「お客さまと共に振り返る」メルカードのリリース後UXリサーチ
こんにちは。メルベイ Design チーム UXリサーチャーのtoyoです。
今回は、2022年11月にリリースされたメルカードのリリース後のUXリサーチについてご紹介します。
「連載企画:メルカードの舞台裏」として、メルペイならではのサービス設計や技術的チャレンジをまとめておりますので、あわせてご確認ください。
メルカードとは
メルカードは、「メルカリ」の利用実績等を元に利用限度額や還元率が決まり、申込みから利用時の即時通知、履歴確認、柔軟な清算管理まで「メルカリ」アプリで完結するクレジットカードのことです。
この「メルカード」のカード券面などのリアルなプロダクトデザインからアプリ内外でのUI/UXに関するプロダクトデザインまで、お客さまの体験に関わる「全てのデザイン」をメルペイのDesignチームが担当してまいりました。
以前の記事では、それぞれのプロダクトデザインのプロセスでどのようなデザインアプローチをしてきたかをProduct Designチームの視点からご紹介しました。
この記事では、こうして生み出されたメルカードのリリース後におけるUXリサーチの取り組みをご紹介していきます。
リリース後のUXリサーチ
今回ご紹介するメルカードリリース後のUXリサーチでは、お客さまが実際に利用する上での主観的な使い勝手や感性的な評価を捉えることを重視しました。メルカードは企画段階からUXリサーチャーが入り、スマホアプリのプロトタイプを使って何度も検証を行ってきました。しかしリリース前に「物理的なクレジットカードが手元に届く→メルカリアプリと紐付ける→実際にお支払いに利用し始める」という一連の体験を詳細に知ることはプロダクトの性質上難しい面もあり、リリース後に早期に着手すべきと考えました。
リサーチ後のUXリサーチの目的は大きく2点です。
❶については、前述の通りリリース前から仮説検証を繰り返し実施していたおかげで、ある程度の情報が社内に蓄積されていました。そのため課題仮説の検証というよりは、期待した体験をお客さまに提供できているのか?という観点での検証を重視しました。
❷については、「どうすれば未だ私たちが見えていないお客さまとメルカードのつながりを知ることができるか」と向き合っていく必要があると考えていました。そこで、お客さまの生活環境に染み出しはじめたメルカードを知るための営みとして、メルカードをお申し込み頂いたお客さまに日々のお買い物や支払いについて日記を書いてもらう調査を企画しました。(以降、日記調査と呼称します)
日記調査依頼〜デプスインタビューまでの流れ
今回は、お客さまの生活の中でメルカードがどのように染み出しているのか?を詳しく知ることを目的にしていたため、約6名のお客さまに日記調査+記録の内容を元にデプスインタビューをすることにしました。オンラインで記録をしてもらうためのツールの選定〜マニュアル(記録内容や注意事項などご依頼事項をまとめたもの)を準備してリサーチに臨みます。
①記録ツールを選定
主に3つの観点を踏まえ、今回はGoogle formを活用することにしました。
②自分自身で日記を付けてみる
約1週間程度、自分自身もメルカードを使いながら日記を付けてみました。実際に自分でやってみた上で、記録の負担感があるわりに活用が難しそうな項目を発見し記録項目を削除したり、疑問点をFAQに追加したりしました。またお支払い時の体験はすぐ忘れてしまいがちだけれど、レジの待ち状況や自分の急ぎ具合など自分も無意識に実は色々なことを考えてお支払いをしているということも、記録を通じて言語化することによって得られた新たな気付きでした。
③記録を踏まえてインタビュー項目の詳細化
デプスインタビューの予定日まで着々と追加されているお客さまの記録を眺めながら、PMや定量データの分析を担当しているメンバーと疑問点や「ここを深ぼって聞いてみたら面白そう!」という観点を議論しました。
「事前にこのひとはメルカードこんなお店でも使ってくれている!」逆に「全然使ってないなぁ。元々はメルカードにどんなふうなイメージを抱いていたのか聞いてみたい!」など内側から疑問がふつふつと湧き出てくる感覚があり、お客さまに会えるのがいつも以上に楽しみになりました。
お客さまと共に振り返る
インタビュー当日は、記録して頂いた日記を画面共有してお客さまと一緒に眺めながら、直近のお買い物やお支払いのことを振り返りながらお話を伺いました。
日記調査の効果を感じたこと
また、このようにお客さまと同じものを眺めながらインタビューすることで、一緒に考えながらリサーチする感覚に近いものがありました。例えば「あの時お店が混雑していて」「メルカードでタッチ決済できるか試したいと思った」などの実際の記録を見ながら、「どうしてこのお店でタッチ決済試そうと思えたんですかね・・・?(一緒に考える)」などと同じ描写を一緒に想像しようとする試みが、お客さまにじっくり思い出してもらう時間的な間合いや空気感のようなものを作りやすくなると感じました。生活のほんのいち場面だけ登場するプロダクトだからこそ、共に振り返るようなリサーチの態度が重要なのではないかと思います。
記録からこぼれ落ちるものにも目を向ける
今回リサーチの企画段階で、チームメンバーと日記調査の位置付けについて「記録はあくまでデプスインタビューのための補助材料として使うということ」と話しをしていました。しかし実際に記録が日々蓄積されていけばいくほど、何かそれだけで分析ができそうな気持ちにもなりました。そこで私が大切にしたことをご紹介します。
❶日記からこぼれ落ちるものもたくさんあるということ
普段日記を書いたり、家計簿をつけようと思って挫折した経験がある人もいるように、すべて記録することはとても難しいことです。記録が漏れていることは全く悪いことではなく当然のこと。記録していないことでも思い出したらなんでも教えてほしいと必ず伝えるようにしました。また日記調査以外にも共通することですが、一方的にお伺いするのではなく、共に思い出そうと、解を出すわけではなくとも一緒に考える空気感のようなものも大事だと感じました。
❷同じ記録内容でも意味が異なることもあるということ
同じお店で同じものをお買い物していている記録があったとしても、その人にとって意味が異なる場合もあります。例えば同じお店でドーナッツを買っている複数の記録。デプスインタビューで聞いてみると、1回目は「親戚の家に遊びにいく時用の手土産のドーナッツ」その人にとっては「家族の必要不可欠な出費」であり、2回目は「自分へのご褒美のドーナッツ」その人にとっては「娯楽費」でした。このようにデプスインタビュー前に眺めていた記録がインタビューした後には異なって見えるのも、今回やってみて興味深い点でした。
おわりに
今回のリサーチは、お客さまの協力によって実現できたものであり、改めてお客さまと共にプロダクトを作っていると感じられるリサーチでした。お客さまのわからなさを理解する、お客さまの言葉にならないものを理解するために、今後も状況に応じて色々なやり方を試していきたいなと思います!
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。