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心理的安全性はなぜ重要か

企業という組織にとって、『生産性向上』は最も重要な概念と言っても過言ではありません。生産性の定義を改めて確認すると、

企業が投入した経営資源に対し、どれだけの成果を生み出せたかという効率の程度。計算式は「生み出された成果÷投入資源」です。

では、生産性向上に最も大きな影響を与える要因は何でしょうか?
実は、それ、しっかり科学で解明されているんです。

この記事を読めば、心理的安全性がなぜこれほど重要視されてきているのか、心理的安全性が生む効果の科学的根拠を理解して頂けると思います。

この記事は三人の登場人物の対話形式で進めていきます。
りお:若手人事担当
持続的に繁栄できる強い組織になるべく、あらゆることを探求し、人事活動に活かしていきたい若手人事。少し捻くれている。
としぞう:精神科医
個人の行動変容や組織全体の行動に詳しい精神科医
わたるん:仙人
複雑な事象を整理し正確に言語化してくれる。たまにしか出てこない。

りお:
最近、やたらと心理的安全性という言葉をよく耳にするようになりました。セミナーなどもたくさん開催されています。なぜこれほどまでに有名になっているのか、そもそも心理的安全性とは何なのか、理解していきたいと思います。心理的安全性とは何ですか。としぞうさん。

としぞう:
はい。心理的安全性とは「対人リスクをとっても大丈夫だと思えるチームの雰囲気」を指します。(Googleの研究の定義)

りお:
対人リスクって何ですか?

としぞう:
簡単にいうと、嫌われることへの不安です。
具体的には、人格を否定されるのではないか、自分が無知・無能・空気が読めないやつだ、ネガティブだと思われることへの不安です。

りお:
なるほど。つまり心理的安全性が高い関係性とは、『嫌われることを恐れずに言いたいことをお互いに言える関係性』であると言い換えることができそうですね。

としぞう:そうですね

りお:ちなみに、心理的安全性があると何がいいんですか?

としぞう:
心理的安全性は、生産性の向上、メンタル不調、離職・休職などの人の問題の根本的な要素であると言われています。
心理的安全性が高いチームでは、人はイキイキと働くし、成果も出るということです。

りお:確かに、嫌われるんじゃないかとか、無知・無能だと思われるんじゃないかという不安があるとすごく働きにくそうです。プレッシャー感じるし、やることに集中できなくなっていきそう。日本人、もともと自己肯定感低いし。
でも、嫌われることを恐れずに言いたいことを言えるだけで、本当に生産性は上がるんですか?ちょっと論理に飛躍がある気がしますし、これだけだと納得感が低いですね。

としぞう:そうですよね。それだけを聞くと色々な不安や疑問が出てくると思います。今回の記事では、本当に心理的安全性が組織の成果に結びつくのか、科学的な根拠と、そのストーリーをお話しできたら良さそうですね。

りお:よろしくお願いします!


心理的安全性の科学的根拠

としぞう:
まず、心理的安全性がこれほどまでに有名になった経緯をざっくりとお話ししますね。
心理的安全性が脚光を浴びるようになったのは、2012年にGoogleが公表した企業向けリサーチ『プロジェクトアリストテレス』からです。このプロジェクトの目的は、生産性の高い「効果的なチームの条件」を調査して、定義づけることでした。
Googleは昔、かなり難易度の高いIQテストを実施していたように、
当初、個人の能力やリーダーシップの力が正当化される可能性を念頭に置いて研究を進めていました。いわゆる“優秀な人“を採用できるかどうかがチームの成功に最も影響すると考えていたのです。
しかし、それは果たして本当なのかを証明するために、科学的にそれを解明しようという流れに至ったわけです。あらゆる仮説を立て、研究を重ねた結果として出てきたのが、『心理的安全性』でした。
Googleにとっては驚きの結果だったようです。しかし、統計的事実として出てしまったのだから、そうであると認めざるを得ませんでした。
つまり、個人の能力やリーダーシップにより統制されたチームは、心理的安全性の高いチームの生産性に及ばなかったということなのです。

