見出し画像

飼い犬に噛まれた話

【飼い犬に手を噛まれる】

【かいいぬにてをかまれる】
飼い犬に手を噛まれるとは、日頃からかわいがり面倒をみてきた者からひどく裏切られたり、害を受けたりすること。

 先日、リアルに噛まれました……

 あっ、一般的な意味では自分が飼っている犬に噛まれることから、部下や自分よりも地位や立場が下の人、面倒を見ていた人から歯向かわれることを言うのですが、リアルに飼われている犬に噛まれたお話です。

 ご近所にシベリアンハスキーが外で飼ってらっしゃる家がありまして、まぁ、優しい子なのでわりと近所の方とかが可愛がって話し込んだりしているのを昼夜問わず、よくお見かけします。

 僕はあまり関わらないようにしていたのですが、深夜、コンビニで買い物をした途中になんとなく話し相手が欲しくなるような、そんな日でした。

 ふとそのハスキーちゃんと目があい、向こうのなんとなく寂しげに見えたので二言三言話しかけたのですが、どうやら僕が持っていた仕事用の鞄に興味を示したらしく、僕もうっかりその鞄を「どうした? これが気になるのか」と差し出してしまったのです。

 酔っていたこともあって、そのあたり、普段ならやらないのですけれどね。僕は犬猫に勝手にエサをやることがダメなことや、玩具をあたえるのも良くないと知っていたのですが、まぁ、鞄ですからね。

 臭いを嗅いで、随分と気にいったのだなとと不思議に思いつつも、食べ物なんかは入れたりしていないので、正直、ちょっと興味ある程度だと思っていたんですよね。

 長年愛用している品だけあってぼろぼろなんですけれど、僕の匂いがついているので、それを確認する程度だと思ったわけです。

 あまり情が移るのも嫌なので、ほどほどにして帰るというのも、僕としてはこうした生き物との付き合いでは大事なことだと知っていたので、「さて、帰ろうかな、じゃあね」とその鞄を自分に引き戻したわけです。

 しかしこれがいけなかった。彼からすると差し出されたものを取られたと思ったのでしょう。

 がぶっと左手を噛まれてしまいました――やっちまったと思いました。”やられた”ではなく、これは僕が悪い。

 彼的にはそれなりに加減をしていたのだと思いますが、そこは大型犬、がっつり歯形が手に残りまして・・・その後、ひと月くらい消えませんでした。ちゃんと消毒もしなかったし、なにより自分への戒めにと。まぁ、年齢が年齢だけに、単純に回復力も落ちているので傷の治りも遅かったのだとは思いますがね。

 僕はその時慌てずに、自分の失敗を理解してそっと腕を引いて、そのあと顔を睨みつけて噛まれた腕を見せながあら「今のは痛かったよ。ほら、傷になっている」とハスキーちゃんに怒りました。

 怒ったといっても怒鳴ったり、脅したりではなく、痛がって見せて、やっちゃ駄目だよって抗議をしたのです。ハスキーちゃんはすぐに状況を理解したのでしょう。申し訳なさそうな顔を(あくまで主観)してくれました。

 僕はゆっくりと静かに後ろに下がりながら立ち上がり、ハスキーちゃんを怯えさせないようにして、その場を立ち去りました。

 さて、過日――久しぶりにその家の前を通ったのですが、ハスキーちゃんは僕のことをどうやら覚えてくれていたようで、僕と目が合うとすぐに目を伏せてしまい、申し訳なさそうな顔をしていました。

 いや、悪いのは僕なのだけれども、これはどうも気まずい関係になってしまったなと思いつつも、僕はハスキーちゃんに声をかけることなく、微笑みかけながらその場を通り過ぎました。

 ああ、犬でもちゃんと怒られたことは覚えているんだと、ちょっと関心をしたのもそうなのですが(あくまで主観)人間だって、まるで懲りない人もいるくらいですから、ハスキーちゃんはちゃんとわかってくれているんだなぁと(勝手な解釈)悪い気分ではなかったのです。

 先に記載した実際の”飼い犬に手を噛まれる”って話を思い出したので恥をかいたついでに書いてしまいましょか。
 高校生の時に放送部(実際には生徒会の事務局とならぶ放送局という組織)での話。僕をしたってくれていた後輩くん、後輩ちゃんがいたのですけれどもね。
 その後二人とも僕の手を離れて行ってしまいました。

 後輩君はマイクでしゃべるのが苦手で、初めてのお昼の放送のMCを担当した時に舞い上がってしまって、その様子を見て僕は笑ってしまったのです。僕としては、その様を笑いに変えてリラックスするものだと思ったのですが、後輩君は”哂われた”と感じたらしく、それからプライベートでは口をきいてくれなくなってしまいました。

 後輩ちゃんは逆に面倒を見過ぎたようで、鬱陶しくなったんでしょうかね。いや、それ以外にもあれこれあったようですが、その当時の僕にはまるで見えていませんでした。

 悪気がなくても相手の気分を害してしまい、良くわからないうちに噛みつかれちゃうっていう経験、皆さんもあるかしらね。なんにしても一緒にいなければならない部室(放送室)で口をきいてもらえないというのは、気まずい物です。

 実は最近もそんな話があったり、なかったりで思うところはいろいろあるのですが、それはさておき

 ハスキーちゃんとはこれからもうまくやっていけたらいいなと思っております。あったことはなかったことにはできないけれども、水に流すことはできるというのが僕の考えです。

 そして時間が解決してくれることもあるし、忘れてしまうこともある。実際、ハスキーちゃんに噛まれなければ、あの後輩たちのことはすっかり忘れていましたからね。

 こんなふうに思いだすきっかけが今あるってことには、ちゃんと意味があって、つまりは最近のそんな話も、僕にとってはこの先にまた選ばされるだろう人との付き合い方の選択肢をよりベターな方向に持っていくための経験になればいいと思っております。

 ただ、僕もそれなりの年齢ですからね。譲れないところはある。自分の正しさを押し付けるつもりはありませんが、そう簡単に曲げることもできない筋というのもあるし、理屈だけでは解決できないことを、悔いて改めるほどには芯が細くはないですから。

 改めて、あったことをなかったことにはできない。それをしてしまったら、都合のいい生き方に終始してしまい、楽しく死ぬことはできないだろうと、そんなふうに考えております。

 だかこそ、うっかり負ってしまった傷は、戒めの為にもしばらく眺めるくらいでちょうどいいのです。

 その噛み跡が消えるころには、何かひとつ学び取ることができるでしょうからね

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?