meria 二章 - 2

「エステル……」

寝台の上で寝息を立てる少女を側で見守っていた愛菜は次第に良くなっていく彼女の顔色を見てホッとした声でよかったと声を漏らす。
先ほど検問所で飲ませた薬が効いているのだろうと様子を見に来たエクセルが言う。隣で手持ちの薬草や薬品を乳鉢ですり潰している光景を暫く見つめた後、次第に出来上がっていく奇妙な色をした液体を指して不味そうと感想を述べた。
素直すぎる感想に困るどころか何やら楽しそうに笑うエクセルは出来上がった薬を今日この部屋に泊まるクラエスに強引に渡し、夜中エステルに飲ませるように指示をする。

「何、人のこと顎で使ってんだよ」

薬を押し付けるように返し少々強引なエクセルに苛つき文句を言うクラエスだったが。

「私が飲ませても良いのだね!」
「やめろ、触んな!」

眠っているエステルの半身を起こし、嬉しそうにらんらんとした表情で彼女の手を握るエクセルを慌てて止めるハメになる。
病人の前で騒がしくする二人に呆れた愛菜が代わりに謝ると、眠っていたエステルの目がうっすら開いたように見えた。目が覚めたのかと思い、名前を呼ぶが返ってきたのは愛菜と同じ言葉だった。しかも謝っている相手は目の前にいる愛菜ではなく、父親のカミルに対してだ。
辛そうな表情でエステルを見つめる愛菜の肩に手を置き、エクセルは部屋に戻るよう促す。クラエス達と別れ隣の部屋へ向かう途中、エクセルから心配し過ぎは良くないと言われ愛菜は顔を曇らせた。

「だって……」
「魔力が回復すれば直に良くなる。父親との関係は長年辛かったのだろう。好きなだけ泣かせてあげるといい」

きっと朝にはケロッとして起きてくるかもしれないと言って笑ってみせる。それでも納得出来ないといった表情の愛菜を見てエクセルは困った様子でため息を付いた。
なかなか回らなかった鍵がようやく開き、部屋の扉を開ける。少し離れているとは思ったが隣より広めの部屋で愛菜が物珍しそうに眺める姿を見てエクセルはほっと肩を撫で下ろし、部屋の様子を見て回った。
水場をみてエクセルが感心した声を漏らしているので気になった愛菜が顔を出す。

「さすが港街の一等部屋だな。湯浴みが出来るのか」
「ゆあみ?」

大きな器の中に手を入れると暖かく、愛菜はお風呂だと呟きながらじっと白い浴槽を見つめる。

「……浴びる、かね……?」
「い、今は、イイデス……」
「ならセット君達を先に終わらせるか」

二人の間にぎこちない空気が流れた後、愛菜の答えを聞いてエクセルは逃げるように隣の部屋の男たちを呼びに出て行ってしまった。足音が聞こえなくなるまで浴室の出口をじっと見つめた後、部屋に戻ろうと立ち上がった。
セットとクラエスの声が聞こえ、うつむきがちだった顔を上げた瞬間、固まる。目の前でセットが鎧をぽいぽいと脱ぎ捨てた後、インナーを脱ごうとしていた瞬間を見てしまい愛菜はどこから出してるのか分からない声を上げた。

「あ、わりぃ。まだ居たのか嬢ちゃん」
「ぎゃー!!!!」

その後、叫び疲れた愛菜は一階ロビーでエクセルの用意してくれた飲み物を飲みながら、男子の湯浴みの時間が終わるのをぐったり待つこととなった。
叫びすぎて痛む喉を、炭酸水の爽やかな刺激で紛らわす。迎えに来るまで追加注文をしてもいいとエクセルから銀色の硬貨を何枚か貰ったが、肝心の文字が読めず暫くメニュー表を睨み続けていた。
難しい顔をしてメニューを睨み続ける愛菜を不思議そうに宿の従業員がチラ見して行く中、一人の中年男性が声を掛けてきた。
メニューから顔をあげると、前方に向かって曲がり今にも刺さりそうな威圧感のある角と品のいい笑顔が印象的な男が立っていて、更に強引に前の席に座ってきた。どこかの物語で見た海賊船長のような大きなコートを着た男は膨れたトランクや大きなカバンを幾つか持っていて随分と大荷物の様子。

