meria 二章 - 4

目を覚ますと悪魔のような角を生やした男が隣で寝ていた。
驚きのあまり身体が上に向かってびくんと跳ね上がり、勢いを付けて頭上にあるベッドの飾り板に激突する。

「いったい」

頭を抑えて悶える愛菜の声に男はびくともせず、唸りながら寝返りを打ちうつ伏せになって寝息を立てている。愛菜は男の様子を恐る恐る覗き込みながら、これまた恐る恐る肩を叩いて男を起こそうとした。
一瞬、名前を忘れそうになる。昨日であったばかりでは無理もない。

「エクセルさん、朝ですよー……」

呼んでみても、揺すってみてもエクセルは起きる気配がなく。辛そうに顔をしかめて寝返りを打ち、呪いでも唱えているかのような不気味な寝言を漏らしながら起きる気配はまったく無い。彼を起こすことに諦めた愛菜はベッドから降りて更に驚愕する。
部屋が、汚い。
まず、床に脱ぎ捨てられた服で道ができている。おそらく昨晩エクセルが湯浴みをする際に脱ぎながら浴場に向かったのだろう。
あと、荷物がひっくり返っている。多分何か出したい物があって探すために全部出したとか、そんな感じだろう。それと、なんか荷物が増えている気がする。赤い宝石が入った箱が開いたまんま放置されているが、昨日こんなものは見なかった。
あまりの壮絶な散らかりように眠気は一切なくなり、信じられない物を見る目で寝ているエクセルを見下ろす。
言葉を失っていたところ部屋入り口を叩く音が聞こえたため、あわてて扉へ走る。

「おはようございます。お湯の張替えに参りました」
「あ、はい」

使用人の制服に身を包んだ従業員の娘がお湯の入った容器を抱えてニッコリと立っていた。娘を部屋に入れると手慣れた様子で湯浴み用のお湯の入れ替えを行い、床に散らばったエクセルの服を一枚一枚拾っては畳み、拾っては畳んでいる。

「よう、嬢ちゃん。よく寝れたか」
「あ、えっと……セットさん?おはようございます」

服の片付けだけでなく、エクセルを起こし出した娘を見ていた愛菜へ廊下から声がかかる。
もう出かける支度が済んでいる様子のセットだ。

「あのおっさんなら、なかなか起きねぇから店のネーチャンに任せて俺達と食事しようぜ」
「え、でも」

エクセルは後ろが気になり一瞬振り向く。起き上がってベッドに腰掛けてはいるが頭が垂れ下がってる様子から、エクセルの目覚めはまだまだ掛かりそうだ。
献身的な世話を行う従業員の娘を見て、愛菜はなんとも言えない気分になった。

「私、昨日お風呂入ってないから」
「んじゃ終わったらはやく降りてきな。下の嬢ちゃんも喜ぶぞ」

俯きながらそれっぽい言い訳をしてセットと別れた後、静かに扉を閉める。なんだかすっきりしない気分で振り返ると、エクセルはまたベッドに横になった状態で振り出しに戻っていた。
流石に困った様子の娘に声を掛けるとタオルを渡してくれた。

「昨日は領主様のお知り合いとは存じず、無礼な対応をしてしまい申し訳ありません」
「りょうしゅさま?」
「よかったらこちらを湯浴みの際にお使いください。この辺りでは珍しい花から採れた香油でございます」
「えっと、ありがとうございます」

なんのことかわからないままタオルと香油を渡され、流れのままに愛菜はお湯の中に浸かっていた。まだ浴槽に入れたばかりのお湯はとても暖かく、気持ちよすぎて思わず顔が緩む。
渡された香油の瓶を見てどう使えばいいのか一瞬迷う。まぁいいやと愛菜は半分ほどお湯の中へ香油を流し入れる。お湯を混ぜながら、残りの香油を身体に垂らしてみる。顔や腕や脚に塗り込んだ後、お湯で余分な香油を落とし、お湯から上がる。

「お風呂って偉大だぁ」

制服に着替えた後、浴場から出てきた愛菜はしみじみ呟いた。疲れが一気に無くなったように身体が軽い。香油でいい匂いがするし寝起きの何とも言えない気分がスッキリ爽快な気分へと変わっていた。

