システム思考とMERMAID記法による組織変革の動的分析
ジェラルド・ワインバーグが提唱したMOIモデル(Motivation・Organization・Ideas)は、組織変革を考察するフレームワークとして知られている。
本稿では、このMOIモデルをシステム思考の視点から捉え直し、組織変革を要素の単なる組み合わせではなく、相互に影響し合う動的なシステムとして理解するアプローチを考察します。
可視化の手法として、MERMAID記法による描画を行います。
MOIモデル
ワインバーグのMOIモデルは、1970年代に提唱された組織論のフレームワークであり、組織の成果を最大化するためには、動機づけ(Motivation)、組織化(Organization)、アイデア(Idea)の3要素が重要であると説く。個人の能力やスキルはもとより、組織全体のモチベーションを高め、効果的な組織構造を構築し、革新的なアイデアを生み出すことが、組織の成功には不可欠であるとされている。
システム思考
システム思考は、1950年代にMITのジェイ・フォレスター教授によって提唱された、複雑なシステムを理解するための方法論である。システム思考では、個々の要素をバラバラに分析するのではなく、要素間の相互作用やフィードバックループに着目することで、システム全体の振る舞いを把握しようとする。
MOIモデル×システム思考
従来のMOIモデルでは、3要素それぞれが独立した傾向があった。しかし、現実世界の組織は複雑に絡み合う相互作用を伴うため、要素同士が独立して機能することはない。
そこで、MOIモデルをシステム思考のレンズを通して捉え直し、3要素が互いに影響し合う動的なシステムとして理解することを試みている。
フィードバックループの役割
システム思考におけるフィードバックループには、正のフィードバックと負のフィードバックの概念がある。
正のフィードバックは、ある変化が他の要素を強化し、その影響が戻ってくることで変化が加速する。例えば、従業員のモチベーション向上施策(Motivation)を実施した結果、組織全体のコミュニケーションが活性化し(Organization)、それが新たなアイデアの創出を促進する(Idea)。そして、そのアイデアが成功することで、さらに従業員のモチベーションが高まる、といった好循環が考えられる。
一方、負のフィードバックは変化を抑制し、システムの安定をもたらす。例えば、新しいアイデアが既存の組織構造と摩擦を生み、アイデアの実現が困難になることでメンバーのモチベーションが低下する。これは、組織が新しいアイデアを受け入れるだけの柔軟性を備えていないことを示唆しており、変革を停滞させる要因となる。
MERMAID図による可視化
MOIモデルにおけるこうした動的相互作用を直観的に示す手段として、ここではMERMAID図を用いる。以下のサンプル図は、各要素間の影響を可視化したものである(「--」などで示される矢印の向きや実線・破線で、正の影響と負の影響を区別して表現している)。
graph TD
M["動機づけ(Motivation)"]
O["組織化(Organization)"]
I["アイデア(Idea)"]
NM["動機づけ低下"]
NO["組織硬直化"]
NI["アイデア停滞"]
L["リーダーシップ"]
E["外部環境"]
M -->|促進| O
M -->|促進| I
O -->|促進| I
O -->|構造化| I
O -->|影響| M
I -->|影響| O
I -->|具体化| O
I -->|促進| M
I -->|刺激| M
NM --> NO
NO --> NI
NI --> NM
L -->|影響| M
L -->|影響| O
L -->|影響| I
E -->|影響| M
E -->|影響| O
E -->|影響| I
この図に示されるように、MOIの3要素( M["動機づけ(Motivation)"] O["組織化(Organization)"] I["アイデア(Idea)"])は相互に絡み合いながら組織のダイナミクスを形作る。
組織変革への示唆と展望
システム思考を取り入れたMOIモデルの解釈が示唆するのは、リーダーが組織を変革するとき、要素間の相互作用を意識的にマネジメントする必要があるという点である。
たとえばイノベーションを促すには、新しいアイデアを単に募集するだけでなく、アイデアを実現可能にする組織構造の整備や、メンバーの心理的安全性を高める施策が欠かせない。つまり、動機づけ・組織化・アイデアという3要素が互いに正のフィードバックループを形成しやすい環境をつくることが重要である。
システム思考のレンズとMERMAID記法の可能性
ワインバーグのMOIモデルをシステム思考の視点から再解釈し、MERMAID図によってその動的相互作用を可視化を行った。
本稿で示した手法、「システム思考のレンズ×MERMAID記法」は、複雑化する組織の課題に対し、より包括的で効果的な変革アプローチを導き出すための、強力なツールとなる可能性があるので、この方法をより実践的な手法に洗練していきたい。
MERMAID記法はAIとの親和性も高く、より効果的なアウトプットの方法を昨日から試行錯誤しています。