寿の大あんまき
大あんまきは、知立駅の名物です。
知らない人に説明するときは、
「回転焼きはガワで餡子を挟んであるでしょ、大あんまきはガワで餡子をくるっと巻いてあってね、」と言ったりしてます。
巻物のような見た目が献上品のようであり、
ドデーンとした姿は大衆的でもあります。
この大あんまきは、「リメンバー、病院祭」にも出てきました‥‥‥、って
イラストにちょっと出しただけですけど。
このイラストは、実際のできごとに手を加えて作成しました。
絵のモデルは母と私です。
左側の泣いてる女性が母で、右側のおばあさんが私。
ええ、逆ではありません。
それは20年以上前、母方の祖父のお通夜の日のことでした。
祖父はどのくらいの期間、入院していたのか思い出せませんが、病院での看取りとなりました。祖母はすでに他界していました。
母は6人兄弟で、曜日で担当を決めて病院を見舞っていました。 おじとおばと母は60~70代。決して動けない年齢ではないけれど、いくら近くに住んでいたとしても、なかなかできることではありません。
私は県外に就職していたので、両親や親戚よりも遅れて母の実家に着きました。
祖父母の生前と変わりなく、母とおばたちは台所に集まっていました。こういうときって何を話しているのでしょうか……
おばに挨拶をしながら台所に一歩入ると、箱いっぱいの大あんまきが無造作にちゃぶ台に置いてありました。人が集まるから沢山買ってきたのでしょう。用意がいい、さすが年の功、と持ち上げたのもそこまで。
「なんで、寿の字が入ってるの?」
おばたちはニコニコしながら、こちらを見ました。
「いいじゃないの、おいしそうだったんだから」
キッとこちらを睨んで言ったのは、うちの母でした。
元優等生のあなたがなぜ?
「気が動転して、慌てちゃったのよね」
とりなしてくれたのは、優しいおばたちでした。
「喪服着てても、お店の人は何も言ってくれなかったの?」
私も食い下がります。祖父の兄弟に見つかりでもしたらどうしましょう。
「○○(思い出せないけれど地元スーパー)で、箱入りになってたから皆で食べようと思ったのよ」
スーパーのレジだから、すんなりお会計できたと言いたかったようです。
おばたちも口々に、
「賞味期限が近いから、お店の人も売りたかったんだろうね」
「おじいちゃんも好きだったから、いい供養になるんじゃないの」
〝いい供養になる〟
これほど説得力あることばはありません。
案の定、箱はすぐに空になりました。「寿」の刻印は、台所から出ていくことがありませんでした。
さて、この絵柄のモデルは、
左の泣いてる女性が、カツラをかぶった私、
右のおばあさんは、意地悪なお姑さんではなくて、「今日の猫村さん」に出てくる「村田の奥さん」のようなサッパリしたおばさんをイメージしました。
私がサッパリと言えなかったので、代わりに言ってもらいました。
コロナ禍で帰省もままならないけれど、次の帰省ではお供えに大あんまきを持っていこうと思いました。