「ああ、湯浴みしてきたのかね」

部屋に戻る愛菜に聞き覚えのある声がかけられる。タオルから顔をあげるとまだ少し眠そうなエクセルがお茶を飲みながら首をかしげていた。
着替えているのだが、風呂上がりの無防備なところを異性に見られ愛菜は急に恥ずかしくなった。あとは、隣で寝ていたことも原因の一つ。俯いたまま喋らない愛菜をまだ怒っていて不貞腐れているのだと勘違いしたエクセルは静かに愛菜の両手を強く握り締める。

「昨日のあれは本当、誤解だからね」

昨日がなんのことか急で思い出せず、顔を赤くして首を傾げる。そんな反応を見て、昨日のことで不貞腐れ続けている訳ではないことに気付き安堵する。それと同時に自分に対し顔を赤らめる反応におかしな娘だと思い、更にからかってやろうと意地悪な気持ちが芽生える。

「エクセルさん……?」

ゆっくり後へ手を回し、愛菜の頭を触れる。髪を絡めながら何かを探すかのように這い回るエクセルの指の動きで愛菜は彼が角を探していることに気づく。そして次第に手の動きが、あるはずの物が無く動揺している事にも勘付く。
カミル村を後にしてすぐ、馬車の中で頭に触れられたときから、角がない事をエクセルに何か言われるのではないかと思っていた。今も何か言われるのかと怖くなり、無言でそっと離れるよう彼の胸を両手で押した。

「変、ですか?」

向き合ったまま無言で立ち尽くしている事に我慢できなくなった愛菜はゆっくり顔を上げてエクセルに問いかける。
自分にはみんなにあるものがない。カミル村にやって来て、色んな人を見たが角がない人は居なかった。小さくてもエステルのように髪のすき間から覗いたり、髪型が少し角で変化していたり存在を感じていた。眼の前に居るエクセルは存在感の強い角で、隣りにいると自分との差が有りすぎて角がないことが周囲の人にわかってしまうのではないかと心配になる。
そんな事を心配していると、自分がもしみんなとはぐれてしまったら、物珍しいと何処かに連れて行かれるのではないかと余計な心配をするようになった。
涙を溜める愛菜の問に、エクセルは難しい顔で暫く答えを考えた。

「アイナ嬢は、私を変だとは思わないのかね」
「え?」
「私の目が三つあっても変だとは思わないのかね」

言われてその額の存在に気づいた。見れば額から愛菜をじっと見つめる赤い眼と視線がかち合う。
時々ゆっくりとした動きでまばたきをしたりする額の眼は確かに普通の眼とは違うような気がする。まるでその眼はエクセルとは別に意思を持っているかのように彼とは対象的な動きを見せていた。視線を合わせまいと大きく視線を下へ逸らしているエクセルと違い、その眼はじっとこちらを見つめ続け、愛菜の答えを待っている。

「思わないです」
「本当に?」
「だって、ここに来てから驚くことしか無いもん。みんな角がある事ですら私はびっくりしているんです。それだけじゃなくて魔法とか不思議なチカラを使える人が居たり、友達が急に神様を名乗りだしたり……だったら眼が増えることもあるのかなとかって」

疑われているように聞こえた為、焦った愛菜は急に早口になって今まで抱えていた不安を話しだした。

「エクセルさんは私の事、変だと……」
「思うよ」

即答された後、何を言われたのか理解できず、固まる。
思っていたのと違う答えが来たせいで、どうしてと声をつまらせながら聞いてくるくしゃくしゃな愛菜の顔を見てエクセルはいつも通りにやにやと笑った。変だと面と向かって言われ堪えている涙を拭ってやる。

「これを見て変だと思わないなんて、本当に変な娘だよ」

愛菜の肩に両手を置き、何か諦めたようにそう呟いて一息つく。
やれやれと呟き、最後に笑った顔はいつものものとは違い、凄く穏やかな笑顔だった。こんな顔も出来るのかと一瞬驚き、少し照れながら愛菜も笑ってみせた。

