専門家に聞きました!ストレスと上手につきあう方法
厚生労働省が2019年に行った国民生活基礎調査では、47.9%が「日常生活での悩みやストレスがある」と回答し、ストレス問題は若年層に限らず社会全体に蔓延しています。
Mental-Fit代表の各務が心理カウンセラーであり健康経営アドバイザーでもある中井裕規氏にストレスと上手につきあう方法について伺いました。
「楽しい」ことをする
各務: ストレスに対して実際、どうようにアクションを起こしていくのかという話を伺います。例えばダイエットで言うと、ちょっと体脂肪が高いと思ったら食事制限するとか、運動をするというような解決策が容易に思いつくのですが、メンタルに関してはそこがなかなか難しいと思います。
ちょっとストレスが溜まっているなと感じた時に、例えばサウナに行ったり、山登りに行ったり、自分自身でストレスを発散する方法が分かっている人はいいのですが、あまりそういう事を普段からやられていない方もいると思います。そういった人は、実際にどのようなことを日常的に行なったり、ストレスを緩和できる状況にもっていくのか、具体的な行動としてはどのようなことがありますでしょうか?
中井: これはおっしゃる通り、自分のストレス緩和方法を知らない、あるいは日常的にやらない方が何か新しく取り組み始めるというのはハードルが高いことだと思います。新しいことってそれこそ三日坊主で終わってしまうこともあったりして、なかなか難しい課題です。
その中で、日常に取り入れるという意味では何かストレス解消のタネにということではなくて、純粋に楽しいことに取り組んでいただくのがいいのかなと思います。純粋に「楽しい」という経験はポジティブな感情を喚起させ、ストレスとの打ち消し効果となり、ポジティブ心理学の中でみられている部分でもあります。個人としては、まず「楽しい」ことに取り組んでいただければと思います。
人との関わりで心を支える
各務: 仕事のストレスはあるものの、コロナ前であれば、同僚やクライアントとの会食の中でストレスを発散できていた方も比較的多くいらっしゃったと思います。しかしこのコロナの影響で、その会食が自粛されるようになった瞬間、体育会系のバリバリの営業職の方がメンタルを崩すというようなケースも私の周りでも見られるようになりました。
そこで、中井さんのご専攻とも関わるところではありますが、コミュニティと関わることでストレスが増える可能性もある一方で、だからこそ減らせるストレスもあるのかなと思います。
中井: 古くから「ソーシャルサポート」というもので説明される部分が多いかと思います。ソーシャルサポートは、細かく言うと4種類に分かれますが、1番分かりやすいのは人と人との交流の中で心の支えを得られる「情緒的サポート」というものです。これは仮に職場で、他部署で直接的に仕事を助けてあげられないけれども、一声、声をかけてあげることで心が救われることがある。誰にでもしてあげられることなので、やはり「そのコミュニティ、人との関わりで心を支える」ということは非常に重要なことだと思います。
そうすると、やはりテレワークや在宅など1人で仕事をすると、そのソーシャルサポートを得るチャンスがなかなか少なくなります。少しずつコロナの緩和も進んでいると思うので、できるだけ何日か出社日を設けるなど、人と人との関わる機会を作っていただければと思います。
各務: ソーシャルサポートという観点で言うと、欧米では、カウンセラーが小中高から常駐していたり、あるいは教会など気軽に話ができるコミュニティ形成がしっかりしてる印象です。日本においてはコロナ禍かどうかに関わらず、そもそもそのコミュニティサポートという仕組みが機能していたのか、という点が懸念されます。
中井: 残念ながら、先ほどの例に挙がっていた教会のような、日本の地域レベルでのコミュニティは、今どんどん失われている状況だと思います。
地域でのコミュニティではなく、会社や仕事といった同じ目的を持った「機能的コミュニティ」ばかり形成されており、これについては日本はコロナよりずっと前から課題になっているのは間違いないと思います。
各務: 目的を持たないコミュニティがソーシャルサポートになり得るということでしょうか?
中井: そうですね。地域のボランティアに参加しておられる方は、比較的メンタルが健康な方が多い印象を受けます。
各務: 確かにボランティア活動やNPO活動も欧米の方が盛んなイメージはありますね。つまり個人に関しては、ソーシャルサポートが充実している環境の体制も必要ですが、そもそも日本人がそのコミュニティに入るというマインドセットがないという説も問題としてはありますね。
中井: これは何のエビデンスもなく個人的な印象ですが、日本は新しくコミュニティに所属するというより、そこに生まれたから、そこに所属しているという感覚が強いと思います。新しくコミュニティを作る・入るという感覚がもしかしたら弱いのかもしれません。
各務: なるほど、上京したりして別の地域に行くと、同じマンションのお隣さんでも話したことがないというエピソードがよくありますよね。そこでコミュニティが断絶される可能性があるということなのですね。
新しいツールを活用する
各務: 近年、自分の心の状況をつぶやくとAIが返答してくれるメンタルヘルスアプリサービスなどが増えてきていると思いますが、こういうような新しいメンタル系のサービスに関してはどのようなご所感をお持ちですか。
中井: 私はポジティブに捉えています。こういった新しいツール、新しいサービスがどんどん出てくるということで選択肢が広がります。AIチャット、チャットボットの方が素直に感情表現できる、という方はどんどん活用していただいたらいいと思います。逆にやっぱり生身の人間とやり取りする方が信頼できる、という方も多くいらっしゃると思います。そういった方は生のカウンセラーを利用していただく方がいいと思います。
各務: ありがとうございます。今お話にもあったいわゆる生身の人間のというところで、近年では一般向けのオンラインカウンセリングのサービスも増えてきましたね。
中井裕規|プロフィール
大学・大学院にて心理学を専攻。個人の内面の問題だけでなく、社会や環境を視野に入れたアプローチの重要性を感じ、専門学校にてソーシャルワークを学ぶ。社会福祉協議会、働く人のメンタルヘルスサポートを行なう企業(通称EAP)を経て、現在は大阪心理カウンセリング喜びを独立開業。「働きたい会社」と「働いてほしい人財」をつくるコンサルタントとして企業へのメンタルヘルス対策を実施。EAP社に所属する専門職への教育や、パーソナルカウンセラーなどとして直接支援にも積極的に活動。
【主な資格】精神保健福祉士、公認心理師、社会福祉士、認定心理士、産業カウンセラー、両立支援コーディネーター、健康経営アドバイザー