小説、手紙の全文

家の掃除をしていたら封筒に入った手紙を見つけた。以下はその全文である。


前略
最近よくあなたの夢を見ます。夢の内容は僕らが離れ離れになるというものです。どちらかが引っ越したり、あなたが他の誰かに取られたりします。僕は全ての夢において悲しくて仕方なくて泣くのですが、あなたは泣いていたり笑っていたりします。
ずっと一緒にいたいと願うから夢の中にまで出てくるのだと思います。
でも、夢の中でさえそれが叶わないのは、僕らが離れるのを知っていて、諦めているからなのでしょうか。
諦めているから、夢の中にまで一緒の時間を求めるのでしょうか。
変な時間に眠って変な時間に目を覚ます生活をしているのですが、あなたが夢に出た日は気分まで変になります。
一体全体どうしたらいいのかわからないですが、これはこれで気に入ってしまっている自分もいます。

僕らは遊牧民なのだと思います。時間だったり、運命だったりの流れに押し潰されないように必死に一緒になって居場所を移そうとするのです。
いつかは結局散り散りになるのは承知なのに、それでも共に居ようとする原動は何か凄いものですね。
一期一会という言葉があります。一度切りの出会いを大切にしようというものです。
僕もそれを心がけて生きようと思っていたのですが、あなたを知ってしまったせいで途端に難しくなりました。こんなに心地の良い居場所であるあなたを知ってしまったせいです。

季節はというと急に秋になりましたね。
風や雨の冷たいさと乾きに健康が削られる思いです。
私も最近風邪気味です。あなたもお気をつけてください。
もう一緒にいられる時間は長くはないのでしょうけど、会えてよかった。ありがとうございました。
敬具


この手紙を出した気もするし、受け取った気もする。

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