「私は、三つ目より角のほうが気になりますけど」
「へ?」
「エクセルさんの角ってちょっと独特な形してるじゃないですか。綺麗に曲がっているっていうか」

懲りずに身体を密着し、頭を撫で続けるエクセルを呆れ顔で見上げていた愛菜がそういえばと思いつきでぽんと出した本音。
ソレに対し、今度はエクセルが面食らい間の抜けた声を出した。頭を撫でていた手を留めて、何を言っているんだと信じがたいものを見るような目でがっしり愛菜の肩を掴んできた。

「ど、どうしたんですか」
「君、何言っているかわかっていないだろう」

震える声は何かを堪えているように感じた。
何かマズイことを言ってしまったのだろうかと不安がよぎった直後に、エクセルの顔がどんどん赤く変わっていく。
エクセルは愛菜の過ちを正すため伝えなければいけないことがあるのは理解できているが、声に出そうとする度に彼の中で葛藤が巻き起こっている。そして当の本人は本気でわかっていないのか驚いている表情がなんだか腹立たしくさえ思えてきた。

「エステルにも言われたんですけど良く解って無くて、角を話題に出したり、触ったりするのってそんなに恥ずかしいことなんですか?」
「同性同士で話題に出すのはまぁ良いとして、異性に対して……その、触れたりするのは良くないわけじゃないのだが私は良いが他は良くないというか」
「何言ってるんですか」
「とにかく!今後、私以外の男に角がどうの言っては駄目だと言っているのだよ」

勢いに任せて言った後、エクセルはじっと愛菜を見つめたまま自分の台詞に対し何を言い出しているだと呟いた。
だが、更に同じ台詞を愛菜に言うことになる。

「どうしてですか?」

また何を言い出すんだと言うと、彼女はだってわからないからと言った。
どうしてそんなに自分を気にかけるのかと問い詰めてきた。最初は自分を違う国のスパイだったらどうするんだと言って不審がってたくせに、今は弟子だと嘘をついて自分の面倒を見ようとするのが分からないと言い出した。
愛菜の言っていることは理解できるが、まさかあの時言っていた冗談を真に受けているとはエクセルも思わなかった。だが言っている本人は大真面目で、怖い思いをしたというのも嘘ではないと理解し、軽率だったと反省する。
エクセルからいつもの笑みが消える瞬間を見て、愛菜は少し彼を怖いと感じた。不安そうな顔で体を小さくする愛菜を抱えながら、エクセルは静かに答えを伝えた。

「君に興味があるのだよ」

答えの意図を聞き返そうとする愛菜の声など聞かず、エクセルは少しずつ愛菜に顔を近づけて来た。少し傾けた状態で今にも触れそうな距離まで迫ってきた時、彼が何をしようとしているのかようやく理解するがもう遅かった。

「閣下ぁ、いちゃついてる場合じゃないですぅ」

本当に、あと一秒でも遅かったらどうなっていただろうか。
丁度、二人の間を割って入るような位置に御者が目をうるうるさせながら、見てほしいとばかりに何やら紙の束をひらひらさせている。いつの間にそこに立ったんだろうと愛菜は視線だけを移動させる。すると彼女に向かって一瞬舌を出し、てへっと笑う仕草を見せたためわざわざ止に入ったという事は解った。
愛菜の肩から手を放したエクセルは無表情のまま彼の手から紙の束をひったくり高速で一枚一枚めくり内容を確認し始める。誰がどう見ても不機嫌と分かる不貞腐れた表情である。
なんだかわからないけど、助かった。彼の表情をみて、先程のあれが未遂に終わった事に愛菜は胸をなでおろす。

「何かねこの伝票は。食べ物の名前ばかり続くのだが」
「そこに書いてある食べ物は今下で食べている朝食ですよ」
「……は?」

わざとらしい泣き顔から随分落ち着いた様子の御者と入れ替わり、今度はエクセルが涙目を浮かべる事態になった。
何枚も束ねられた紙には最初こそ宿代の表記になっていたが、一枚捲れば食べ物、二枚目来れば食べ物。上司の顔が頭を過ぎり、これを報告するとどうなるか考え身体が大きく縦に揺れ始める。

