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短編小説「恋の繰り返しが終わるとき」

『会ってみたいな』

SNSで知り合った彼。
何となくで続いたメッセージのやり取りでついにこの展開へ。
元彼と別れてから約1年、当たり前に出会いもないし、まあ1回会ってみてもいいかと思った。
「いや、待てよ。」
やり取りの内容を思い出して、よく考えてみた。
「体目的の可能性あるよなぁ、やめとこうかな」
でも、そうじゃないかもしれないし、年下だし、雰囲気いいし、まあ、それ目的でも、いいのではないかと思った。彼氏がいるわけでもないし、ちゃんと付ければ問題はない。まあ無理やりされたときにちゃんと逃げる覚悟を持っておこうかな。

『会ってみる?』

指定された時間と、場所と、少し遅れてきた彼の見た目で、危惧していたことが現実味を帯びていた。
「おまたせ、行こうぜ」
ああ、この感じ好きなタイプだ、と会って一瞬にして感じた。典型的な私のドタイプの男のそれだった。

だから、付き合うのはなしだと思った。

楽しくおいしくディナーを満喫した金曜日の21時過ぎ。彼のその気を感じてきているとはいえ順序は守りたかった。
「じゃあ、帰ろうか」
そういう私に、彼は、
「まって。もうちょっと一緒にいたい」
ずるいと思った。ずっとクールにすかしてたのに、いざとなったら、甘い。
私が落ちないわけがなかった。
「じゃあどこ行く?」
「…。休憩しない?」
「いいよ」
いつの間にか、相手のペースに飲まれて私もその気になっていた。


「来週も会えたりする?」
椅子に腰かけてタバコを吸っていた彼が先に口にした。
「私も同じこと言おうとしてた」

そして私たちは週末はほとんど一緒にいるようになった。するだけじゃなくて、テーマパークに行ったり水族館へ行ったり、デートらしいこともした。

「ねえ、俺たちって何なの?」
「友達でしょ」
「そうか」
彼が欲しい言葉がほかにあることは分かっていたが、言わなかった。
彼に恋愛感情が1㎜もないわけではなかった。ただ彼と付き合ったら、きっとつらい思いをすると思った。きっといろんなお友達がいるだろうし、何より私にはもう彼みたいな、女の子とたくさんつながりがあるような男は向いていないことを分かっていた。このままの関係が心地よかった。

「俺はさ、彼女にしたいと思ってるよ」
「そっかありがとう、うれしい。」
「なっては、くれない?」
「そうだなぁ、私はこのまま友達がいいと思ってるよ」
そんなことを言ったらもう会ってくれなくなるかなと思ったけど、付き合うくらいならそれでもいいと思った。

それと同時に私は成長したなと実感した。

 彼はあからさまに落ち込んでいた。
「そんなに落ち込まなくたって、一緒にいられないわけじゃないんだからいいじゃない」
「確かにそうだけどさ、好きな人とは付き合いたいって思うじゃん」
「付き合っちゃったら、もうほかの女の子とは遊べないよ?」
「遊ばないよ。今も会ってるのは、まいさんだけ」
「そうなの?」
「俺を何だと思ってるの?」
「遊び人ってところかな」
「サイテー」
「違うの?」
「違うー!」

「君みたいな男の子はね、女の子をだめにしてしまうのよ」
「まいさんは俺と付き合ったら、だめになっちゃうの?」
「そうかもね」
私はわざとめんどくさそうにあしらった。

「だめになってもいいと思うんだけど」
「いやだよ、もう諦めて」
「じゃあそれ以外の理由を教えて。だめになるからっていう理由以外の」
「ないよ」
「本当はほかに男いるとか」
「いないよ」


「じゃあ、どうしたら俺を好きになってくれる?」


「もう好きだよ」


言うつもりはなかった。彼のペースに飲まれて、勢いで言ってしまった。
彼は私から出た想像もしていなかった言葉に唖然としていた。

「そう、なの?」
「そうだよ。私、重いし、めんどくさいし、凄い寂しがりやだけど、それでもいいの?」
「いいよ、そんな女いっぱいいたし」
「やっぱり、遊んでるんじゃない」
「昔はね、今は違うよ」
「信用できないな」
「本当だってば、今はまいさんだけしか見てない」
「分かった。そんなに私のことが好きなら付き合ってあげる。」
「本当?」
「でも条件がある。」
「なに?」
「私を寂しくさせないこと。」
「俺、守れるよ。絶対寂しくさせない。」
そう言って彼は私を強く抱きしめてくれた。

これは、数年前に遊び人みたいな見た目の一途な青年に恋をした時の、今ふたつ隣で眠るその彼の寝顔を見ながら思い出した話。

私の繰り返した酸っぱいだけの恋愛が終わった始まりの話。


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