華やかな性器
先日、公園でジョギング中、チューリップが花壇に咲いているのを見つけた。その写真を撮って、またのんびり走り出したら、20年以上前、催眠療法の先生が僕を含めた生徒に語っていたことをふと思い出した。
植物というのは花という生殖器が上についていて、それは色とりどりで華やかで、注目を集めます。そして、栄養を取る根は土の下の見えないところに隠れている。誰も気づかない。人間の場合は逆ですね。ものを食べる口は上についていて、誰からも見えるところにあり、言葉を発して注意を集める。性器は下についていて、人から見えないように隠す。これが何を意味しているか……わかりますよね?(微笑)
なんだか意味深であるが、何を意味しているかと問われるとよくわからない。「わかりますよね?(微笑)」なんて言われても反応に困ってしまう。そんな当時の感想も同時に思い出した。そして、走りながら、結局、あの言葉の真意はなんだったのだろう?と20年後の今、また考え始めたのだった。
ところが、今のぼくが連想的に考えてしまうことといえば、下半身をむき出しにして、カラーペイントを施し、逆立ちをしながら街中を「植物スタイルじゃあ!」と歩き回ることぐらいである。結局、その言葉の真意についてはいまだにわからない。先生。生徒に対する期待のレベルが高すぎですよ。
ただ、ここから言葉の機能について改めて考えることはあった。
考えてもみれば、20年も前の師の言葉が、ふっと頭の中にありありと浮かんできて、まさにその話を聞いていた時と同じ気分になるわけだ。長い時を超えて、人の思考に影響を与えるって結構すごいことだ。
ぼくの心の中では、「華やかな性器の話」は「花」と結び付けられている。花を見るたびに、毎回とはいわないがたびたびこのエピソードが思い出される。ぼくは、美しく華やかな花を性的に眼差す人間になってしまったのだ。もう元には戻れない。
ある考えを他の物事と結び付けるというのは典型的な催眠技法であり、「リンキング(結合法)」などと呼ばれる。また、話を聞いている最中は緩やかに生徒は催眠状態に入っており、催眠誘導後も「花」をきっかけにして、その時の状態や思考、感情などを暗示的に誘発できる。これは「後催眠暗示」とも呼ばれる。
相手の中に何度も繰り返し考えてもらいたいこと、思い出してもらいたいことをインストールするためには、その人が日常的に一定のペースで目にするものや体験することなどと結び付ける形で話を組み立てるとよい。空とか、信号とか、ドアノブとか、トイレとか、食事とか。
あと、未完の状態の物事はずっと頭の中に残って無意識的に考えてしまうという「ツァイガルニク効果」も働いているだろう。いまだに「わかりますよね?(微笑)」の答えが見つからなくて、ずっと気になったままなのである。結局、先生の真意は何だったんだろうね?
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