「え?何故、こんな、事に?」
「凄いですよ~あの花嫁候補のお嬢さん。お店のメニュー端から端まで注文して今もめちゃくちゃ美味しそうに食べてますよ」
「え、エステル嬢が?一人で?何人前だよこれ……えっ待って!殿下にこんなん見せたら私殺される!!でっ伝票分けれるのかコレ!?」

震えながら食事だけの金額がいくらになるのか暗算を高速で行った後、廊下に突撃する勢いで部屋を出ていった。顔面蒼白この言葉がぴったりの顔色だった。
なんかよくわからないけどエクセルにとって凄いことになっている事だけは理解した。

「危なかったね~」
「あ、どうも」

ぺこっとお辞儀をして助けてもらった事に礼をする愛菜。
まだ子供っぽい娘が先日出会ったばかりの男にいきなり接吻されそうだったのを止めたわけだが、凄く助かりました!といった普通の反応ではなかったため御者は首をかしげてる。
俯いたまま神妙な面持ちで何か考えている様子の愛菜を覗き込みながら、まさかと思い聞いてみた。

「ひょっとして止めないほうが良かった?」
「なんでそうなるんですか!」

むちゃくちゃ怒られた。

「なんか色々有りすぎてもうすでに疲れてきました」

そう言うと、待っていたのかと疑うくらいいいタイミングで腹の音がなる。もうすでに一階の食堂でいっぱい食事を用意してあるから遠慮しないで食べていいよと言われて我慢できなくなり、二人で荷物をまとめ、一階へ向かう。
到着した一行の席は朝にも関わらず宴会のような仕上がりだった。大量の皿を重ねた塔に囲まれた大皿。それに盛られた巨大グラタンのような食べ物から凄く甘い匂いが漂っている。その大皿の中の物を一人で抱えて口の中へ頬張り、幸せそうに声を漏らして両頬を両手で押さえる少女が中央に陣取っている。

「エステル」
「あ!アイナだ!」

中央の少女はそれはそれは見覚えのある少女だったのだが、その光景は信じがたい光景だったため確かめるように彼女の名前を呼んだ。
すると少女は屈託のない笑顔を見せた後、料理がすごく美味しい事を熱弁し、一緒に早く食べようと手招きをする。

「この卵プティング、美味しいよ~」

カミル村での出来事が嘘のような笑顔を見せて、もう一度その卵プティングとやらを大口いっぱい頬張って見せた。
凄く幸せそうなエステルの笑顔を見てホッとしたのか愛菜は急に涙を流してもう一度エステルの名前を呼んで駆け寄った。隣りにいたクラエスを押しのけて彼女に抱きつくと良かった良かったと何度も言って鼻をすする。
いくらなんでも感極まり過ぎだと一部始終を見ていたセットに呆れられてしまった。

「だって……」
「わーたわーた!ほら泣いてないで食えよ。腹減っただろ」
「うん」

席を移動したクラエスがエステルの隣に愛菜を座らせ、セットがいくつか食べ物を皿によそって渡す。受け取ったパンを泣きながら頬張る愛菜の姿を見て二人は笑った。どんだけ感動の再会でも腹は減るもんだと言って自分たちもまた食事に戻る。
それから暫く遅れてふらついたエクセルが合流するも、死んだ目で座席いっぱい座っている男二人に少し場所を分けてくれと言って無理やり座った。普段なら強引すぎて怒るところだが何で彼がこんなことになっているのか原因が分かってしまったクラエスは何も言えず無言になるために食事を再開する。

「エクセルさん大丈夫でした?」
「ああ、うん。エステル嬢も元気になってよかった。今日は私のおごりだから好きなだけ食べてくれたまえ」

自腹切るつもりだ。察した愛菜とクラエスが目で語り合った瞬間だった。

「おいエステル。いい加減にしとけよ」
「エクセルさん、ごめんなさい。美味しくてつい」

周りに自身が食べてつくった皿の塔に囲まれながら、うっすら恥ずかしそうに顔を赤くして最後の一皿を口にした後、コレで最後にしますねと手に取ったメニューから顔を覗かせる。
伝票伝票と死にそうな顔をしていたエクセルが「可憐だ」とデレデレふやけていく様子を真正面から見ていた愛菜が不快そうに顔を歪める。確かに、露骨すぎる。
しかし、隣から聞こえてくる料理の名前の羅列がどんどん増えていくにつれ、エクセルの顔は真顔に戻っていく。目の前で不快を露わにしておいてなんだが、こうも上がり下がりが激しいとなんだかんだと彼が心配になってくる愛菜だった。