「この宿で真っ赤な服を来た男に声を掛けられなかったかい?」
「わ、私ですか?」
「そう、君」

迷わず自分に向かって来たような口振りの男に動揺しながら愛菜は自分を指差しながら問う。するとニッコリ笑った男はこうも付け足した。

「君みたいな女の子が大好きなおじさんなんだ」

その言葉を聞いてまさかとエクセルの顔を思い浮かべながら一瞬視線が二階を見る。

「どの部屋にいるか知らない?今からその人とお仕事の話をしたくてここにに来たんだけどー」
「いや、その……あのー」

愛菜の顔色を見た瞬間、凄く強引に話を進めてきた。どの部屋か知らないならどの当たりで見たかとか、ひょっとして知り合いかとか、次々と質問をしてくる。しかも答える間も与えず。彼の勢いに混乱して目が回りそうな愛菜の耳に聞いたことのある声が聞こえ、正面の男と一緒に振り返る。
間抜けな大口を開けて突っ立っているエクセルを見て、男は目を輝かせて立ち上がった。
二人が知り合い同士であることが分かるそれぞれの反応。愛菜は何かが起こる事を理解し、不安そうにエクセルの方へ視線を向ける。すると彼からこっちに来るように身振りで訴えられる。

「侯爵殿!今日こそは私の可愛い『娘達』を貴方に買ってもらいますからね!」
「だからその話は……!」
「いざ尋常に勝負!!」

エクセルへ向け腕を振り下ろして指を指した後、五本の指を素早く動かす。その不気味に何かを手繰るような指の動きを見たエクセルは自分の背後から襲いかかってくる人影に気が付き咄嗟に逃げる。
振り返ると無表情の少女がエクセルを抱きかかえようとして失敗したまま固まっていた。その態勢のまま顔だけこちらに向けてきた。表情は変わらず、言葉も一切話さない不気味な動きにエクセルの背筋が凍りつく。

「いる訳無いだろうこんなモノ!」
「なっ!?私の可愛い『娘』をこんなモノ扱いですと」

男はエクセルの悪態を聞いて頭にきたと言って今度は両手の指を器用に動かしたかと思うとエクセルに襲いかかる女達の数が徐々に増え出し、総勢五名の少女達に囲まれてしまった。
男の指が動く度に彼女たちが動き出し、エクセルに向かって襲いかかる。一人は腕を引っ張りしがみつく。そして脚、後ろから羽交い絞め、もう片腕も取られた。最後にトドメと正面から一番幼い容姿の娘に押し倒され、断末魔が響く。

「エクセルさん!」

悲鳴を上げ倒れる一部始終を見ていた愛菜は真っ青な顔で彼に駆け寄り、大丈夫かと声をかけようとした矢先、動作が固まった。
エクセルを押し倒した少女達が彼の周りにべったりとくっつき、腕に身体を絡みつけていたり、頬擦りや際どい場所を手で撫でていたりしている。それを必死で手で払ったり引き剥がそうとしているエクセルと愛菜の目が合う。
大きく見開いた愛菜の目を見た瞬間エクセルは彼女がマズイ事を考えていると直感し、誤解を解こうと彼女に助けを求め手を伸ばす。

