ディドロ効果と星新一「趣味」
ディドロ効果という用語がある。18世紀フランスのディドロという美術評論家は、あるドレシング・ガウンを愛用していた。あるとき、別の赤いガウンを贈られてたいそう気に入った。そこで部屋全体を新しいガウンに合わせてコーディネートすることになった。だが、かつての自分好みの部屋が崩壊してしまった。ディドロは失われた部屋の趣味をたいへん嘆いたという話である。
これで思い起こしたのは星新一の「趣味」。愛する夫にぴったり合うようように部屋の内装や家具をコーディネートする趣味をもつ妻に対し、ある日、夫が絵画を買ってきた。妻は喜んだが、部屋の雰囲気にその絵が合わない。
そこで妻は、まず絵に合うように額縁を、次に壁紙と敷物を、そして調度品を入れ替えていく。絵と雰囲気の合った完璧な部屋が、さらには部屋に合わせた完璧な家ができあがったのだが、まだ入れ替えなければならないものがあった。それが夫である……。
小学生時代に読んだ話が面白かったから覚えているのだろう。放送大学「色と形を探究する」でディドロ効果を習って、ぴんときたのがこのショートショートだ。星新一はディドロ効果を下敷きにして「趣味」を書いたのか。何十年も昔の、子ども時代の読書と現在の学びが線でつながった気がしてたのしい。
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