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【インタビュー#2】社員の目標は何?営業部長・月村瞬に見る「昇進のお手本」

麺屋たけ井は、2011 年 1 月 19 日に京都府城陽市にて、竹井光一氏によって創業された、 魚介豚骨系つけ麺を看板メニューとする麺屋である。2015年 3月26日には株式会社竹井として法人化され、2023年3月28日に株式会社壱番屋が全株式を取得し、連結子会社化 された。麺屋たけ井、株式会社竹井がここからさらに、どのような発展を望むのか、どこを目指し、何をしていこうと考えるのか。このnoteはそれを伝えるものである。

インタビュー第2弾は、株式会社竹井初の営業部長である月村瞬(つきむら しゅん)氏にその心得を聞いた。

Text by 藤原麗(株式会社悠愉自適)

株式会社竹井では、株式会社壱番屋が全株式を取得し、連結子会社化した際に明確化された役職がいくつかある。そのひとつが営業部長だ。いわば初めての営業部長職に就いたのが、月村瞬氏である。「出世競争」という言葉に表される「サラリーマンの目標は出世や昇進」とよく言われた時代は終わり、「出世お断り」と拒む若手・中堅社員が増えているというが、一般社員が昇進・出世を目指した場合、最も現実的な目標となるのが、営業部長のポジションであろう。2024年11月時点で、パート・アルバイトも含めると230人もの従業員がいる株式会社竹井において、経営者の右腕ともいえるその職務に就いた月村瞬氏とは、どのような人物だろうか。230人が目指す…かもしれない、目標のその先にクローズアップした。

スタート地点のR1店の前で

東京から香川、そして京都の麺屋たけ井へと来た、パティシエ

パティシエ時代の月村氏

「東京出身です。前々職はパティシエで、7年やっていました。こんなの作れるのかな?と想像するお菓子は、大体全部作れると思いますよ」

と話す月村営業部長。7年のパティシエ修行を経て、香川県に引っ越し、しばらくラーメン屋で働いたのち、次はどこへ行こうかと世の中を見渡したところ、京都に美味しいつけ麺屋があるという評判を聞き、京都に引っ越してきて、麺屋たけ井へ。そのまま就職して今に至るのだという。ノーベル文学賞を受賞した小説家、トーマス・マンは「若さとは自発性だ」という名言を残したが、ありし日の月村氏の自発性は、これぞ若さというべき行動力に満ちている。 

「出会う人すべてが師匠のつもりで、ちょっとでも学んで吸収しようと、やり方を見て、話を聞きながら、少しずつ自分なりに正解を見つけてやってきました。」

麺屋たけ井で働き始めた頃

「お手本」の心得

今年で勤続7年。幹部社員から、壱番屋の子会社を経て、営業部長という職務に就く。株式会社壱番屋で営業部長職を長年経験してきた南出社長が、何でも屋のようだった仕事内容を整理してくれたことで、自身の役割がより明確になった。それは、「社員が目指すところ、正解であり続けること」なのだと月村氏は言う。

「現場に出ている社員たちの目指すところというか、正解の姿を見せるのが仕事だと思っています。言葉で伝えるだけではなかなか理解につながらないと思うので、全社一丸となって取り組むべきことを体現していく。挨拶ひとつ、言葉遣いひとつ、私の言動が暗かったり粗暴だったりすると、皆がそれでいいんだと思って、倣ってしまいかねない。こうしていこうと自ら実践し、皆のお手本になることが、私の仕事です」

数多くある飲食店の中から、麺屋たけ井を選んで食べに来てもらうためには、これが一番美味しいと思うものを作り、気持ちの良い接客をして、食べて満足して帰ってもらい、そしてまた来たいと思ってもらうことが大事だということは、言うまでもない。その積み重ねによって麺屋たけ井は評価され、成長してきた。月村氏は営業部長として、旧体制から受け継いでいるスピリッツと、新体制で作り上げていくビジョンを、自分のあり方で伝え実現していくことを使命としている。