「ア、アイナ嬢……」
「あれ、ひょっとして本当に知り合いだった?」

エクセルを拘束でき、一仕事終えたと満面の笑顔の男に尋ねられた愛菜はエクセルから一切視線をそらす事なくピシャリと言い放った。

「いいえ、赤の他人です」

吹雪のように冷たく、氷のように鋭い軽蔑の眼差しにエクセルは力尽き、助けを求めていた手がボトリと床に落ちた。
頭から蒸気をぷんぷんと発射するかのように怒り心頭で愛菜は二階の部屋へ帰っていく。不潔だ、いやらしいという言葉を発している彼女の背中を見送っている最中、ロビーで騒いでいたことに宿の責任者から声を掛けられる。
男は腰低く、自身の身分証を提示するとそれを見た責任者の顔がみるみる青くなっていった。腰の低さはそのままで騒がしくしたことを詫び、エクセルの部屋を聞き出す。彼を連れの娘達に担がせて二階の部屋へ向かった。

「アードルフ・メイモン卿、聞いているのか!?下ろし給え!!」
「だって侯爵殿逃げるじゃないですかぁ」

その愛菜と同じくらいの歳に見える少女に肩で担がれている自身の姿を見られたらどうなるか。想像して死にたくなると言ったエクセルに更に追い打ちで、風呂あがりに廊下で涼んでいたクラエスとセットに遭遇する。二人とも動きが止まりずっと何事かとこちらを見ているが、どう言い訳しても恥ずかしくて面倒くさい方向に転ぶことは間違いない。
エクセルは死体のように少女の背中に張り付いたまま動かなくなってしまった。

「失礼しまーす」

部屋に入った瞬間、ベッドの上に居た愛菜と目が合う。その後すぐに枕に押し付けてうつ伏せになり顔を逸らされた為、男は困った様子で顔を掻きながらため息を付く。連れの少女に市場に出された魚のような有様のエクセルを降ろすように指を使って指示する。

「目下欲しい物とか無いんですか?旅の途中、必要に感じる物もあるでしょう」

更に指を動かし、少女たちに持ってきたかばんをひっくり返させ次々と中の物出しながら、これは必要か、ならこれは?と訪ねてくる。エクセルは首を振ってそれらを要らないと意思表示し、今はお茶が飲みたいとだけ言って席に座った。
男はニコニコしながらお茶を用意するようメモを書いた紙を連れの少女一人に渡し、下へ向かわせる。少女を見送り手を振りながら異様に細かく動く指先をじっと見つめながらエクセルはアードルフと名前を呼んだ男に疑問を投げかける。

「それ、楽しいのかね?」
「楽しいですよ」

にっこり笑うと男はまた指をクイクイと動かし、自分の側に娘を一人呼んだ。娘は瞬き一つせず、ゆっくり膝立ちし、彼の膝に頬を乗せるように身をすり寄せだす。
その間も一切表情は動かず、ずっと娘の目はエクセルだけを見ている。
エクセルは気色の悪い物を見たとでも言いたそうに顔を歪めてその少女から目を逸らした。

「炊事、洗濯などの家事全般は勿論のこと、夜のお相手だって出来ますよ。乳房や女性器官も造ってるんで人間のそれと全く変わらない使い心地ですよ」
「私はそのお人形遊びは興味が無いと、いつも言っているだろう」

自身の主力商品である彼女たちをいつも通り紹介したつもりだったが、まったく興味を示してもらえないどころか嫌悪される始末。以前から同じように潔癖な反応をしているエクセルだったため今日の商談はまぁ無理であろうと予測も出来てはいた。しかし、そう思えても納得出来ないことがある。
アードルフはちらりとベットで横になって不貞腐れている愛菜を見る。

「侯爵殿の頼みとあらば、私だって普段取り扱いのない『生モノ』だって用意しましたのに……」

この潔癖な反応をする男が、何処からともなく、この辺りでは見ない姿の娘を連れている。この街でそれを意味するものは一つだ。
この街はなんだって売っている。「生きている人間」も。

