meria 一章 - 5

ちょっとだけ……本当にちょっとだけ……。
そう自身に言い聞かせるエクセルの目に映るのは怯える少女の顔ではなく、見たことのない景色だった。
登っていく階段や建物に入る扉を見ていた視線が「愛菜」と呼ぶ声がしてぐるりと変わる。その愛菜と同じ服を着た見知らぬ少女の姿が現れ会話が始まる。
そう。この光景は全て愛菜の記憶であり、今見ているエクセルのものでは無い。

「辛いのはわかるけどさぁ……正直うっとおしいんだよね」

言っていいのだろうかと少女は顔を曇らせた後、愛菜に向かって随分と冷たい言葉をぶつけて来た。
エクセルはこの光景を見ていきなり随分な言い草だと思う。

「どうにもならない事をいつまでもウジウジしててもしょうが無いでしょ」

彼女の声を聞いていると胸が締め付けられるような気持ちになり、目の前がぐらりと揺らぐ。
泣いているのかとエクセルは気づき、更に前を見続ける。

「もうすぐ受験なのに辛い辛いってアイツもアンタもさぁ。ほんっと迷惑なんだけど」
「じゃぁどうしてみんなほっといたの!?みんなが見てないフリしたからこんな事になったんでしょ!?」
「アンタだけ違うクラスだからって偉そうなこと言わないでよ!!」

悲鳴のような愛菜の叫びを聞いた瞬間、少女の顔に殺気が現れたかと思うと彼女から視線が大きく離れた。徐々に離れていく少女の姿と浮遊感を感じ、まさかと思ったが記憶の主である愛菜の意識がない時期なのか景色はそこで真っ暗になってしまった。
これ以上見てはいけないような気がし始めた。この感覚が出ると今見ている他人の記憶が自分のものと曖昧に感じ始める。なのでエクセルにとってこの嫌な予感がこの術をやめる時期なのだが、エクセルはどうしてもこの記憶の続きが気になった。
意識を取り戻した愛菜の視線の先がうっすら見え出し、胸騒ぎが始まる。
愛菜は新しく切り替わった景色を四方を見回した後、何かを見つけたのか一点を見つめた。
どういうことなのか、明らかに先ほど見ていた建物の景色と違っていた。意識を失っていたのがどれくらい長かったのかは分からないが先ほど居た建物は消え、目の前の景色は広い麦の草原が広がっていた。

ここ……知っているような気がする。

草原を進んでいく光景を見ながらエクセルはそう思い、次の光景を求め術を止めようとはしなかった。だが様子がおかしく、時々視界が暗くなり景色が見えなくなる。愛菜の記憶自体が曖昧なのか、それともエクセル自身の意識が飛び始めているのか分からないが、場面が飛び飛びになり、草原が一転、丘の上に、次に大きな樹木の側にと次々景色が変わっていく。
そして最後、真っ白い蛇が現れた。その蛇は額に目がある三つ目の蛇で、その額の目とエクセルの目が合った。

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