「もちろん、売上や経費の数値管理もやりますし、これまで同様に、店舗ごとの課題を見つけて解決することもやっています。麺屋たけ井は特にクレンリネスに注力しているんですが、色んな目で見てチェックすることで、新しい気付きが得られるので、店舗の巡回は必須です。現場では色んな問題が発生しますが、その課題が解決しないと、なぜできないのか、どうしたら解決するのか一緒に考えます。ただ、細かいところを言いだすとキリがないし、私はわりと細いことを言うタイプなので、介入しすぎないよう気をつけていますね。だからある程度大枠だけ決めて、任せることが多い。自分は仕組みをつくるのが役割ですね。」

社員旅行で行った石川県の加賀屋にて
社内コミュニケーションを大切にしている

営業部長を「目指してもらえる仕事」に

麺屋たけ井の店舗数は2024年11月現在で京都・大阪・滋賀あわせて10店舗、12月に和歌山県岩出市に直営店を新しくオープンすることになれば11店舗となる。竹井会長、南出社長も現場を回ることはあるけれども、メインで動くのは営業部長である。現在、その職務にあたっているのは月村氏ひとりだ。

「自分と同じポジションの社員が、あと2人は欲しいなと、私は思っています。今いる店長のなかにも、担い手になってくれそうな人もいますが、新しく社員として入ってきてくれる人のなかから、営業部長を目指してくれる人が現れることにも期待しています。数値管理や店舗管理だけでなく、直営店からフランチャイズへと新分野展開をしていくなかでは、これからウエイトを占めてくる仕事はフランチャイジー対応だと思います。」

複雑多岐に思える営業部長の仕事だが、どのような資質が求められるのだろうか?

「移動が苦にならないこと、初対面の人と話をすることが苦にならないこと、は大事な資質かなと思います。でもたけ井で働いていたら、お見送りでお客様と話すことがあるので、初対面の人と話す度胸もつくし、慣れで身に付くと思います。人が好きで他人に興味があることも大事かなと思ったんですが、私自身がそうかと言われると、どうなんだろう。もともと面倒見がいいタイプだと思わないですが、7年やっていたパティシエの現場は縦社会で、毎年入ってくる新人の面倒をみるのは先輩の仕事だったし、後輩の失敗は先輩の責任、目配り心配りの技量がないことが原因だ、と言われてきたので、そこで責任感を学んで身につけていったというのは、あると思います。
そもそも、私と同じタイプじゃなくていいと思うんです。アプローチの方法は人それぞれで、色々あっていい。大事なのは、会社のビジョンを実現していくこと。ビジョンを共有できて、その実現に向けて一生懸命がんばれることが、最も大切な資質ではないでしょうか」

「サラリーマンの目標は出世や昇進」とよく言われた時代は終わり、「出世お断り」と拒む若手・中堅社員が増えている、と冒頭で述べたが、その理由には「管理者の役割がよく分からない」「大変そう」が挙げられるだろう。そこで、株式会社竹井の営業部長、月村氏の1日を聞いてみた。


「日によってバラバラなので、決まったスケジュールは無いのですが、一例として、出社は9:00。南出社長がいつも朝一番に来ているので、コミュニケーションをとったり、事務処理をする。10:00、幹部が揃う時間に朝のミーティング。ほぼ毎日ではあるが、揃ったら流れでという堅苦しくない感じで情報の共有や問題点を雑談含めて話し合います。
それが終わったら、業者様との打ち合わせや物件確認など。物件情報があがれば、実際に現地まで見に行ったり、新店舗のメニュー撮影のスケジュール調整や、店舗から依頼されている事等を行います。
14:00頃から店舗巡回をし、店舗に行ったら社員面談やコミュニケーションを取り、改善点を見つけます。その後、新店舗の打ち合わせなどがデザイナーさんとあり、事務処理タイム。帰宅時間はまちまちで、平均すると20:00ぐらい。夜の営業を見に店舗に行く事も、もちろんある。夜に会合に参加して飲み会に行くことはまずない。社長の代行で行かされることもない、そもそも社長がそういうことをしない。事務処理などをしたら、帰宅する。帰宅してからも、仕事のことを考えていることが多いが、これはもう習慣というか、身についた癖みたいなものですね。」

多忙を極めていそうな営業部長の1日が、あまりにも健全すぎて、セールストークなのかと思うほどだが、これにはちゃんと理由がある。

「自分だから出来ているのではダメ。出来ないしやりたくないという仕事をしていたらいけないと思っている。ここもお手本だと思って、無茶な働き方はしない。そうじゃないと、だれもこのポジションを目指さないですよね。皆に目指してもらわないと困るので。ここでの仕事が、皆がやりたいなと思えるものにしていこうと思っています。」

是非とも催事に呼んでください!

