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今夜パパに内緒で#3 愛について(下町兄弟/WAR WAR! STOP IT)
医者から「頑張らないようにね」と言われています。
主にそれは労働について。
というのも、今働いているのは、休職→退職からの再就職だから。
復職した人は時短勤務するのが一般的だから。
なのに私は、中間管理職みたいな役割を振られそうになっています。
それに、頑張らないように、と言われても、仕事の裁量が私にどれほどあるのかという話です。
がんばらないことをがんばらないと。
なんだか駄洒落めいて、よく分からないことになっています。
今の気分は、「労働@がんばらない」です。
下町兄弟/WAR WAR! STOP IT
第三回で紹介するのは、下町兄弟の「WAR WAR! STOP IT」です。
下町兄弟は1992年に結成された日本のラップユニットです。
本楽曲は、テレビアニメ「ビーストウォーズ 超生命体トランスフォーマー」のオープニングテーマです。
このアニメがアメリカ・カナダ製作で、日本への輸入時に音響監督の岩浪美和の提案により、アドリブ満載のコメディ色強めなものに脚色されたことは有名な話ですが、ここでは省略します。
兎に角、この楽曲には、アニメの曲として出会った人が多いことでしょう。
しかし、私がこの曲を知ったのは去年のこと——すなわち、私はアニメ経由で出会うという「一般的」なルートを経ていないのです。
というのも、私の住んでいた地域ではこのアニメが未放映だったから。
私はこの曲に、ある芝居のエンディング曲として出会いました。
その芝居は、コンプソンズ #11「愛について語るときは静かにしてくれ」。
タイトルはもちろん、レイモンド・カーヴァーの小説のパロディでしょう。
この作品は割と評判で、例えば演劇ジャーナリストの徳永京子氏は昨年の総合No.1に挙げています。また上演台本は、岸田國士戯曲賞の候補にもノミネートされました。
日本劇団協議会機関誌「join」の「私が選ぶベストワン2023」に回答しました。去年の総合No.1はコンプソンズ『愛について語るときは静かにしてくれ』、No.1戯曲は南極ゴジラ『怪奇現象キューのすべて』、そしてノンジャンルNo.1に『シュレック・ザ・ミュージカル』を挙げました。3作とも早い再演希望! pic.twitter.com/q1SyPFk6IK
— 徳永京子 (@k_tokunaga) April 19, 2024
その戯曲にはある仕掛けがあり、今後再演もあり得るでしょうから詳述は避けるのですが、モティーフおよびテーマとして戦争が扱われています。
もちろんこの創作アイデアの源泉には、ロシアによるウクライナ侵攻があるでしょう。
小春 サブカルっていうのはな、何の政治性も、メッセージもない、刺激的 でエモいだけの、子供のおもちゃやねん。わざわざ消す必要がなかっただけや。
大介 そんな言い方すんなよ。辛い時とかさ、慰められたじゃん。
小春 その世代のやつらが何もせんでアニメと漫画とお笑いばっか脳に注入してヘラヘラしてたから……今、わけわからん時代なってんやろ!
小春の弟の大介は、先輩の岡田と「サブカルメメントモリ」という手製のラジオ番組をやっています。
その名の通り、在し日の文化=サブカルを悼むための番組です。
サブカル好きの彼らの口からは、数々のサブカルワードが飛び出します。それもまたコンプソンズおよび金子鈴幸の戯曲の特徴でもあります。
その手触りは、サブカルクソ野郎として生きている私にとって、とても小気味良いものでありました。
その作中で行われるサブカルの消費が特権的なものであることは、小春の「ヘラヘラ」という言葉からも滲み出ています。
ですが、彼らにはこれに縋る理由があるのです。
その縋りたくなる、縋らざるを得ないという情念が、伏線が、結実して一つの結末に向かいます。
当初はサブカルネタでくすくすと笑わされていたはずなのに、
日本の小さな部屋のなかの話を観ていたはずなのに、
気づけば観客である私(たち)は、どうしようもなく暴力的な、現代という時代の混沌に向き合わされていたのです。
静かにならざるを得なかった。掌が痛い、と気づいて、そこに突き刺さる自分の爪の鋭利さを思い知った。この指先で私はいとも簡単に他者を傷つけることができる。例えば、スマホの画面を打つだけで、罵詈雑言を書き込み、誰かを自死へと追い込むことができる今はじき、六畳程の部屋からクリック一つで人を殺し、国を滅ぼす未来に繋がっていく。
そのラストにかかる曲が、今回紹介する「WAR WAR! STOP IT」でした。
小春 ねえ大介。この曲でどう? サブカルメメントモリの新しいオープニング。
大介 えーと、これは……?
小春 知らんの? 私の母ちゃんと、あんたの父ちゃんの懐メロやで。
「愛には勝てぬから」
この言葉が、どれほど「祈り」として響くことでしょう。
世界の情勢は、この作品の上演当初よりも悪化しています。
10月7日、イスラエルは、ハマスによるテロを理由にパレスチナ自治区であるガザ地区への侵攻を開始し、その虐殺は止まる様子を見せません。
日々、目を覆い、耳を塞ぎたくなるようなニュースが飛び込んできます。
この曲が響く時代なんて来ない方が良かった。
そう思いながら、今回はこの曲を紹介しました。
一刻も早い停戦を。そう祈りつつ、いったん筆を置きます。
※今回触れた戯曲と評論は、演劇批評誌「紙背」2023年11月号で読めます。
Spotifyにて、このシリーズ「今夜パパに内緒で」にて紹介した曲を入れたプレイリストを公開しております。
では、来週もまたお会いしましょう。
See you soon…