ガラス色の季節
五月病と言われるように、何かと心が弱りがちな季節。心の弱い様を指して "ガラスのハート" なんていいますが、それでは五月は、猫も杓子もガラスのハートの季節です。
そんなこんなで、ガラスだったり違ったりするものについての雑談。
ガラスのオタマジャクシ
熱して液状になったガラスを冷水に落とす、すると沈みながら固まり不思議な形になります。オタマジャクシのような形の〜といわれる、このガラスの塊は "ルパートの滴" と呼ばれています。
ガラスの〇〇というと脆く儚いものを想像しますが、どうやらこちらは違う様子。
なんと、銃弾を打ち負かしてしまいました。
材質がルパートの滴なら、ガラスのハートは防弾仕様。毛が生えるどころの騒ぎじゃないですね。
しかしこのルパートの滴、しっぽのような部分は脆く、ペンチなどで潰してしまえるそうです。更に、一部分が割れると全体が破裂するように粉々になってしまいます。残念ながらハートへ加工するのは難しそう。
ガラスが冷水に落ちると外側が急激に固まりますが、内側はゆっくりと固まっていきます、すると全体が固まった時には、外側が内側に引っ張られる強い圧力がかかった状態になります。
これは、風冷強化という方法で作った、強化ガラスと似た状態なのだそうですが、表面のどこかが割れると、全体にかかっている圧力のバランスが取れなくなり崩壊してしまうのだとか。確かに、強化ガラスも割れるときは粉微塵になりますね。
体はガラスでできている
いくら硬くとも、壊れるときは粉微塵。やっぱりガラスは危うい存在です。もしも、自分の体がガラスで出来ていたなら、危なっかしくておちおち外も歩けません。
しかし世の中には、実際に体がガラスで出来ている人間が……いるかは定かではありませんが、体がガラスで出来ていると思い込んでしまった人々がいます。
それは、中・近世ヨーロッパで複数の例が報告された精神疾患によるもので、 "ガラス妄想" と名がついています。
この症状の記録がある初期の有名な例は、フランス国王シャルル6世のもので、二十代の半ばにガラス妄想を発症した彼は、自分の体が砕けるのを恐れて、鉄の棒を縫い付けた服を着ていたのだとか。
彼に限らずガラス妄想を発症すると、とにかく自分の体が割れてしまうのを恐れるようになるそうです。
変わった症例では 1850 年頃、ドイツはバイエルン王国の、アレクサンドラ王女のものがあり、彼女は "幼い頃にガラスのグランドピアノを飲み込んだ" という妄想に取りつかれ、何かにぶつかったり転んだりの拍子に、体の中でそのピアノが割れてしまうのではと、恐れていたのだそうです。
人間の想像力よ。
雨に咲くガラス
人間の場合、自分がガラスのようになったかは本人にしかわかりません。しかし植物の中には "あれ、ガラスになった?" と誰が見てもわかる者がいます。
それがこちらの "サンカヨウ"
なんてことのない白い花ですが、英語圏では "Skeleton flower" とも呼ばれており、その由来は雨に濡れるとわかります。
まるでガラスのよう!
なんとも幻想的ですが、なぜこんなことが起こるのでしょう。
実はこのサンカヨウ、花びらは元から透明なのだそう。しかし光が通過するときに、花びらの細胞によって光が散乱するため、人の目には白く "見えている" のだとか。すりガラスの表面のような仕組みですね。
ここに十分な量の水分が染み渡ると、光の散乱が起こらなくなり、透明に見えるようになる、という仕組みなのだそうです。
透明なサンカヨウを見るためには、花びらが散らない程度の長雨と、短い開花期間が重なることが条件で、実際に目にするのは中々難しいようです。一度は見てみたいものですね。
おわりに
ガラスといえば、ガラスペンという物がずーっと気になっています。
ものを書き終える時の常套句に "ここでペンを置く" というのがありますが、あれをガラスペンでやったなら……
想像するだけで、心が晴れるというものです!
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