りお:ちょっとまってください、つまりリーダーシップや個人の能力は成果を出すためにはそこまで関係ないということですか?
もしそうだとしたら納得いかないですね、Googleの場合、圧倒的に優秀な人がすでに集まっていますし、個人の能力はすでに担保されている、一人ひとりリーダーシップもかなりあるでしょう。前提条件次第では成立しない実験のような気もします。

としぞう:良い問いかけですね。
実際、研究では、チームをばらつきが最小限になるようにランダムに振り分けて、一方では心理的安全性を高めるようにしてみて、もう一方では何もしないでもらってその後どうなるかを数年にわたって見ていくという方法をとります。その中には、能力的どころかほぼ同じメンバーが含まれているチームもある中で、心理的安全性が高いチームの方が成果が出しているということが、統計学的な事実として証明された。
加えて、Googleだからそうなったんじゃないか?など疑問が出てきて、看護師や鉱山の現場、製造業やエンジニア集団、コロナ後の燃え尽き症候群など、他の組織や他の条件でも研究されていく中で同じような結果がどんどんと証明されてきた。心理的安全性だけでなく様々な要素が研究されていく中で、現在集まる全てのデータを集めていくと今のところ、心理的安全性を高めることがチームの生産性と一番関連が強いと考えることが最も確からしく、これからデータ量が集まったとしても結論がひっくり返る可能性はほぼない、という状態になっているんですよね。

りお:なるほど、とてもしっかり研究が積み重ねられているんですね。
Google以外のみんなも、本当にそうか?と思って色々研究した結果、どんどん同じような結果が出てくる。そうなってくると、信じがたいけど、信じるしかないですね。理論が重要なのではなく、実際のデータが示しているということに価値があるということがよくわかりました。

としぞう:
チームビルディングでこんな方法がいいのではないか?
こうあるべきではないか?論理的にそうだ。
など優秀な経営者がそう言っている、というケースは多いのですが、実際にデータで集めた研究は数少ないです。Googleの場合、最初は論理的に考えて「優秀な人を雇うのが重要だ!」と考えたけど、実際にデータを集めたところその仮説が覆された。それでも信頼できず、心理的安全性が高いグループとそうでないグループに分けて数年みてみるという、医学レベルに厳密に因果関係を調べる方法を試してみたけど、それでも心理的安全性が重要だとわかった。さらに、その他の多くの研究でも同じような結果が証明された。だからこそ、最近どんどん心理的安全性が重要だという考え方が広まってきています。

りお:ぐうの音も出ませんね。実際の論文も読んでみようかな。

としぞう:Google scholarで調べたらたくさん出てきますよ。

りお:心理的安全性がなぜ重要かということはとてもよくわかったけど、具体的にどうするかについても知りたいですね。

としぞう:それはまた、別の機会に是非話しましょう。

としぞう:少し余談ですが、そもそも統計の取り方自体に問題があるのではないかという疑問についても少し触れたいと思います。
プロジェクトアリストテレスは、数年間ぐらいかけて研究されたのですが、その中で使った方法がランダムに割り付けて前向きに比較するという方法です。もしかすると個人の能力の差があったかもしれない?などの疑問を解決する方法なんですけど、元々は医学で使われている方法です。
これまでの医学では科学理論で説明できるか?が大事だったんですけど、理論的に正しくても、実際に使ってみると効果がなかったり、理論的になぜ効果があるのかはわからないけど効果があったりすることが多くて、「これは理論ではなく、実際に効果があるかどうか?の方が重要じゃないか?」という考え方が出てきた。じゃあどうやって実際に効果があるのか?を客観的に調べるために開発された方法が「ランダムに割り付けて前向きに比較する」という方法です。実は私は大学でこの統計学を研究していたのですが、この方法がとっても大変だからこそGoogleが同じ手法を使うと研究に数年かかったんですよね。詳しくは下の記事とかわかりやすいので読んでもらえらば、わかると思います。

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