トランス誘導と日常会話

以下では「トランス誘導を学ぶことは日常会話にどのような影響を及ぼすのか?」「日常会話の中でトレーニングするのではだめなのか?」といったあたりについて述べていく。

◆◆催眠解説シリーズ◆◆
1. 相手の頭の中を推測する
2. トランス誘導はYESセットと暗示で構成される
3. 本当に効果が出るYESセットとは何か?
4. トランス誘導と日常会話

YESセットは日常会話の中でも使える

YESセットはトランス誘導技術として開発されてきたものだが、日常会話の中でも普通に使える。意識せずとも日常会話の中で自然とYESセットを取るように話をする癖がついている人もいる。彼らの話は非常にわかりやすく、受け入れやすい。周りには多くの人が集まってくるし、彼らの言葉に影響を受けて行動を変える人も多くあらわれる。

一時期「オバマ大統領の演説は催眠言語を使っている」みたいな話が流行ったが、それも全く同じことだ。催眠は、YESセットも含め抵抗操作技術の宝庫である。有権者の心をつかもうと考えたときにそれを利用するのは自然なことだ。多分、オバマのバックにブレーンがいて、その辺をきちんと計算したスピーチ原稿を作っていたのだろう。もしオバマが何も考えずにそのような話し方をしていたのだとしたら、彼はもともと人の心をつかみやすい口癖を持っているということになる。

トランス誘導中のコミュニケーションはフィードバックがわかりやすい

日常会話の中でYESセットを使えるのであれば、わざわざトランス誘導の練習をせずともYESセットは使えるし、相手の頭の中を推測するトレーニングもできるのではないか?

この疑問はもっともなことだ。半分はぼくもその通りだと思っている。だからこそ、何も教わらなくても自然体でYESセットを駆使してしまう達人が世間には一部存在する。

一方で、たいていの人にとってはトランス誘導の練習を通過した方が圧倒的にYESセットのトレーニング効率が良い。

なぜならば、きちんとYESセットを組めずに相手との信頼関係(ラポール)が形成されないと、わかりやすくシビアにトランス誘導に失敗するからだ。トランス誘導の失敗は、被験者が暗示に対して反応しないとか、トランス状態に入らないという目に見える形で表れる。これは必ずしも悪いことではなく、自分の言葉がけに対して目に見える形でフィードバックがちゃんと返ってくるということでもある。

日常の会話だと、こちらが相手の頭の中を読み違えてイエスセットにならない外したことを言っても、相手からわかりやすい反応が返ってこないことが多い。だから、話している人間も外してしまったことに気づけずに修正、改善されないままである。

もともとコミュニケーションセンスのいい人であれば、日常会話だけでも、相手の微妙な反応の違いを読み取って、YESセットの能力を発達させられるのかもしれない。

だが、普通の人が日常会話をただ漫然としているだけでは、相手の頭の中の推測をする能力が発達しない。

下手なトランス誘導の被験者をやることに学びがある

またトランス誘導の練習というのは自分が誘導者になったり被験者になったりを相互に繰り返す。トランス誘導初学者の下手なトランス誘導も数多く受けることになる。この体験がとても貴重だ。

自分がトランス誘導を受ける側に回り、YESセットとして成立していない言葉に晒されるとつらい。とにかくその下手な誘導に乗ることができない。相手の言葉に対していちいち「違う!そうじゃない!」と内心でイライラすることになり、非常にストレスフルだ。目を閉じ、こちらからはあまり積極的に発言せず、相手の言葉を受け取ることに専念しているからこそ、その至らなさも強烈に感じ取ることができる。

YESセットが成立していない時の強烈な不快感を身をもって体験すると、逆にYESセットの重要性も身体感覚としてわかってくる。YESセットをきちんととることに対するモチベーションが高まる。人は本当に重要だと思っていることにしか興味と努力を向けられない。

これがトランス誘導ではなく日常会話の場合、自分が一方的にただ黙って話を聞く側に回ることは少ない。相手の発言に対して何らかの返答、リアクションをしなければならない。

そのため、YESセットが成立していない不快感を無意識レベルで感じたとしても、まずは相手に対して反応しなければならない。じっくり時間をかけて不快感の正体に目を向ける余裕がないないまま、ただぼんやりと「あの人との会話は不快」と感じるか、それすらも言語化できず、身体だけがその人との会話を避けたりすることになる。

人によって反応パターンが随分違う

YESセットのトレーニングを実際にやってみればわかるのだが、普通の人にとってはなかなか難しい。初めてやる人はだいたいみんな下手である。ある程度トレーニング量を積まないとうまくやれない。

これなら絶対にイエスが取れるだろうと思って選んだ言葉が、意外な形で否定されてしまったりする。被験者側の人には一つ一つの言葉に対して詳細なコメントをしてもらうので、彼らの説明で、え?そんな風に受け止めるの?と意外に思うことも多い。

この体験を通じて気づくのは、人間にはわりと共通する反応パターン、思考パターンがある一方で、人によって随分違う部分もあるものなのだな、ということだ。あまり気軽に自分と同じように相手も認識したり、考えたり、感じたりするだろうと思えなくなってくる。

そうやって徐々に「さすがにこのくらいであれば、そう大外しはしないだろう。ただひょっとしたら外している可能性もあるから、その時に備えて少し保険をかけておくか」という思考パターンを身につけていく。

トランス誘導はまじめにやるととても疲れる

トランス誘導をトレーニングとして行うとき、誘導者は常に被験者の頭の中で起きそうなことを推測しながら言葉を選び続ける。正直、かなり疲れる。ぼくはトランス誘導ワークショップを一日やった後、すぐに眠くなって寝てしまう。

ぼくが疲れはてて眠り込んでしまうぐらいだから、受講生も丸一日トランス誘導のワークをやっていればそれなりに疲れるようだ。地方から参加された方でもワークショップ終了後、東京の夜を楽しむでもなく、ホテルに帰ってすぐに眠ってしまう人が多いらしい。最終日はせっかくなので打ち上げの飲み会をやることにしているのだけど。

エリクソン催眠トランス誘導ワークショップについて

トランス誘導のワークショップについては、エリクソン系(現代催眠)のトランス誘導ワークショップをやっているところが他にあまりないらしく、北海道や沖縄など地方から参加しに来てくれる人も多い。だから、そういう人でも受講しやすいようにたいてい、年に一回、GW中の三連休でやっている。

2020年も年に一回のトランス誘導ワークショップを5/4~6の三日間でやる予定。毎年、ちょっとずつテーマや内容を変えているのだけど、今年は「アナロジーと催眠」「SMマトリックスと催眠」みたいなテーマも織り込んでいきたいとも考えている。さて、どうするかな。

トランス誘導ワークショップの詳細はこちら

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