相手の頭の中を推測する能力とは何か?


Twitterで上のツイートをきっかけにして、

・相手の頭の中を推測して話をすることの効用
・トランス誘導の際に使われるYESセットがそのトレーニングになる

という二点について連続ツイートをしたので、ここにまとめなおしておく。まずは相手の知識状態を正しく推測して会話することの重要性について述べよう。

◆◆催眠解説シリーズ◆◆
1. 相手の頭の中を推測する
2. トランス誘導はYESセットと暗示で構成される
3. 本当に効果が出るYESセットとは何か?
4. トランス誘導と日常会話

知識状態とは何か?

先ほどあげたツイートにおいて、アパガードMさんの母は「何故雨が降っているのに洗濯物を取り込まないのか?」と怒った。その背後には「雨が降っていること」「洗濯物が干されていること」の二点をアパガードMさんが既に知っているという前提がある。だが実際にはアパガードMさんはその二点を知らなかった。

ある人が何をどこまで知っていて、どこから知らないのかという状態を知識状態と呼ぶことにする。私たちは他者と関わるとき、相手の知識状態を推測する。

ぼくがある人に日本語で話しかけるのは、その人は日本語を理解できるし返答もできるだろうと推測するからである。これも相手の知識状態の推測といえる。このような簡単なレベルであれば多くの人は相手の知識状態を問題なく推測できる。

相手の知識状態を踏まえて会話をする

だが、先ほど例に挙げたアパガードMさんのようなケースになってくると話は違ってくる。アパガードMさんの母は、アパガードMさんの知識状態について誤った推測をし、それに基づいて発言したのかもしれない。そもそもアパガードMさんの知識状態のことなど考えもせずに自動的に自分の知識状態のみに基づいて発言した可能性もある。いずれにせよ、相手の知識状態を正しく推測した上でそれに基づいて適切な発言をすることには失敗した。

人にものを説明するとき、相手の知識状態を踏まえて発言することは重要だ。

説明を受ける側の知識状態を正しく推測して説明の言葉を選ぶ。相手の知識状態がよくわからないときには、それを確認するために「〜については既に知っているか?」などと質問する。

こうすることで相手に必要な情報を正確に選別し、わかりやすく伝えられる。自分の発した説明の言葉が相手の頭の中にどのように広がって受け止められていくのか?言葉を受け取る側の頭の中までフォローし、そこから逆算して言葉を発する感覚に近い。

また単なる説明だけでなく、人に何かものを教えるときも同様だ。教わる側が何をどこまで理解していて、どこから理解していないのかを、教える側が把握しておくことでわかりやすく教えることができる。

自他の知識状態の違いに注意を向けない人たち

ところが、相手の知識状態を踏まえて発言するということがうまくできていないケースはよく見かける。

たとえば、教育場面において、指導者が、教わる側の知らなさそうな専門用語を連発し、教わる側が推測で補いきれないほどたくさん、主語や目的語を省略しながら教えている姿をよく見かける。彼らは教わる側の反応もあまり見ないので、教わっている人たちがよくわからないという困惑した表情をしていてもそれに気づくことは少ない。

もう一つ例を挙げよう。

以前、ぼくが塾講師や家庭教師をしていた頃、中学生の生徒が書いた作文の中に「昨日、たけしがぼくに喧嘩を売った」といったような文が唐突に出てくるものをよく見かけた。「たけし」とはいったい何者なのか? 作文を書いた本人とどのような関係にある人物なのか? それは最後までわからないまま謎を残して文章が終わる。書いている本人にとってはたけしがどんな人間なのかは自明であっても、読んでいる側にとってはまったく未知の存在である。

知識状態の不一致に気づけず、あたかも自分の知識状態を相手も共有しているかのようにものを語ってしまうケースはよくある。

この作文を書いた生徒はまだ中学生であり、未発達なのでこういう文章を書いてしまうのかな、と当時は思っていた。だが、今になってみて、大人になってもこんな書き方、話し方を続けている人が多いとわかってきた。彼らは相手の知識状態を正しく推測し、それに基づいて必要な説明を行うことに失敗している。

トランス誘導練習を通じて知識状態の取り扱いを学ぶ

では相手の知識状態をうまく扱えない人に対してどのような教育が有効なのだろうか? 

これは悩ましい問いだ。これさえやればすぐに解決という楽な方法はない。

自分について思い起こしてみると、ぼくは塾講師や家庭教師という形で自分とは知識状態が大きく異なる子どもたちにものを教える経験を多く積んだことはある種のトレーニングになったと思う。

そして、それと共に、偶然、縁があって、ぼくは大学時代に催眠トランスの誘導技術の練習を趣味的にやり始めた。それが高じて今の本業につながってしまったわけであるが、このトランス誘導の練習を通じて養ってきたものが非常に大きい気がするのだ。特にトランス誘導技術の中でもYESセットと呼ばれる技術に深い関係がある。

YESセットはビジネス本などにコミュニケーションスキルとして紹介されたりもしている。だが、実際のところそれがどんな風に使われて効力を発揮するものなのか、本を書いている人間もよくわかっていないのではないか? ついそんな風に疑ってしまうような形骸化された表層的な技術紹介が多い。正しく理解し、実行すれば非常に大きな影響力を持つ技術なのだが、そこを理解している人は少ない。YESセットとは実際にはどのようなもので、どんな効果があるのか? 詳細を次の記事で述べよう。

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