meria 一章 - 3

目が覚める少し前に、ひどく懐かしい顔を見たような気がしたが気のせいだった。
馬車で運んだ少女の顔が妙に忘れられなくて、夢にまで出ていた。久しぶりの情欲にまかせ微睡んでいたが、部屋の扉をやかましく叩く音で現実に戻される。

「てぇめぇ何回起こしたら起きるんだ!!いいかげんにしろよ!!」
「あのねぇ……上司をてめぇ呼ばわりしないでくれないかね」

ようやく起きたにも関わらず食事の目の前で今にも意識が飛びそうなエクセルに対し付き添いのセットが唾を吐き散らしながら怒りをぶつけている。

「いつもは侍女が優しく起こしてくれていたから勝手が違ってねぇ」
「はいはい!悪かったな」

軽口の叩き合いは出来るものの、本当に辛そうにお茶をすする姿を見てセットもそれ以上は何も言わなくなった。片手で持ったポッドを空になったエクセルの器へ傾け紅茶の追加を注ぐ。
乱暴な言動のくせにこういうところは妙に気が利くのは、おそらく彼の直属の上司のせいだろうなとエクセルは考えながらまた茶をすすった。

「しっかし本気で村の女全員話聞くのか?」
「流石に他の女達から不満が出るだろう。仮にも玉の輿のチャンスなのだからそのチャンスすら貰えないのは可哀想だろう」
「言っても、もう決まってるんだろう」
「そうでもない。やはり見てみないとわからないものもある」

味を変えるためミルクのジャムを入れ白く変色していく紅茶を覗き込みながら、意味深な言い方で呟いたエクセル。
ふと視線に気が付き顔を上げると宿の娘達がこちらを見て居た為、軽く手を振ってみせた。きゃっきゃと騒ぐのはきっと国王の花嫁を選ぶ人間と知って舞い上がっているのだろう。

「この村はなかなか可愛らしい娘が多いな」
「田舎だから、あんた好みの垢抜けてない女が多いだけだろ」

また始まったと呆れたセットはエクセルが手を付けようとしない朝食に手を付けだした。そんな事もお構い無く未だじっと娘達を見つめるエクセルは紅茶の最後の一口をすすった後、口端に残った水滴を舌ですくい取り下品な笑みを浮かべる。

「近くで『見る』のが楽しみだな」

もう一度、今度は自分がエクセルの顔を見ないようにする為にセットが紅茶を注いだ。

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