『夜逃げ屋日記』と、DV相談は男性も使えること

 『夜逃げ屋日記』を読んでいる。

https://comic-walker.com/detail/KC_005925_S?episodeType=first

  おとといDVについて調べていたら、この漫画が検索結果に出てきた。「夜逃げ屋」とは、DVやストーカーなどから逃げる人々を手助けする業者らしい。別の名前をあてるなら「緊急性引っ越し業者」とか、そんな感じだろうか……。
 
 この漫画は、その夜逃げ屋で働く漫画家による(ほぼ)ノンフィクションとのことで、つい1巻を買って読んでしまった。漫画であるうちは耐えられるけど、こんなの目の前で見せられたら辛いな、と思う内容が多い。
 
 たとえば、家族から虐待され続けた男性がいる。優秀な兄弟と比べられ、おまえは劣るからと同じ食卓にも就かせてもらえず、家の中で手酷い待遇を受け続ける。そんな中で夜逃げを決意し、業者に依頼する。
 
 第三者から見れば「夜逃げする前に、なんとかならなかったのか」と思うだろう。ならなかった人が依頼するのだ。ここで出てくるケースはどれも、当然ながら業者にアクセスした人たちの話だ。自力で逃げる人は、そもそも業者に頼らない。
 
 なんとかならなかったんだろうか。こういう問いかけは無意味に見えるけど、どうしても考えてしまう。どこかで引き返すことってできなかったんだろうか。どこかで何かが違っていたら、夜逃げするほどの事態にはならなかったんじゃないか。
 
 こんなのはケースバイケースだ。たとえば配偶者のDVであれば、その芽が見えた時点で離婚するとかできたかもしれない。そうでなくても、適切な機関に電話で相談するとか警察に連絡するとか、初動で手が打てればまだマシだったかもしれない。
 
 だけどこれが「親の虐待から逃げる」場合だと、「なにかできたんじゃないか」とは言いにくい。子どもは親を選べない。逃げる以外に選択肢があるだろうか。普通にない。ないと思う。そういう人も「夜逃げ屋」を使う。
 
 どうにかなったケースもあるかもしれない。そしてどうにもならないケースもある。最初から、身を引き剥がすように逃げるしかない状態。自分が今の今まで、そうした境遇とは無縁なのは、とても幸運なことなのだと思う。
 
 自分だって小さい頃、いきなり母に連れられて家を出た。母は義実家での生活が辛く、メンタルの限界に来ており、子連れで実家に舞い戻った。幸福な出来事とは言いがたい。言いがたいけど、少なくとも両親は、それぞれ違った形で自分を愛してくれた。
 
 家族が理由で傷ついたことはたくさんあるし、家族から自殺者も出たけれど、それでも自分はまだ幸運なほうだと思う。そして幸運は「運」でしかないから、それを維持したいなら賢く立ち回る必要がある。
 
 おかしな出来事には初動で対応できるように。仮に締め付けられるような状況になっても、最後の悪あがきをする元気くらいは残しておけるように。『夜逃げ屋日記』は、そういう日常への決意をくれる。

 
 ひょっとして「DVについて調べていたらこの記事が出てきた」なんて人もいるかもしれない。相談先を書いておくので「ちょっと変」くらいの違和感でもいいから、電話してみていいと思う。身動き取れるうちに取っておこう。

 
DV相談ナビ → #8008

DV相談プラス → 0120-279-889(こちらは24時間、365日対応)

 
 「DV相談プラス」は「男性の相談にも対応(毎週日曜15~21時は、専用回線で受け付けます)」とのこと。こういう相談機関は女性向けのイメージがあるけど、男性も相談できるようになっている。
 
 本当なら、性別を問わず使えるのが普通のはずなのに「男性も使えるよ!」ってわざわざ書かないといけないんだな……。大事なことみたいなのでもう一度書いておきます。DV相談窓口、男性も使えます。
 
 相談せずに済めばいいけど、こういう知識があるに越したことはない。改めてそう思う漫画を読んだ。

政府広報:https://www.gov-online.go.jp/article/202402/entry-5667.html#column



本を買ったり、勉強したりするのに使っています。最近、買ったのはフーコー『言葉と物』(仏語版)。