亡き母の記録①〜突然の電話

この記事からしばらくは、去年亡くなった母のことについて書いていきたいと思う。

2020年10月のある日、そろそろ夕飯を食べようかという時に、スマホに着信があった。知らない番号だったが出てみる。
「Mさんの娘さんの携帯に間違い無いですか?」
母の名前を言うその人は東京消防庁の救急隊員で、今から母を病院へ搬送すると言った。
正直驚いた。母とは半年近く連絡を取っていなかったけど、
『便りがないのは良い便り』
と思っていたからだ。それが一気に突き崩された。

私が高校卒業のタイミングで離婚した母は、自分の両親を看取った後、一人暮らしをしていた。兄弟姉妹とは疎遠だったし、子供も私一人なため、緊急連絡先は私しかいない。
私は内心動揺しながらも、救急隊員からの説明を受ける。
食欲が落ちているだけでなくお腹も張るので、自力でかかりつけの医院に行ったところ、そこでは手の打ちようがないと言われて、救急車を呼ばれたらしい。
「…K総合病院に搬送しますので、そちらからの連絡をお待ちください」

コロナ禍に大変なことになったなぁ、でもコロナじゃないだけマシかなと思いながら電話を切る。この時はまだ、母の病状がそんなにひどいとは思っていなかった。ただ、病院からの連絡があったらすぐに動けるように準備だけはしておこうと思っていた。

病院から連絡があったのは翌日だった。
消化器内科の担当医からの電話で、病状の説明は前日の救急隊員とほぼ変わらずだったが、お腹の張っている原因は腹水が溜まっていること、腹水の原因が何かを検査しているので、検査結果がわかる頃に病院に来てほしいことを告げられた。

数日後、私は新幹線で2時間半の距離を移動して、K総合病院へと向かった。
受付で来院の主旨を説明すると、数分後には担当看護師が迎えに来てくれて、母の病室へと案内された。
直接会うのは2年ぶりの母は、思っていた以上に年老いて見えた。
更年期の影響か、思わず涙ぐんでしまった私の手を母は取り、一言だけ
「ごめんねぇ」
と呟いた。
その言葉を聞いて、気持ちが落ち着いた私は、
「気にしなくて良いんだよ」
と言いながら、痩せて骨張った母の手を握り返した。

つれづれに書き連ねていきます。よろしくお願いします。