いながら歩いていると駅前商店街だ。あっ、焼き鳥屋だ。ここで焼き鳥を買おう。「つくねと皮、ももを1本ずつ」と500円を出すと、空き缶からお釣りと「おまけ! ほんとは500円に1枚なんだけど、いいよいいよ」と福引券をくれた。うわー昭和の光景だ。今日ここに来たことがほんとに嬉しい。
家に着いた。夕飯はさっき買った焼き鳥だ。いつもの店とは違う味の焼き鳥に「ああ、旅をしてきたんだなぁ」と思った。