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小説、位には

夜2時。私はなぜか目が覚めてしまった。体を起こしたダブルベットには、私の最愛の人が横たわっていた。
相手の寝息が軽く聞こえる程度にあたりは静かだった。
今日は私たちの記念日だった。だから旅行をプレゼントしようと思って、貯めた稼ぎを使って都会の遊園地のチケットと、その中にあるホテルの一室をとった。
今日の昼間は2人で遊園地を回った。普通の人みたいな行動をするのは好きではなかったが、彼女といるとそれも悪くないと思えた。
ただ、引っかかっていることが一つ。最後に乗った観覧車の中でのことだった。おそらくゴンドラが天辺に登った時、彼女は私に言葉をくれた。
「素敵な旅行ありがとう。愛してるよ。」虚を突かれた、というよりまさぐられた様な感覚がして、私は何も言えなかった。
思い返すと、私達には日頃から愛を伝えあう習慣がなかった。それでも私は彼女を愛しているという実感が、自惚れが、どこかにあった。愛されているとも思っていた。ただ、今回の件で一気に不安になったのだ。
私が彼女を愛しているということは伝わっているのか。愛の言葉への返答もできないほどのものでしかないとは思われていないか。不安になった。

私は彼女を愛しているのだ。
人と言えば彼女である位に
漢字や文字が私達の為の物になる瞬間がある位に
会うのをやめた日に、やっぱり会いに行けばよかったと思うことがある位に
そのくらいに愛している。心の中では。
情けなくて涙が出た。それがさらに情けなく思えて、嗚咽になった。その嗚咽は彼女を起こした。
「どうしたの?」と声を掛ける声が聞こえた。
私はただ、貴方のことを愛しているのだと言いたかった。
カメラを向けられたら嬉しくなる位に
人にうっかりと自慢する位に
今までの大体の思い出は共に語り合いたい位に
愛しているのだと。涙は止まることを知らず流れ続けていた。
「ねえ大丈夫?怖い夢でもみたの?」
相変わらず優しい彼女の声が余計に辛く感じられる。伝えたいだけなのだ。
貴方のおかげで自己を肯定できている位に
助けたいし、助けられたい位に
愛を言葉にすると価値が下がりそうで、言うのを恐れてしまう位に
愛しているのだ。
閑散とした部屋には私の嗚咽と、彼女がそんな私の肩を抱き、叩く音が少しだけ響いていた。

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