英語:askよりinquireの方が丁寧な理由
英語には「丁寧語」は存在しないと言われる。
確かに「ですます」を使って後付け的に丁寧にするようなシステムはない。
しかしformalとinformalの区別は存在する。
例えばaskとinquireで言ったら、後者の方が形式的だ。
つまり英語では「訊きます」と「お伺いします」のように、最後の「ですます」ではなく、「選んだ言葉」で丁寧の度合いが決まる。
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この違いがどこから来ているかというと、inquireなどの単語がフランス語由来で、長く宮廷で使われていた言葉だったからである。
前回の記事でも述べた通り、11世紀から14世紀に至るまでのおよそ300年間、英国宮廷ではフランス語が使用されていた。
北フランス(ノルマンディー)から英国(イングランド)に上陸した支配者が全員フランス語を話したからだ。
英仏百年戦争でフランス本土との関係が悪化した15世紀以降も、このフランス由来の語彙は残った。
何故なら当時のヨーロッパの共通語と言えばフランス語であったから、今日の日本人がやたら横文字を並べたがるのと同じ感覚で、上流階級の人達は好んでフランス語(あるいはその母言語であるラテン語)チックな言葉を選び続けたからだ。
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結果として上記のような語彙のダブり、そして区別が発生した。
意味がほとんど同じでもhelpよりassist、buyよりもpurchaseの方がフォーマルとされるのは、それらがフランス語由来、宮廷の言語だからである。
なのでフランス語が理解できれば、よりフォーマルな英語に親しめる。
逆に難しい英語を知っているのならば、フランス語の六割は理解できる。
そしてこれはフランス語と起源を同じくする、イタリア語やスペイン語にも通じる話だ。
「始まり」を意味する英語のcommenceは、イタリア語のcominciare,
「終わり」を意味する英語のterminateは、スペイン語のterminar,
なので、英語を深く知っているのならば簡単にわかる。
というわけで英語以外に、ラテン語由来の言語をやっておくことをお勧めしたい。英語の語彙向上にもなるし、何より世界が広がる。