本当に効果が出るYESセットとは何か?

以下では、信頼関係を構築するどころか破壊してしまうような表層的なYESセットと、実際に信頼関係(ラポール)を構築する効果を持つYESセットとの違いについて、実際のトランス誘導の具体例をあげつつ説明する。

◆◆催眠解説シリーズ◆◆
1. 相手の頭の中を推測する
2. トランス誘導はYESセットと暗示で構成される
3. 本当に効果が出るYESセットとは何か?
4. トランス誘導と日常会話

YESだけど信頼関係が壊れる言葉

YESセットというと、ビジネス本などで

「今日は天気がいいですね」
「はい」
「暑いですね」
「はい」
「そういえば、昨日も晴れてましたよね」
「はい」

といった感じで、何でもいいから相手がイエスと言えることを積み重ねればよいと表層的な説明をしている本がある。あれは多分YESセットの本質がよくわかっていない人が書いている。

こちらが「昨日も晴れてましたよね」と言ったとして「それは確かにそうだけど、天気の話題なんかには興味がないんだよ。早く話の本題に入れよ」と相手にイラつかれたとしたら、当然、信頼関係は構築されるどころか、破壊されてしまう。

信頼関係を構築するためにYESセットを用いるわけだが、だからといってYESセットを用いれば必ず信頼関係が構築されるわけではない。同じイエスを取ったとしても、信頼関係が強化されるイエスと、信頼関係が破壊されるイエスがあるのだ。もちろん、毒にも薬にもならないイエスもある。

ちなみにノーの時には基本的に減点になる。減点にならない形のノーの言わせ方(受容的なノーセット)というのもあるが、それは今回のテーマからはそれるので今回は説明しない。

重要なのは、イエスの中でも加点になるイエスをつなげていくことである。そうすることで信頼関係を構築することができる。

リアルタイムで頭の中にあるもの

ではどんなイエスを取れば加点されるのだろうか?

一つは、相手が今、リアルタイムでまさに興味を持っていることに寄り添う形でのイエスを取ることだ。

「目を閉じてください」
(目を閉じる)
「目を閉じると周りの風景は見えなくなります」
(はい)
「でも、耳はちゃんと聞こえていて、私が話しているのがわかりますよね」
(はい)
「体の感覚もありますから、今座っている椅子の背もたれの感触を背中に感じることもできる」
(はい)

これはトランス誘導の入り口なんかでよく使う流れになる。目を閉じた人は少し不自然な状態、視覚が制限された状態に置かれる。すると、当然、聴覚や体感覚へと意識が向きやすい。それをイエスセットを組み立てながらさらに誘導している。

一番最初にこういったエリクソン的な現代催眠の手法を学んだ時には、なぜこんな言葉がけがトランス誘導になるのかぼくもよくわからなかった。でも確かにこういう言葉がけを続けていくと人はトランスに入っていく。この辺は実際に体験を積んでいくと実感とともに納得できるようになる。

言われてみるまで気付かないが、言われてみれば確かにそうだと感じること

(先ほどのトランス誘導の続き)
「ひょっとしたら、言われるまでは気づいていなかったかもしれないけれども、あなたの手のひらがももに触れている感触もわかる」
(はい)
「ぼくたちは何かを感じながら、それを感じていることを忘れていることができる」
(確かにそう言われてみればそうだ)

こんな風に「言われてみるまでは気づかないが、言われてみたら確かにそうだ」というイエスも加点が大きくなりやすい。人間は、そういうものを受け取ると、ちょっとうれしくなったり、もっともらしく感じたりする。

不安や違和感などマイナスに見える思考・感情へのコメント

(トランス誘導の続き)
(ガチャ、扉が開く音がして他の人が部屋に入ってくる)
「今、扉が開く音がして、その気配から誰かがこの部屋に入ってきたことがわかります」
(はい)
「目を閉じているあなたにはだれが入ってきたのかはわからないけれど」
(はい)
「大丈夫です」
(はい)

誘導中に予期せぬ騒音、妨害が入るというのは良くないことだと思われがちなのだけど、実際は適切に対処をすればそんなことはない。その音に対して被験者がどんなふうに頭の中で反応するかを推測して、大外ししない言葉をかければいい。それでイエスセットになる。

多くの人は扉が開く音を聞いて「あ、誰かが入ってきた(もしくは出て行った)」「誰だろう?」という考えが頭の中に広がる。そういった自然に起こるであろう思考、感情、疑問を無視して触れないと、誘導者にかけられている言葉と被験者の頭の中で考えていることが不一致になる。だから、誘導者は被験者の頭の中で起きているであろうことに合わせて言葉をかける。

「今、扉が開く音がして、その気配から誰かがこの部屋に入ってきたことがわかります」というのは、今、まさに被験者が頭の中で気にしていることについてコメントしてやることであり、これもイエスセットとしては大きな加点になりやすい。

人によっては「私はトランス誘導されなければならないのだけど、外から入ってきた人の物音によって気が散ってしまっている」=「トランス誘導がうまくいっていない」と認識してしまう。だから、誘導者が積極的にコメントしてやることで「扉が開く音が聞こえる」=「トランス誘導に乗れている」と安心してトランス誘導に乗っていられるような道筋を作ってやるわけだ。

ここにはYESセットを少し踏み越えた暗示的要素が含まれている。しかし、ここまで十分にイエスを取り続けてきているため、たいていはこの「大丈夫です」という言葉をすんなり受け止めてくれる。こんな風にしてYESセットは機能する。

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