月村氏は、麺屋たけ井に入ってから、仕事はずっと楽しいのだと言う。

「麺屋たけ井には、自分のアイデアがそのまま形になって世に出る、ダイレクトな面白さがあった。なんば店は、曲線になっているちょっと変わったのれんなんですが、それを提案したのは私です。どうでしょうって提案したら、面白いやん!ええやん、と竹井会長がすぐOKをくれて実現した。くずは店のメニューにある担々麺を考えたのも、私です。「ねとらぼ」という総合メディアサイトで、さまざまなエリアのラーメン店を紹介する日本最大級のラーメン情報サイト「ラーメンデータベース」から、2022年4月3日付で「最近評価の高いお店 大阪府の担々麺店」ランキングが紹介されたんですが、その時の1位に、麺屋たけ井くずは店の担々麺が選ばれました。自分で考えた商品が本当に美味しいと思ってもらえだろうか、というプレッシャーはありますが、こういうことがあるから面白いし、仕事は楽しい」

月村氏考案の担々麺は、麺屋たけ井くずは店限定のラーメン

それまでは現場仕事ばかりでパソコンには触ったこともなかったが、「パソコンできるようになっといた方がええで」と竹井会長に言われて、ちょっとずつ覚え、今では表をつくったり、パワーポイントで資料を作ったりすることが出来るようになったと、月村氏は言う。

「竹井会長には本当に感謝しています。大変な時も多かったですが、楽しい事も沢山ありました。麺屋たけ井を創業した方ですから、会長にしか答えてもらえないような事をいつも質問していましたね。
熱意を持って質問すれば、必ず熱意を持って答えてくれます。そして、熱意や情熱だけが成功のレシピという事も、会長から教えてもらいました。今もそうですが、会社のトップの方と近い距離に居られる事が、何よりも勉強になります。」

草津店のオープン日。会長、社長ともに現場主義で、
聞きたいことがすぐに聞けるほどに、距離は近い

「貝塚店までの立ち上げは全部自分が先陣を切ってやってきたけど、草津店からは人に任せるようになった。それもちゃんとしっかりと出来ているし、出来るようになりたいと思ってやることは、周りのサポートもあるし、それなりになる、なんとかなります。皆、組織体制が明確になって、個々の意識があがり、集中すべきことに集中できている。いい状態だと思います。」

そんな月村氏が、今後やりたいことは何だろうか。

「催事に行きたいですね。社員のみんなは普段、社内だけで完結する仕事をしているので外の世界に出る事が良い刺激になるんです。いつもの慣れた厨房ではなく、違った環境で仕事をすると頭をフル回転させるので普段の何倍も成長するんです。あとは単純に催事はお祭りみたいで楽しいんですよ。2018年の広島三越の催事に行ったのが最後かな? お声がかかれば、どこでも行くつもりです! 行きたいところで言うと、北陸かな。東海地方もいいですね。ウケるのかどうか、実地でやってみたい。
冷凍ラーメンもあるので、卸で置かせてもらうのも大歓迎。本店でしか使っていないスープがあるんですが、店舗で販売している冷凍食品、ネットショップで販売しているものは、それを使っています。興味をもってもらえるのか、贈り物やご自宅用でご利用してもらえるのか、気になります。」

働くことの目的のひとつに、生活資金を稼ぐことがあるのは間違いないが、稼げれば何でもいいというものでもない。お金には色がないが、自分がやってきたことで、自らが「自身の価値」を見出すからだ。出来なかったことが出来るようになった、人の役に立っているという実感があることは、自己肯定感をゆるぎないものにするし、目標をもってそれを実現していく達成感は、自信となって生涯、自分を支え、人生を彩る。その結果としての出世ならば、悪いものではないはずだ。社員のお手本になることが自分の仕事だと言う月村営業部長のあり方は、昇進のお手本でもあるのだと感じた。