「それは私が闇市で人を買ったとでも言いたいのかね」
「じゃあどこからあのあの娘は出てきたのですか!?この前、関所を通った時には居なかったはず」
「っ!?」

その発言に驚き限界まで目を見開いたエクセルの顔を見て、アードルフはまずいと口を咄嗟に塞いだ。
次に見た時には驚きから殺気へと変わり、みしみしと音を立てて額の眼がゆっくり開きだす光景を目の当たりにし、アードルフは何も離すまいと口を閉じ、ごくりと喉を鳴らす。
同じ貴族の家系に生まれ、同じ純血主義の一族の出であるアードルフも、彼が先祖帰りという人間離れした人種であることも理解しているつもりだった。だが、理解していてもいざ目の前にすると言葉が何一つ出せず、笑いを漏らすしか出来なかった。

「何故商人の貴方がそんな事を知っているのですか」
「な、何故って……嫌だなぁ侯爵殿……私がこの街の領主であることもご存知でしょう」
「その情報を管理するべきは衛兵を総括している総司令閣下だ。領主である貴方の仕事は政であって兵隊の管理ではないはずです」

殺気とは対象的な口調のエクセル。アードルフはなんとか返した言葉は不思議とエクセルに向かって言ってるのではなく額の眼に向かって言っているような錯覚を感じていた。その後の質問には口をまっすぐ閉じたまま何も答えず、彼の額の眼を見続けている。
逸らせない。目の前で喋っている男は一体誰なんだろう。自身とエクセルの異変に気づいたアードルフは次第に身体が震えだす。

「それと、貴方はどうして今日、私がこの宿に居ると解ったのですか」
「嫌だなぁ、衛兵隊にちょっと知り合いがいるだけですよぉ。怖いなぁもう」
「スコル=オリベルトか?」

その名前を聞いた瞬間、アードルフの震えが止まる。口は何も答えなかったが、身体がその質問に答えてしまった。
彼の恐怖も絶望も通り越して無となった表情を見て、エクセルは静かに額の眼を閉じ、彼から離れる。穏やかな声でそれだけわかれば良いと呟き、何もなかったようにお茶を入れなおす。

「ああ、そういえば魔石を使い果たしたんだったな」

先ほどの殺気も一切なくなった様子で、そういえばと耳に飾っていたピアスの石が無くなっている事に気づきそっと触れる。
取り扱っているかとアードルフを呼ぼうと顔をあげると、目の前には宝石の並んだケースを構えたアードルフが深々と頭を下げていた。そして顔を上げたアードルフは「人が悪いですよ、早く言ってください」と満面の営業スマイルを見せてきた。

「貴殿のそういうところは本当、尊敬する」

エクセルは死んだ目を向けて商魂たくましい彼を褒めた。
宝石箱の中から一つ赤い石を取り出し、部屋の明かりにかざして石の中を覗いた。不純物が混ざっているのか鈍く輝く石を気が済むまで見つめた後、その赤い石だけを購入することを伝える。

「天然の魔石はこれだけかね。出来ればもう少し欲しいのだが」
「お時間を頂ければ仕入れますよ。まぁ物が物なので時間はかかりますけど」
「構わない。加工、未加工問わない。なるべく大きいものを頼む」

爪ひとかけほどの大きさの赤い石を見つめながらその大きさが不満なのか小さいとだけ呟いた。それにバツが悪そうな表情を見せる。

「人工ならたくさんありますよ」
「人工は……好かん」

そうですよね。答えが最初から分かっていたように納得する。彼は困った様子で空元気な笑いを漏らしながら仕入れすぎて困っていると愚痴をこぼした。
けれどエクセルが言うように人工の魔石が好かない理由も理解できると言う。製造工程を知ると確かにあまりいい気分はしないと漏らし、宝石箱の中に入った青い宝石を見つめながら蓋を閉じる。
顔を上げたアードルフは持ち前の営業スマイルに戻り「まいど!」と声を上げて両手の指をせわしなく動かした。すると生気無く棒立ちしていた娘達が黙々と帰り支度を始めだす。

