お客さまの言葉にならない声を聞く。メルペイを支える、リモートUXリサーチについて。
こんにちは。メルペイUXリサーチチームの草野です。今回は、私たちのチームが今まさに取り組んでいるリモートUXリサーチについてお話しします。
メルペイの週次UXリサーチ
もともとメルペイのUXリサーチチームでは、お客さまと対面でリサーチをしてきました。週次リサーチでは、90分/人で4名の協力者にお越しいただきます。実際にユーザーインターフェイス(UI)を体験していただいて意見を聞いてきましたが……。自宅勤務が推奨されるこの状況において、リモート環境でUXリサーチを続ける方法を模索していました。
私たちのリサーチでは、まだ世の中にないUIを見せていくので、紙芝居的なプロトタイプ(InVision)を使うことがほとんどです。ですから、お客さまの操作にあわせて調査者が画面遷移を手動でサポートしたり、一通りの操作が終わったあとに、ひとつずつ画面を振り返ってインタビューしています。そこで、参加者と調査者とが、お互いに画面を操作できるということが重要になります。
こうした状況の中では、プロトタイプツールが備えている共有機能や、単純な画面共有だけでは柔軟性が足りないという課題がありました。そこで私たちは、Google Meet、Google Live StreamingとGoogle Remote Desktopを組み合わせ、リサーチ環境を整えることにしました。
リモートUXリサーチの仕組み
システムの構成は図のようになっています。調査用PC上にUIを表示し、参加者にはリモートデスクトップの機能を使ってChromeブラウザからそこに接続してもらいます。調査者の手元では調査用のPCを直接操作します。これによって、調査者と協力者が同じ画面を同時に操作する状況を作ることができます。
また、調査のやりとり自体はMeetでコミュニケーションをして、さらに参加者と調査者が操作する画面も共有します。Meetには録画機能もついており、加えて、Google Live Streamingを使うことで、社内のオブザーバーが調査の様子を自由に見ることもできます。
Google Live Streamingを利用する理由は、調査者やオブザーバーの入退室が参加者にみえなくなる点に加え、音声トラブルなども発生しにくく、参加者の気が散りにくい、トラブルになりにくいという効果があります。
セキュリティやプライバシーの観点から付け加えると、Meetの録画記録はアクセスを限定した場所に保存しており、ライブストリーミングのアクセスもメルペイのメンバーだけが見られるように制限しています。
調査に必要な誓約書などは、あらかじめ郵送しておき、サインして返送いただいたりしています。これについては、電子サインなどが使えないか現在検討しているところです。
リモートデスクトップによるリサーチの注意点
このようにして、仕組み的にはリモートリサーチができるようになりましたが、リモートリサーチにはさまざまなデメリットもあります。
まず、リモートデスクトップで表示しているので、フレームレートがだいたい5〜10fpsと低めで、かつ通信環境に依存します。また、PC上に表示したスマホ画面を操作するので細かい操作感が異なります。そのため、スマホならではのなめらかな操作感を確かめることは難しいです。
次に、対面よりは得られる情報は少なくなります。遅延がどうしてもあることと、聞き直しが増えることで、対面のときと比べて1.3〜1.5倍の時間がかかります。また、参加者のカメラ映像もフレームレートや解像度、画角の問題でボディランゲージや表情を読みきれないことがあります。
このようなデメリットがあるため、どのような用途の調査に用いるのか、また得られた結果をどのように解釈するかには、以下のような注意が必要です。
第一に、スマホならではのインタラクション・表現がキモになるときはこの方法は不向きです。実施するとしても、上述のデメリットによって、インタラクション・表現が乏しくなっていることを踏まえて結果を解釈する必要があります。
第二に、スマホではなくPC画面へ情報表示をしているので、より「読む」という意識が強まる可能性があるので注意が必要です。調査というだけで「読む」という意識は強まるのですが、対面のときよりも強まる印象を受けています。
第三に、文言に気づくかどうかが確かめたいときにも注意が必要です。お客さまの画面の解像度や通信速度に影響して文字の読みやすさや目の入りやすさが、実際より良くなる/悪くなる可能性を加味する必要があります。
第四に、お客さまの反応や感情を見たいときも注意です。先述したとおりフレームレート、解像度、画角の問題があるので、声色や表情の読みとりが難しくなっていることに注意して解釈する必要があるので、より注意深く声を聞くようにしています。
目的に応じて手段を選ぶこと
このように、リモートリサーチは便利な仕組みではありますが、すべてにおいて優れているわけではありません。ですので、リサーチの目的に合わせて、柔軟に手段を選ぶと良いでしょう。
たとえば、既にリリースされたアプリケーションを体感してもらうなら、お客さまのスマートフォンにアプリをインストールして使ってもらい、その様子を中継する方が優れています。他にも、画面遷移など含めプロトタイプの完成度が高いなら、プロトタイプツールの共有機能を使って参加者に操作してもらう方が良いでしょう。また、世の中にはいろいろなリモートテスト用のアプリケーションやサービスが提供されていますので、それを試してみるのもひとつの手です。
やり方の運用コストまでふまえて考える
新しいやり方を導入するときには、目的と手段について気をつけるだけでなく、日々の運用コストや、リサーチャー以外の作業コストも考えていくことが重要です。メルペイのリモートUXリサーチでは、基本的には、自社業務で使うサービスやツールをなるべくそのまま使えることを重視しています。また、参加者にも特殊な準備をせずにリサーチに参加できることを大事にしています(GoogleアカウントとChromeブラウザがあれば参加可能)。
これによって、メルペイのチームメンバーは、普段のリモートでのミーティングに参加する感覚でリサーチを見ることができます。また、参加者に対して、大量の事前案内や練習を課すことなく参加いただくことができます。
おわりに
上に述べたとおり、リモートでのリサーチにはさまざまな制約はあるのですが、メリットもあります。
たとえば、地域に依存せずいろいろな参加者にお会いしてお話を聞くことができること。パソコンを持っている人、リモートリサーチに参加できる人、という意味で参加者は絞られますが、それ以上に、対面でのリサーチより幅が広がり、参加者からお話を聞くのがさらに楽しくなっています。
今回の状況をきっかけに、対面でのリサーチやリモートでのリサーチはより柔軟に組み合わせることが、当たり前になると思います。ですから、今のうちにリモートリサーチに関するノウハウ、スキルを集め、仕組みの整備などを進めていくことが良いと、私たちは考えています。
また、リモートでの分析注意点や、レポーティングや結果を組織にどのように浸透させていくかなど、リモートならではの観点から学べることがあるでしょう。さまざまな点でうまく学びながら、環境変化に強いリサーチチームとなって、より良いプロダクト作りを支えていきたいと考えています。
執筆:草野孔希
解説図版作成:mnagao
タイトル画像作成: crema
編集: crema / taiyo