夢殺しの毎日

ずっと人を殺したいと思っていた。だから、あなたが死んでくれてすごく嬉しかった。

あなたのお葬式の日、ご両親は私に頭を下げた。
「あんな子と仲良くしていただいて、本当に……」
その後は声が震えるばかりの母親と、その肩を芝居がかった仕草で抱く父親を見て、あなたは本当にいいご両親を持っていたって私は思った。

いい人たち、そして愚か。
馬鹿な二人だとは思ったけど、それを態度に出すような私ではないから、黙ってこうべを垂れていた。冴えない表情の鈍くさい葬列客たちを視界に留めていると、お気の毒に、と頭の中で喋る誰かがいる。

あなたの夢は知っていた。絵を描いて、憧れのアーティストたちと仕事をして生活していけるようになる、それがあなたの夢だった。

──そんなのって夢物語だよ、今の自分ときちんと向き合って。そんなこと言ったら憎まれるかもしれないってわかってるけど。
──趣味があるって本当に素敵だし、あたしはあなたの絵が大好きだよ。だけど、本当にしたいことだけで生活していけるんだったら、誰も苦労なんてしないんだし……

そう、そんな感じで、あたしは時々あなたの夢を否定した。それは悪いことなんかじゃない、現実を見せてやるのはいいことだ、誰もがそう言う。私はいい子だから、たくさんの人に代わってあなたにそう言ってあげる。

そんな私にあなたは何度も、わかってる、わかってるけど、と苦しそうに言って、そうしていつでも絵を描いているのだった。横断歩道に立っているときも、二人で部屋にいるときも、更には食事のときでさえ。
そんなあなたの健気な姿勢が、ろくに夢のないあたしを更に苛つかせる。

「どうせ親の脛かじって生きてる寄生虫だから」
「そんな風に思うことないよ。本当はお父さんお母さんだって、生きているだけでいいって思ってるよ」
一体、何回そんな不毛で馬鹿な会話を繰り返しただろう。
「いま私、すごくあなたに悪いこと考えてる。こんなこと言ったら傷つけると思うから、やっぱり言わない」
「大丈夫だよ、聞くよ」
反吐を吐くような思いで、あたしは言葉を絞り出す。どうせあなたはあたしから、そういう台詞を引き出したかっただけなのだ。寄生虫、寄生虫、脛かじりの豚。ああ嫌になる。あたしはあなたが死んでくれる日を夢見てお友達をしている。そうでなかったら、こんな面倒な奴と誰が付き合うものか。

ある日、あたしは言った。

──死にたいっていう人、死んでもいいと思うの。あたしがそれを止める権利なんかないんだし、どうせ誰の役にも立たないなら、むしろいないほうがいいよね?あのね、知り合いに引きこもりの子がいるんだけど、あたしが「お友達してやってる」だけなのに、自分はあたしにとって必要なんだって思い上がってるみたいなの、彼女ときどき死にたいって言うんだけど、ほんと好きにしたらって思うわ。

──働きもしない自分が嫌とか言うくせに、いざとなると「アタシ心が弱いからぁ」とかほざいて逃げるの。心の病気って、深刻な人は深刻だけど、あの人の場合それを逃げ道にしてるだけ。寄生虫でいるのが好きなのよ。じゃ、おとなしくそうしていればいいのに。あたしに迷惑かけたりなんてしないで。

それ、私にそっくりだね、と否定してほしそう物欲しげに、彼女は私の顔を覗き込んだけど、私はうんざりしたまま煙草をふかしただけだった。それがほとんど肯定なのを、彼女も悟っていたはずだ。認めようとしなかっただけで。

その後、私は彼女との連絡を絶った。あの馬鹿な両親と同じ家で、逐一慰めたり褒めたりしてくれた私を失って、彼女がどうなるかは見物だった。お母さんの話では、パソコンに張り付く時間が増え、無口になったらしい。で、結果は見ての通り、存在価値のなさを苦にしての自殺だった。

誰も私を人殺しとは呼ばない。

せっかくだから、あなたにも人の殺し方を教えてあげる。逃げられない状態にして、相手のしたいことを全部否定して、それを「あなたのためだよ」って言う。そうすれば命は断たなくたって、相手は確実にゆるゆると死んでいく。

本を買ったり、勉強したりするのに使っています。最近、買ったのはフーコー『言葉と物』(仏語版)。