【感想】映像の世紀プレミアム(17)「人類の危機」
映像の世紀って、一応全部作り終わったのかと思っていたら、なんとこの時期に新作登場。コロナ時代にかけて、この100年に人類が経験してきた危機を振り返るシリーズ。冒頭に1991年のフィリピン・ピナツボ火山が取り上げられたのは、一か国で起きた危機が世界中に飛び火するという、近代の特殊性を表すためだろう。ピナツボ火山による火山灰の影響で、太陽の光は遮られ、日本では80年ぶりの冷夏による平成の米騒動が生じたのだ。
コロナ危機に直面している人類への警笛としての1918年スペイン風邪・1929年の大恐慌・そこからの第二次世界大戦の流れはよく分かった。しかし、その後、話題は核の脅威になり、1962年のキューバ危機、1986年のチェルノブイリへと進んでいったのは、少しつながりが読み解けなかった。まあ、初めて知ったことも多かったけれど。
スペイン風邪の脅威から学ぶ教訓
コロナに立ち向かう上で歴史の教訓から学ぶために、頻繁に引き合いに出されるのが1918年に発生したスペイン風邪だ。今となってはスペイン風邪がスペイン発祥のものではなく、アメリカのカンザス州陸軍基地からのものであることは常識だ。ただ、戦争中でもあり、互いに弱みになるような情報は、ほとんど出回らなかった。中立国だったスペインの国王がインフルエンザになったところから、広まったスペイン風邪という名称。スペインにとっての汚点だ。
スペイン風邪を全世界にばらまいたのは、アメリカからヨーロッパに出征した兵士たちだった。狭い船内でスペイン風邪は瞬く間に広がった。アメリカからの兵士が初めてヨーロッパの土を踏んだフランスのブレストという港町は、スペイン風邪の蔓延する場所になった。そしてスペイン風邪は全ヨーロッパに広まり、また再輸入されてアメリカで爆発的に流行する。結局、全世界が集団免疫を獲得するまで3年、5億人の感染者を出し、死者は4000万人とも言われる。
当時も、今も、国家間の駆け引きゆえに、情報はなかなか出てこない。情報がうまく共有されず、人と人との行き来が激しい時代に流行病は一気に全世界を駆け巡ることになる。ひとつの国で感染症対策が成功したとしても、別の国で感染症がおさまらないと、いつまでたっても危機は去らない。
以前、「ショック・ドクトリン」を書いたジャーナリストのナオミ・クラインが述べていたように、この空気は他の人が吸っている空気とつながっているという自覚を全世界の人が持たないと、この危機は乗り越えられないだろう。(参考:【感想】NHK-BS1スペシャル コロナ危機 未来の選択「ナオミ・クライン~新たな“ショックドクトリン”を警戒せよ」)
スペイン風邪と同じようになす術もなく、多大の犠牲を出して集団免疫を獲得するところまで行くのか、それとも、人類が全体として100年前の教訓を学び取っているのかが試される。コロナは、人類が一致団結する最後のチャンスかもしれないと考えている識者は多い。(参考:【感想】BS1スペシャル コロナ危機 未来の選択「ジャレド・ダイアモンド~世界が連帯する“最後のチャンス”にせよ」)
大恐慌から学ぶ教訓
スペイン風邪のダメージから立ち直りかけた人類を襲った次の危機は、1929年にアメリカで起きた大恐慌だ。実に6000の銀行が倒産したという。そして、この影響は世界中を駆け巡ることになる。当時のアメリカの大統領、フーバーは何ら手を打つことができなかった。フーバーの後を継いだ大統領ルーズベルトは「ニューディール政策」を打ち出し、政府が経済活動に積極的に介入するという歴史を作り出した。
しかし、実際にはアメリカが大恐慌から抜け出せたのは、ヨーロッパで生じた第二次世界大戦だった。軍需はすさまじく、アメリカ経済は一気に建て直された。これは不吉だ。経済に陰りが見えると、政治家は戦争をしたがるというのは、どこの国も同じか。戦後日本も、朝鮮戦争の特需で一気に経済の立て直しに成功したのだ。
とはいえ、今や世界大戦は人類にとっての劇薬になろう。キューバ危機でも象徴的に描かれていたが、核を保有するようになった国同士の戦争は、地球を何度でも壊滅させてしまう力があるのだ。それを考えると、米国と中国のにらみ合いや、各国で生じる火花も大戦争につながるとは考えられないかもしれない。ただ、今回のコロナ禍における恐慌は、すでに100年前をしのぐものになっている。
今は、まだ感染症パニックが続いているが、経済的な危機が、このまま落ち着くとは思えない。この影響は世界経済に何をもたらすのだろうか・・・と暗澹たる気持ちにさせられた。その影響が、はっきり出てくるのはこれからだろう。世界の動きには要注目だ。そして、過去の歴史の教訓も忘れるべきではない。
(追記)コロナ禍だからこその、映像のプレミアム新作だったと思うので、これから先を見通す点で役に立ったのはスペイン風邪→大恐慌→戦争だった。でも、私の中では、いまいちつながりが分からなかったキューバ危機とチェルノブイリが超興味深かった。
キューバ危機の際に、アメリカ側では沖縄基地からソ連に向けての核弾頭発射命令が出ていたこと、ソ連側では潜水艦からの核魚雷発射命令が出ていたことは知らなかった。ともに現場の責任者レベルでの慎重な判断が無ければ、すでに世界は壊滅状態だったかもしれない。また、原発という化け物を持ってしまった人類が事故の前にいかに無力かも思い知らされた。
映像の世紀プレミアムのラストシーンでは、この100年でもたくさんの危機を乗り越えてきたのだから、今回もイケる!というポジティブなメッセージが送られていたが、チェルノブイリに見るように、実は危機は乗り越えられていない(先送り・放置)なのではないかと思ってしまったんだけど、それはどうなるのだろうか。
まあ、いずれにしろ映像の世紀が見られてよかった。このシリーズ好きだから。
大人のADHDグレーゾーンの片隅でひっそりと生活しています。メンタルを強くするために、睡眠至上主義・糖質制限プロテイン生活で生きています。プチkindle作家です(出品一覧:https://amzn.to/3oOl8tq)