「なんで帝国訛りなのかね」
「いやぁ。その人口魔石の件でつい最近帝国の人と取引があったんで、つい」

いつもと違う抑揚で締めた言葉にエクセルは呆れて突っ込む。
隣国である帝国の言葉だが、帝国は過去戦争関係にあった為あまり仲が良くない。そのためこの辺りではめったに聞かない訛りだ。他国とやり取りの多い港街の商人だからこその芸当なのかもしれないが、王城でやったらとんでもない事になりそうだと不安になった。

「……いつも商売でお世話になっているアーンド先の戦争から腐れ縁の侯爵殿に、今度はこの街の領主として忠告しておきますね」

帝国の言葉に何か含みのある間を置いた後、アードルフはいつもの口調で忠告などときな臭い言葉を出してきた。ぴっと立てていた人差し指を寝台で不貞腐れている愛菜に向ける。

「そんなに大事なら、この街を出るまで鎖でも付けとけ」
「だから、私にそんな趣味は」
「忠告はした」

指先はエクセルの鼻先を指し、据わったまま動かない目から冗談で言っている内容では無いことが分かる。その後はいつもの愛想のいい挨拶もなく、彼は静かに連れのお人形達と階段を降りていってしまった。
普段やかましく愛想振りまいて、こちらが帰れと怒鳴るまで居続けるような男なのだが、ここまですんなりと帰る事に得体のしれないものを感じる。急に彼の言葉が不安になり、寝台にいる愛菜の様子をうかがう。
触れていいのかどうか悩みながら恐る恐る肩を軽く掴むと愛菜の口から「うーん」と小さな唸りが漏れた。

「アイナ嬢、湯浴みは良いのかね?」
「うーううん、お父さん行っちゃった……バス行っちゃう……」
「???」

エクセルは愛菜が寝言で何を言っているのか全く理解できず困り果てて頭を掻きむしる。今寝言でお父さんと呼んだのはひょっとすると男の自分が声をかけたからだろうかと微妙にショックも受けている最中だ。
もう一度肩を揺すってみるが、酷く寝ぼけた様子で愛菜は急に拒否の声を上げてエクセルの手を払いのけた。

「やだ!ここにいる!!」

愛菜はシーツを掴み顔を押し付けて嫌だ嫌だと駄々をこね続けた。そんなに眠たいのかと起こすのを諦めかけていた時に今度はシーツに埋めた顔からすすり音が漏れだした。泣き出したことを理解したエクセルは泣く程嫌だったのかと慌てて手を放した。

「ずっとここにいる……起きるまでずっとここにいる」
「アイナ……」

手に触れた瞬間、エクセルは額の眼が限界まで開く感覚を覚えた。チカッと光が走り、目の前に見知らぬ人物や風景が見えて慌てて手を離す。
自分の知らない記憶を頭の中に無理やり入れられたかのような感覚。その記憶は自身のものではないことが身体が分かるのか、拒絶反応を起こす。先祖の記憶を持って生まれるといわれている先祖帰り特有の症状。

「……こんな時に」

視界がぐるぐると回り、塗り替えられ、いくつもの場面を映し出していく。
何もない草原。大きな樹の下で立っていると分かる影。樹を見上げると美味しそうな赤い実。その身を頬張りながら樹の上から下を見下ろす。
知らない女が見上げている。ボサボサの長い髪だが何処か懐かしい気持ちになる。
少女の顔がみるみる曇り、涙を流す。そして少女の顔が次第に変化していく。
半狂乱になり泣きながら奇声を上げる母。怒り狂う父と生暖かい感触。お腹を抱え涙を流す女は****************。

「っっ!」

気がつくとエクセルは床に膝を付いてベッドの上に突っ伏していた。
顔を上げ泣いて少し赤くなった愛菜の寝顔から意識がなくなってからまだそれほど時間が立ってないことが解る。立ち上がったエクセルはベッドの傍にあった色付きの液体が入った試験管のようなものを見てまだ一時間ほどしか経っていないのかと呟いた。
悪夢による寝汗のせいで濡れてしまった首元が不快で、我慢できずため息が出る。

「湯浴み、するか」

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