短編小説「浮ついた友情、深夜2時の彼女との恋」
「また明日、会えるの楽しみ」
「そうだね、おやすみ、また明日」
「おやすみ」
彼氏との電話を切り、眠りにつこうとすると、
1通のメッセージが届いた。親友のあまねだった。
「起きてる?」
「起きてるよ」
送った瞬間電話がかかってくる。
私たちはたわいもない話で盛り上がり、幸せなひと時を過ごした。
「明日は何するの?」
「明日は彼氏と会うよ」
そういうと彼女はあからさまに落ち込んだ様子で
「そっかー、楽しんでね」
と言った。
あまねの気持ちは分かっている。
私も同じ気持ちだから。
私はあまねが好きだ。
またあまねも私のことが好き。
彼女とはそんな話は一切したことはないけど、口に出さないだけで、私たちが想い合っているのは明確だった。私たちは恋愛感情に性別という概念を持ち合わせていない。
気づけば時刻は2時にかかろうとしていた。
「ねえ、明後日は空いてる?」
「空いてるよ」
「泊まりに行っていい?」
あまねは恋人に言うかのように
甘えた声でそう聞いた。
「もちろん」
私は嬉しくて踊りだしそうなのがばれないように、淡々と応える。
「また明後日、会えるの楽しみ」
「そうだね、おやすみ、また明後日」
「おやすみ」
彼女へのおやすみの方がなんだか寂しくなる。
彼氏には甘えたい。
あまねには甘えられたい。
どちらも本当の私だ。
そして二人とも大好きだ。恋愛として。
これは浮気というのだろうか。
恋人がいながら、他に恋愛対象の人物がいて、その人と毎日のように電話をしたり二人で出かけたり、家に招いたりしている。普通なら、相手が男性なら、これは完全な浮気だ。いや、恋愛感情がある時点でもう浮気なのだろうか。
だけど私と彼女の関係性は”同姓の親友”。
この珍しい状況に分からないと答える人の方が多いかもしれない。
仕事から帰り、そんなことを考えながらインターホンが鳴るのを待つ。今日はあまねが来る日。
ふと気づく、彼氏と会った昨日よりもソワソワしてワクワクしている。あまねが来るのを楽しみにしている。今は、彼女との時間が私にとって一番幸せな時間なのだ。本命の彼氏よりも。
あまねとはお互いの恋愛観についてなんて話したことはないけれど、お互いの気持ちに気づいてはいる。それでもあくまで私たちはただの親友として関わっていた。それは、いままでもこれからも、そのつもりだった。
彼女が到着し、二人で幸せなひと時を過ごす。たわいもない笑い話をしながら楽しくお菓子を食べお酒を飲んで盛り上がった。
「ねえ、なんでこんなに楽しいんだろう」
あまねが言った。
「さあどうしてだろうねぇ」
「ほんと、最高に幸せ」
「私も」
盛り上がりがひと段落して、落ち着たしっとりした時間が一瞬流れた。時計の針は2時を指す。
あまねは私にキスをした。
彼女の唇は驚くほど柔らかかった。
私は一瞬驚いたが、すぐに彼女を受け入れた。
大きな可愛い瞳が上目遣いで私を見つめる。私は彼女の瞳に完全に吸い込まれてしまった。もっと彼女に触りたい、触れ合いたい。恋焦がれて苦しい。心に留めた好きだという気持ちがあふれていく。彼女からもそれが伝わる。それから私たちは快感に悶え、溢れる愛のままに触れあった。
十分に幸福の時間が流れ、満足した頃、
まねは私にこう言う、
「愛してる」
私は何も言わずに、キスで返した。
寝る支度を済ませ、
落ち着いてあったかい紅茶を啜る。
あまねが恥ずかしそうに、
「幸せだね」
とはにかんだ。私は、
「愛してる」
ともう一度あまねの唇にキスをした。
これは立派な浮気だなと、隠しきれないほど高揚した気持ちが心地よかった。
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