夜2時。私はなぜか目が覚めてしまった。体を起こしたダブルベットには、私の最愛の人が横たわっていた。 相手の寝息が軽く聞こえる程度にあたりは静かだった。 今日は私たちの記念日だった。だから旅行をプレゼントしようと思って、貯めた稼ぎを使って都会の遊園地のチケットと、その中にあるホテルの一室をとった。 今日の昼間は2人で遊園地を回った。普通の人みたいな行動をするのは好きではなかったが、彼女といるとそれも悪くないと思えた。 ただ、引っかかっていることが一つ。最後に乗った観覧車の中での
学校帰り。ボロボロのカバンを背負いながら細い道を歩く。脳内にシャッフル再生をかけて、浮かんだメロディーを普通より少し大きい声で歌う。 歌う片手間に色んなことを考える。今日はあの先生に怒られたとか、あの人をしばらく見ていないとか、そういった由もないことを思い浮かべては消す。消えると言うよりも消している感があるのは少し不思議だ。 木曜日はなんだかんだで一番きつい。四日分の疲れと明日も疲れなければという憂鬱を説得しなければならない。そういう日はなんだか気を衒いたくもなるものだ。そう
家の掃除をしていたら封筒に入った手紙を見つけた。以下はその全文である。 前略 最近よくあなたの夢を見ます。夢の内容は僕らが離れ離れになるというものです。どちらかが引っ越したり、あなたが他の誰かに取られたりします。僕は全ての夢において悲しくて仕方なくて泣くのですが、あなたは泣いていたり笑っていたりします。 ずっと一緒にいたいと願うから夢の中にまで出てくるのだと思います。 でも、夢の中でさえそれが叶わないのは、僕らが離れるのを知っていて、諦めているからなのでしょうか。 諦めてい
夜。中秋。喫煙所。 隣にいるのは前髪を目元まで伸ばした男。鳴かず飛ばずのシンガーソングライターであり、私の恋人。稼ぎなんてほとんどないから、私が養ってあげている。家は離れている。殴られてはない。 煙草を吸うのも彼だけで別に話すこともなかったので空を見上げると、空気が澄んでいて月がよく見えた。 「死んでもいいわ」 口が滑った。 「え、ダメだよ」 と、男。 そうだ。彼は学がないのだ。忘れていた。 もしもう少し教養があれば、夏目漱石と双葉亭四迷でも思い出してくれたろうに。 「わか
たけしというのは、毒魚を食べる人。 愛を仮初しか知らないので喜びとかも知らないけど、人を殺してる気持ちになっている。 内臓は血液の白湯バージョンではないことを知っているが、違う。