人生ベストテン

角田光代さんの人生ベストテンを読んでいる。
表題作を読みたくて買ったので、さっそくそっから。

主人公はあとすこしで40歳を迎える女。
その数日前に予定された同窓会で、昔少しの間付き合った男と再会する。
主人公はその男とホテルに行くのだが、そこで主人公が男に語ることがもう
まさに私がずっと思っていた(今も)ことを代弁してくれているようで
溜飲が下がる思いがした。
以下、長いけど転記。

「あのさあ。会議とかあるでしょ。細長い机に、ずらりとみんなで座って、ああでもない、こうでもないとか話すじゃない。例えばの話、隣に座った二歳年上の男性社員が、何気なくコーヒーいれてくれたりさ、私の落としたものをさっと拾ってくれたりするとね、ああ、なんか中学生の時みたいって思うんだよね。中学生のときって、そんなことで人を好きになったりしたじゃない。(中略)
中学生のときって、なんていうかまっさらじゃない。妻帯者もいない、子持ちもいない、別れられない恋人のいる人もいない、ローンもない、貯蓄もない、みんなおんなじくらいなーんにも持ってないじゃない。私が隣の席の男性を好きになったとしたら、好きになってもなんの問題もないじゃない。そこにあるのは好きって気持ちだけじゃない」

ほんと、いつからだろう。
「その人」を「その人」だけで見られなくなったのは。
すでに、大学生ともなると
〇〇大学の、だのという付属がついてきたから、高校までかな。
いや、高校も〇〇高校の、がつくか。

本当に、嫌になるくらいこの手のものは蔓延していて、
私は地元の進学校出身なんだけど、いまだにそのことを言われる。
それもいい意味ではなく、ほとんどが悪い意味で。
「〇〇高校出たのにこんなとこで働いてるの」
「〇〇高校出たんだからこのくらいわかるでしょ」
そういうことを言ってくるのはいつも同じ人で、その人は地元で一番低い高校出身なんだよね。
私は、そんなこと抜きにしてもその人の能力は素晴らしいと思ってるんだけど、
そういったことを言われる度に、なんだか悲しくなってしまう。
そう言っている時のその人はとっても格好が悪いから。
まぁ、そう言わずにはいられないんだろうけれど。
それは分かる。私もだから。
私も美人だったり、スタイルの良い人の前で自分を卑下してしまうから。

話が逸れたな。
要は、いつから、人を好きになるのに「肩書のようなもの」が必要になったのか。
そうゆうところから、何かが歪んできてる気がする。
それほど顕著ではないにしろ、やっぱり結婚、子持ち、専業、兼業、旦那の収入等々で特に女は全く別々のステージになってしまうところがあって。

以前、今住んでいるマンションの前にいわゆる公団に住んでいたんだけど、
同じ職場の先輩が、これみよがしの偵察に来たことがあって、
その時も、前述した時のように、なんだか悲しくなってしまった。
あきらかに彼女は「自分より低い生活水準の人」を見るためだけに遊びに来てたから。
それはわたしなんかに微塵も興味のない彼女が執拗に「遊びに行きたい」を連呼していた時から分かっていたことだけど、
私は私で、「そういった時の人間はどういう振る舞いをするのか」という意地の悪い考えで家に招いたのだ。
彼女は特に悪びれもせずキョロキョロと隅々までに視線を這わせ、
納得したのか、後は自分の話をつらつらとし帰っていった。

こんなこともあった。
あれはまだひとりで行動できていたから、同棲していた時かな?
はたまた妊娠中だったかな。
同級生とスーパーでばったり出くわし、近々開かれる同級生のママ会に呼ばれた。
「一応一人一品持ち寄りだけど、全然買ってきたのとかでいいからー!」
と言われ、本当に出かける途中でスーパーに寄り、
げその唐揚げとお浸しのような総菜とノンアルビールを買っていった。
入ってみると、そこはドラマでしか見たことのないような完璧なママ会であり、見目麗しい総菜が所狭しと並んでいた。
会話も、このお惣菜はどうやって作るのだの、料理教室に通っているだの、アイシングクッキーを焼いたのーと写メを見せられるだので
久々にあの頃の、何も持っていなかった頃のわたし達の、懐かしい話ができると思っていた私は、そこでも悲しくなってしまったのだった。

この手の話は無限にある。
みなが必死で婚活に励んでいる時にひとり趣味に没頭していたこと。
その時に開かれた飲み会が、婚活の話ばかりだったこと。
誰一人として今、楽しんでやっていることの話をしなかったこと。
趣味の話をしたらそんなことやってる場合じゃないよ!と怒られたこと。

さすがに私も、結婚して子供ができた今ならそういった話にも乗ることはできる。
話したい内容もある。
でも。
本当に話したいのは、あの頃の、裸のままのわたし達の時のような、とりとめのない話なのだ。
〇〇くんが好きだった話。
漫画がおもしろかった話。
その時はまっていたものの話。
美味しかったコンビニのお菓子の話。
何がやりたくて何はやりたくないか。

たまにはそのずっとかけてる大人眼鏡、外してみませんか?

その眼鏡が、体と一体化してしまう前に。

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