Twitterで見て気になっていた、DiDi(土井大輔)さんの作品。銀座のギャラリーでグループ展をすると言うので、原画を見るチャンス! と行ってきた。
 会場に入ると、まず飛び込んできたのは「雨の日の帰り道」。わたしの好きなもののトップに、星空、夜桜、イルミネーションなど「暗い背景に光が煌めくもの」があるが、まったくそのものだ。
 地面に反射する水の色合い、空から落ちてくる水滴に、後ろ姿の人が差す傘がライトのように配置され、イルミネーションのよう。画家がこだわったという額装もぴったり。キャプションの「雨が演出する人工光の美しさ」そのものだ。人工光をこんな風にこれ描けるなんて。いいなぁこの絵。
 と思いながら次の作品の前に立ったら、いきなり光が前面から降り注いできた。グループ展のポストカードにも掲載されている「冬の朝日」だ。山の向こうから溢れてくる光と、水面の反射。ピンク、オレンジからイエロー、グリーン、ブルーへと刻々と色を変えていく空。すべてが「希望」にあふれている。数十秒のあいだ、この前から動けなくなった。
 画面で見ている分には「いい絵だなぁ」だけだが、原画を見ると、その場から動けなくなる。これが原画のパワーか。
 キャプションには「冬の朝日の白く眩しい輝き」とある。そうそう、この絵の前に立つと、朝日の「白さ」が観る者に降り注いでくるのである。
次は「雪の日の遊歩道」。雪の白さ、木々や電柱、その影が虹色に輝く不思議な作品。雪の世界ってこんなに色があったんだ。こんなにも幻想的に輝いていたんだ。今年は、大寒波も来て気温がそうとう低かった日もあるのに、自宅周辺には雪が降らなかった。来年雪が降ったら、この風景を思い出して「色」を探してみよう。
 その先の「雲を突き抜けて」「太陽光線」もすべて、太陽光の「リアルな光(キャプションより)」がまっすぐ降り注いでくる。ファイルも拝見したが、見知らぬ外国の風景や日常の生活からも、ため息が出るほど「光」が差し込み、踊り、観者を包み込むように見守っている。
 そう、土井さんは「光の画家」なのだ。
 わたしには原画を購入する財力はないけれど、リトグラフや画集で「冬の朝日」があったら絶対に壁に飾る。いまカレンダーがかかっている場所にこれがあったら、毎日どんなに元気が出るだろう。
 土井さんは印刷工場でインクを調合して目的の色をつくる「調色」が仕事だという。育児もあって毎日とてもお忙しそうだが、ぜひ、画集を出してもらえないだろうか。調色のプロなら、この色合を印刷で再現することもできるのではないだろうか。プロだからこそ「無理」と言われてしまうかもしれないが。
 最後に、わたしは言葉の商売だから、展覧会に行ってもどうしてもキャプションが気になる。土井さんのキャプションはとてもよかった。何を描いたのか、そしてどんな思い入れがあるのか。本人が書くキャプションはいいですね。これ、ほかの画家や写真家の方もぜひお願いしたい。観る側のガイドにもなるので……。


今日の久松 「調色」といえば、『本のエンドロール』に出てくる「色の職人」を思い出す。わたしは出版界にいるとはいっても、扱うのは教材や学習参考書、小説であり、それも本文と付き物(目次、索引等)のみ。表紙の色校正をすることもないので、「特色」をつくるのがどれほどたいへんなのかもよく知らない。同書を読んで、はじめて「こういう仕事なのか……」と頭を垂れた。仕事でも絵でも「色」を追求する職人の土井さん、次はぜひ個展を待っています!

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