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中学生の頃のこと

僕は野球部に所属していた。野球は上手い方だと思っていた。
でも、扉を開いてみると、小学生の頃に少年野球に打ち込んだ同級生とは比べものにならないくらい下手な方だった。
小学生までの将来の夢は誰がなんと言おうと「プロ野球選手」だった。
ろくに練習もせず、体育でもさして目立つでもなく、家でスーパーファミコンで野球ゲームに毎日明け暮れていた。そんな人が中学に入学しついに思う存分野球に打ち込める。と思ったが扉を開けた先には、ついていくのがやっとの僕がいた。
毎日部活に行くのが憂鬱だった。
そして同じ学年での部員が25人くらいて、少年野球チーム3チーム分の経験者が集まった最強集団だった。
見立て通り強いチームに仕上がり、九州大会まで勝ち進んだ。
どうみても僕より上手い同級生もベンチ入りできなかった。
日々、同級生が脱落し退部していく中で、冷静な同じ部員の友達は、退部者が出るたびに「これで背番号をもらえる可能性が少し開けた」と言った。
当時のベンチ入り、いわゆる背番号をもらえる人数は15人まで。それに漏れると3年生最後の大会でも下級生と共に、観客席で応援することになる。
応援することは大きな問題ではないが、「背番号をもらえなかった駄目な先輩」の汚名はつけられるのは間違いないであろう。
そんなことを思った僕は2年生になる頃に退部した。
「根性なし」の汚名はこの時から付いていたんだと思う。
「諦め癖」よく言えば「見切りが早い」「努力しても叶わぬものには身を引いてしまう」そんな「僕」の始まりだったのかもしれない。

また、中学生になってすぐに「入部届」を出し、ユニホームの注文も出し、本当の扉を開ける前のやる気満々だったある日曜日のサザエさんが終わる頃、食卓で父と母と話をしていた。
父はこういった。
「野球なんぞやっても役に立たない。それより勉強に打ち込みなさい。才能があるわけではないんだから。キャッチボールをしても対してすごくはないだろう。投げては、受け手のグローブの遥か先にある駐車場の電灯にぶつけ壊し弁償したくらいノーコンだろう。本当に才能がある人というのは、本当に日本で数えるほどだ。そんなことに打ち込む時間があるなら勉強に当てなさい」と父は機嫌を悪くした。
少し酒に酔っていたのかもしれない。
でもそんなこと13歳の僕に判別ができるはずがない。
真に反対されたと受け止め、それはそれは甚だしい野球へのスタートだった。
元々よく泣く子ではあったが堪えきれず1時間は泣き続けたのを昨日のことのように覚えている。

こんなことを言うとなんだか情けないが、1学年上の先輩たちの時代は部員も10数名しかおらず、レベルもそんなに高くなかった。
たらればであるが1年違っていたら、もっとこの競争に入り込めて、モチベーションも上がり3年間続けられたかもしれない。

バブルが弾け、世間では「リストラ」という言葉が流行り始めた頃でもあった。
姉と兄は歳が離れており、僕が中学生の頃は大学生だった。学費、仕送りに多くのお金がかかった。母はストレスもあり浪費癖もあった。
家にお金がなかった。

ある時、毎月払う部活の部費に1,000円を回収される時、
「母に部費1,000円欲しい」と伝えると、本当に悲しい顔で、
「払える部費がないから、野球を辞めて」と言われた日もあった。
それも退部する引き金になったのだと思う。

当時は「男子は運動神経が良くってなんぼ。運動神経が悪い男子は絶対好きになれない」そんな女子たちの囁きが毎日僕の耳を痛めた。

それでもなんとか、存在していることを、なんとか窓際族にならないことを念頭に、なんとかして学校に居場所が欲しかった。

人を笑わせたい。と考えて生活すること。またそんなことを考える自分が好きだった。部活を辞めて、僕は「男子なのに帰宅部」という情けない立場を得て、かなり無理のある陽気なキャラで、多くの数を滑りながら、たまに取れる笑いをとることができて、1日が終わった眠る前の自分へ今日の評価を付けていた。
おおよそ素晴らしい日々ではなかった。

それでも友達には恵まれた。感謝している。一人でいるのが怖かった。
今でも僕を覚えてくれていて、Instagramなどの僕を見つけるとフォローしてくれる中学生時代の友達もいる本当にありがたいことだと思う。

高校をリタイアした僕にとって、中学は唯一の青春の1ページであり、たまに思い出すことがある。調子に乗っている躁状態の僕が現れると、「今思うと、あいつ僕のこと好きだったんじゃないかな」とバカな妄想をして勝手にテンションが上がってたりする時もある。いつの日もバカな僕である。
勉強もオール3、運動神経は良くない。

楽しかった小学校から、縛りに縛られた中学生活は楽ではなかったが、今も思い出すことが多々あり、先生にも友達にも恵まれ、楽しかった3年間だったんだなと今では思えている。
「今が辛くても良い思い出になるんだよ」と、拝啓を付けて14歳の僕に手紙を送りたい。

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