「本当に大丈夫ですか?エクセルさん」
「大丈夫。おじさん、お金持ちだから」
「そーゆー問題かな」

真顔で言ったその台詞は彼にしては珍しく嫌味な感じはなかった。いっそ清々しいくらい正直な発言だが、何故か悲壮感が漂っている。
呆れる愛菜へ大丈夫といつもの笑顔を見せながらエクセルは手元に届いたお茶に牛乳を入れて口に流し込んだ。やっぱり落ち着くと、だけ呟きその後は黙ってお茶を注ぎ足しながら飲み続ける。じっと愛菜の後ろの席の客へ視線を集中させながら。

「なぁ、やっぱいい女だよなぁコイツ」
「もう一ヶ月も前だぜ、その美人さん居なくなってから……いい加減そろそろ規制解除してほしいよなぁ」
「お貴族様が居なくなったからっつっても騒ぎ過ぎじゃねーの。この街じゃ行方不明なんて不思議じゃ無いだろに」
「闇市で売られて性奴隷にされちゃいましたーてか。あるあるだな」

下品な話題で盛り上がっている船乗りらしき一団だった。たぶん外国から色々な物を輸入出しているのだろう。最近この港から出港するのが厳しくなったと愚痴を言っていたかと思ったら、急に卑猥な話題へ転換と呆れる。とはいえ、話はどうやら繋がっているらしく、規制が厳しくなったのはその行方不明の女が原因のような会話だった。
妙に気になったエクセルはテーブルに置いてあった呼び鈴を鳴らし、やって来た従業員の男に銀色の硬貨を渡す。

「日紙を貰おう」
「かしこまりました」

男はすぐさま上部で冊子状に留められた紙の束を渡し、去っていった。受け取った後、エクセルは紙の両面にある文字や写真を見て何かを探しているように一心不乱に紙をめくり続けている。
それを不思議そうに見つめる愛菜は隣りにいたエステルに日紙が何なのか尋ねた。

「最近の出来事とかをお知らせする情報誌だよ。カミル村は小さい村だから何かあったらすぐバレるから発行してなかったけど、大きな街はあんな風に紙に印刷して事件とか面白い出来事の情報を売るお仕事があるの」
「ふぅん新聞のことかぁ」
「しん、ぶん?」

その説明で自分なりに理解できた愛菜は自分の世界の発行物の名前で例え、なるほどと頷いた。しかし、今度はエステルがその新聞を理解できず、首を傾げる。

「これか……」

ようやく見つけたそれは、やや小さい記事だったが確かに印象に残る美女の姿絵が載せられていた。見出しは行方不明の貴族令嬢未だ見つからずとあった。
内容もなんということはない。とある貴族の娘が行方不明になっているが未だに見つからず、一月もの時が経ったという記事だ。書かれている内容は父親が跡継ぎを生む大切な娘が居なくなって大変悲しいなど、さほど興味のない内容。だが、どういう訳か娘の姿絵を見てから胸騒がしだした。

そんなに大事なら、この街を出るまで鎖でも付けとけ。

あの時言われた言葉も蘇る。何かわかったような、わからないようなそんなもどかしい気持ちでエクセルは唇を噛んだ。

「今度は女の姿絵かよ。懲りねぇジジイだな」

隣から呆れた声を掛けられ我に返る。暫く固まっていたエクセルだったが、何か勘違いされていることに気が付き、不服そうに口を尖らせクラエスに反論をしてみせた。

「失礼な。生憎私はこういった我の強そうな美人は苦手なのだよ」
「えー」
「私が好きなのは純粋無垢で可憐な美少女だ。間違えないでくれたまえ!勿論一番はアイナ嬢、君だよ」

立ち上がり強引に愛菜の両手を握ってまるで愛の告白のような台詞をいうエクセルに対し、愛菜はそれはそれは嫌そうに顔をしかめてエクセルの手を払い落とした。

「私、エクセルさんのそういうところ嫌いです」
「ええええええええええええええええ!!!」

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