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逆引きデザイン思考で読み解く思考法 - Airbnbを例に

具体的な事例を題材に、成功または失敗に至った経緯を逆順に辿りながら、デザイン思考の各プロセスを後付けで考察することで、その事業が顧客ニーズにどのように寄り添い、課題を解決してきたのか、あるいはそうでなかったのか、違う未来があり得たのか?を考察していく手法を検討しています。


逆引きという「問い」

新規事業の成功には、顧客中心の視点と課題解決への徹底的な取り組みが不可欠です。デザイン思考は、そのための有効なフレームワークとして知られています。

しかし、実際に過去の事業を振り返る際、結果論で語られがちで、デザイン思考の各プロセスがどのように影響したのか、具体的に理解することは難しいのではないか?

という「問い」から、本稿では、実際に起こった事象を起点とし、結果から原因へと遡る「逆引き」の手法を用いることで、デザイン思考の各ステップが、その事業の成否にどのように関わったのかを考察していきます。

デザイン思考について

デザイン思考は、複雑な問題を解決し、革新的なソリューションを生み出すための人間中心のアプローチです。一般的に、以下の5つの段階を経て進められます。

  1. 共感 (Empathize): ターゲットとなるユーザーのニーズ、感情、経験を深く理解するために、観察、インタビュー、調査などを行います。

  2. 問題定義 (Define): 共感の段階で得られたインサイトを基に、解決すべき具体的な問題を明確に定義します。

  3. アイデア創出 (Ideate): 定義された問題に対して、多様な視点から自由な発想で解決策のアイデアを出し合います。

  4. プロトタイプ (Prototype): アイデアを具体的な形にし、試作品を作成します。これにより、アイデアの実現可能性やユーザーの反応を早期に確認できます。

  5. テスト (Test): プロトタイプを実際のユーザーに使ってもらい、フィードバックを収集します。このフィードバックを基に、改善を重ねていきます。

本稿で用いる「逆引きデザイン思考」は、このプロセスを逆向きに辿り、過去の出来事をデザイン思考のレンズを通して分析する独自の手法です。

デザイン思考ストーリー(順方向)

デザイン思考の実践例として広く知られてるAirbnbを例に考察します。

  1. 共感: 創業者の二人は、デザインカンファレンスでホテルの予約が取れない状況に直面し、同様の悩みを抱える人々の存在に気づきました。彼らは、手頃な価格で宿泊したい旅行者のニーズ、そして空き部屋を有効活用したいという人々のニーズに深く共感しました。

  2. 問題定義: 彼らは、高額なホテル料金と、旅行者が求めるユニークな宿泊体験の欠如を問題として捉え、「手頃な価格で、現地の文化に触れることができる宿泊機会を提供する」という課題を設定しました。

  3. アイデア創出: 自分たちの部屋にエアマットレスを置いて貸し出すというシンプルなアイデアから始まり、オンラインで空き部屋を貸し出すプラットフォームという革新的なアイデアへと発展しました。

  4. プロトタイプ: 必要最低限の機能を備えたウェブサイトを立ち上げ、実際に部屋を貸し借りできる環境を構築しました。写真の掲載を促すなど、ユーザー体験を重視したプロトタイピングを行いました。

  5. テスト: 初期ユーザーからのフィードバックを基に、予約プロセス、コミュニケーション機能、レビューシステムなどを改善していきました。特に、写真の重要性を認識し、プロによる撮影サービスを提供するなど、ユーザー体験の向上に注力しました。

逆引きで検証

Airbnbの成功を現在の視点から振り返り、もし過去の意思決定が異なっていたら、どのような結果になっていたかを考察します。

reverse5 テスト (Test): もし、初期段階のユーザーテストを軽視していたら

  • 使いにくいインターフェースや分かりにくい予約フローにユーザーが不満を感じ、早期に離脱。

  • ホストとのコミュニケーション不足によるトラブル多発で、信頼性の低いサービスという印象に。

  • 写真の重要性を見過ごせば、魅力的な物件が埋もれ、利用者増加につながらなかった。

reverse4 プロトタイプ (Prototype): もし、初期のプロトタイプが機能不全だったり、魅力的でなかったら

  • ウェブサイトのバグや不鮮明な写真、複雑な操作により、ユーザーがサイトの信頼性を疑い、利用を停止。

  • 使いにくいプラットフォームにホストが嫌気がさし、物件掲載を中止。

  • メディアや投資家からの注目も集まらず、資金調達が困難に。。

reverse3 アイデア創出 (Ideate): もし、既存の宿泊施設の枠組みにとらわれたアイデアしか出てこなかったら

  • 既存のホテル予約サイトとの差別化を図れず、競争の激しい市場で埋没。

  • 「ユニークな体験」や「地元の人との繋がり」といったAirbnb独自の価値を提供できず、価格競争に巻き込まれる。

reverse2 問題定義 (Define): もし、ユーザーの課題を表面的なものとして捉えていたら

  • 単なる安宿検索プラットフォームとなり、「ユニークな体験」や「コミュニティ」といった付加価値を生み出せない。

  • 旅行者が求める「その土地ならではの体験や地元の人との交流」といった本質的なニーズを見落とす。

reverse1 共感 (Empathize): もし、初期のユーザーへの共感が不足していたら

  • ホストと旅行者間の信頼関係を築けず、トラブル頻発、安全性に問題。

  • ユーザー視点に立ったインターフェースやサポート体制が整わず、使いにくいサービスに。

  • ユーザーはビジネスライクな取引の場としてしか感じられず、コミュニティへの愛着や帰属意識を持てない。

逆引きデザイン思考が示す思考訓練

本稿では、Airbnbの事例を「逆引きデザイン思考」という新たな視点から分析する手法についての考察しました。

過去の意思決定をデザイン思考のフレームワークに当てはめ、もし異なる選択をしていたらどのような未来が待っていたのかを考察することで、成功の要因だけでなく、潜在的な失敗の芽を認識する。これがこの「逆引きデザイン思考」が目指すゴールです。

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#デザイン思考
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柏木誠|プロジェクトデザイナー
アレとソレを組合せてみたらコノ課題を解決できるソリューションができるよね?と言うパズルをやるような思考回路です。サポートして頂いた費用は、プロジェクト関連の書籍購入やセミナー参加やAIの研究の資金にします。